PAPA
ギャザラー
攻撃や魔法といったバトルが得意なクラスではなく、採集などの作業に特化したクラスであり、アイテムを製作する上での『原材料』を採集出来る職業だ。 採集した原材料は主にクラフターと呼ばれる加工を主とする武器や防具やアクセサリーを作ったり、修理したり、料理や薬品を作ったりすることができるクラスの素材集めや金策と言って採集するための元手がかからないので初心者でもやりやすい金策職業になっている。
「えんや~こ~らやっとどっこいじゃんじゃんこ~らやっと……」
リーヴスラシルの天気は今日も快晴!!鉱石、草花、野菜や果実、はたまた木の伐採などなど採取中だよ!鼻歌も歌って気分もアゲアゲで頑張っちゃうぞ。
……ギャザラーのレベルを上げのコツは心を無にすることだと俺は思う。
戦闘職をメインとする戦闘民族であるプレイヤーはある種、この地味な単純作業は好まない。もちろん好きな者もいるだろうが俺はどちらかというと体を動かしてエネルギッシュに動かしたい派だ。しかし心を無にし、俺は機械なのだと言い聞かせればこんな作業は何ら苦では……苦では……
「ないはずあるかあああああ!!!!」
心の叫びが森に木霊し、目の前の樹木目掛けて持っていた斧を放り投げた。
「くそっ!必要素材がすべてレベル70じゃないと採取ができないと俺を殺しに来てるだろ!これだからリアル寄りのMMORPGは嫌なんだ!なんで採掘や採取をしなくちゃならないんだ!おかげでアイテムボックスパンパンだよ!」
毒づいた後、投げなければよかった思いながら投げた斧を取りにいき、再び指定の樹木の伐採を開始する。
あれから一日がたった午後1時。俺はウェイウェール森林の北部に位置する採取エリアにて金策とレベル上げを同時進行していた。
結局、マドレーヌから受けたクエストの《スレイプニヒルの討伐依頼》に関してはどこで出るかわからないスレイプニヒルを倒してから報告のクエストとなっているため、すぐには討伐には迎えなかった。またその討伐に向けてドレイクの指定した装備品を作成するための材料は現在確認されているリーヴスラシル内で採取が難しいといわれる鉱物となっており、レベル70になってもその素材をとるための装備を揃えないといけないといった装備更新の悪夢に囚われている。またリーヴスラシルで材料を揃えても今度はニザヴェッリルの材料を取りにいかなくてはならい。もちろん採取レベルは70からといった使用のためコツコツとレベリング中というわけだ。
「くそ!なんでアクションゲームで木こりをやってんだよ!謎すぎるだろ!」
カコーンといった気持ちの良い木を打つ音が森に響き渡る。LWOの採取には獲得力と技術力といったパラメーターがある。獲得力とはその名の通り、指定したアイテムを獲得する確率であり、技術力はそのアイテムを複数個獲得できるかといった数値である。勿論、その数値が高ければ高いほどアイテムを獲得する確率も高ければ、効率よく集められるというわけだ。これを利用して獲得した大量のアイテムをマーケットといったプレイヤー間で取引可能な市場に出して金を集めることができる。
俺は金は今はそこまで欲してはいないため目的の素材以外は格安にして売りに出してアイテムストレージを圧迫しないようにしている。
「しかし、この単純作業なんとかならんのか。もう朝からログインしてもう六時間たっているのにまだ30レベルって……」
画面端に表示される自身のレベルに絶望する。戦闘職も70までレベルを上げるのに一か月かかったのはもちろん。次のレベルに上がるための経験値がレベルが上がるごとに増えていくため途方もなく時間がかかるのだ。キサラギから採集職は70までの必要経験値は同じくらいと言われたときは軽く絶句した。大学もある中、限られた時間でのゲーム作業では時間がかかっても仕方ないが、早く装備が欲しい。ただそれだけだった。
「精が出るねえトウジ君。いやはや人の苦労を見るのは実に気分がいいな」
「おい、何一人で酒飲んでくつろいでいるんだよ。俺にもよこせ」
人がひいコラ言っている側で一人でラフな格好でテーブルまで出して寛いでいるのはネッ友のレドブルだ。
俺とキサラギが防具の更新でEXクエストに遭遇したと言ったときは食い付いてきたが条件が恐らく超越種の戦闘で何かしらのアクションを踏まないといけないことと、受注先のドレイクが今いないため受けることができない旨を説明するとすごく落ち込んでいた。勿論アルファにも言ったが、受注できないことを知ると『今度からおまえにつきまとからよろしく』とストーキングを宣言されてしまった。まあ確かに俺が唯一だといっても過言ではないEXクエストを持っているため、俺と一緒にいれば情報が入ると思ったのだろう。現在も姿は見えないが多分どこかにいるはずだ。
「そんな無駄口叩く暇があれば園芸師のレベル上げに専念したほうがいいんじゃないの?というか言っているだろ、効率的な方法があるからそっち紹介するって」
「いや!俺がその効率的な方法とやらを自分で見つけるまで何も言うな。タダでもらうものはもらうが施しを受ける気は一切ない!」
「いやそれどう違うんだよ……まあオレはレベルカンストしてるし気長に待つよ。かあああうめええ」
テーブルに広げられた酒におつまみ、五感を感じ取ることができるフルダイブだからこそ感じられる味覚というのはこのLWOでも大変人気で現実世界と何ら遜色ないレベルの料理や酒を楽しめるのだからそりゃはまるわけだ。もちろんここで食べたものが現実世界にの体に入るわけではないがこの前見た記事だとこのゲームのおかげでダイエットに成功した事例などもあるほどだ。そんなことはさておき、レドブルの言った効率的な方法も模索しながらもレベル上げに勤しむ。いったい何なんだ。この虚無時間は変わらないのにそんな劇的にレベルを上げる方法でもあるのか?
悶々とした時間が過ぎる中でふと、レドブルが声をかけてきた。
「なあ」
「なんだよ。まだ教えてくれって言ってねえぞ」
「いやちげえよ、あれNPCか?」
「は?」
レドブルは立ち上がっており、その指をさした方向には森の中だというのに白のワンピースに腰まで伸びた髪は漆黒に染まており、大きな瞳でこちらを見る少女が巨石の上に座っていた。その不自然さを感じたのはその足元だろう。ブーツや靴といった履物を一切履いておらず、まっしろな素足が露になっていたためだ。それとプレイヤーなら表記されるあるはずの名前が表記されておらずNPCだと気づくのは早かった。
「イベントNPC……だよな?けどここで発生するクエストなんて聞いたことがないぞ」
レドブルが何か画面を開いたようで空中で操作する。おそらく掲示板に乗っているクエストの詳細でも探しているのだろう。
「それじゃ俺たちが最初の踏破者ってことだろ。勿論受けるよな!」
「あれ?園芸師のレベル上げは?」
「そんなの後に決まってるだろ!こんな未知のクエストとかワクワクするだろ!」
「……ほんとはもう飽きただけだろ」
「……れっつごー!」
さすが数年来のネッ友だ。俺の思考をしっかり読んでやがる。
地獄の虚無時間から解放の兆しが見えたためすぐさまその少女に近寄った。
「やっほーお嬢ちゃん。今何してるの~」
「ナンパかよ」
「うっぐ……いいだろなんでも。話しかけないと始まらないんだし」
レドブルに冷ややかな目で見られながら反論する。するとNPCの少女に動きがあった。
先ほどまでずっと目が合っていたが動きがないため人形かと思ったが巨石から飛び降りると物理エンジンを無視した動きでふんわりと着地した。
「おいおい、いまのどうやってやたんだ?スキルか?」
「どこにツッコんでんだよ。いいから話聞こうぜ」
そう聞こうとした時だった。
「トウジ」
子供特有の高く澄んだ声立ちだった。
「え、あ、はい」
まさかの名ざし。レドブルから視線で『何をしたと』小声で言われ何もやっていないと答えていると気づけば少女は俺の目の前まで来ていた。
身長は140センチほどだろうか。俺を見上げるように肉薄した距離で、目を合わせると、オニキスのような瞳に吸い込まれそうだった。
「……えっとなんでしょうか?」
こちらに来て何も話さず見つめてくるだけのためこちらから再度アクションを起こす。
「パパを救ってくれるって本当?」
「ぱ、パパ?」
これまた予想外の反応に声が上ずり、聞き返した。
今までのここ一か月の記憶を思い返すが、この少女と接点となるイベントをやった記憶がない。レベリングでダンジョンにこもっていたし、それこそここ最近であったNPCなどドレイクなどのニザヴェッリルの連中に、68レベルまでお世話になった都市国家ティターンで店を構える鍛冶屋の姉ちゃんしか会っていない。『娘をたのむ!』といったイベントもなかったしここは情報を引き出すため会話をもう少しするか。
「えっと……パパってどんな見た目かわかるかい」
「……んーっと真っ黒な鎧に八本の脚があるよ」
「それって……」
「レドブル」
察したレドブルが言いかけた途端に手で静止させて目線で合図する。間違いなく《超越種スレイプニヒル》のことなのだとわかった。
おそらくそれに関するクエストとなるとEX、もしくはユニーククエストの可能性が高い。ここは採取場所として有名なため急いで場所を移動して話を進めたい。なんでかって?他人にバレたらアルファのような情報屋に付きまとわれるからだ。
あいつらまじでハイエナのごとく、どこまでも付きまとってくるから相手がめんどくせえんだよ。ここにいないことを祈って場所を移動しなくては。
「お嬢さん、ここではなんだしお兄さんたちにちょっとついてきてこれるかな」
「……」
「えっと……お菓子もあるよ?」
「っ!いく!」
完全に犯罪現場である。この娘もこの娘で知らない人について行ってはいけないと習わなかったのだろうか。
「もう犯罪現場だな」
「なに?お前は妖怪サトリか何かなの?」
いそいそとメニュー画面を扱うレドブルに心のうちを見透かされたかのように言われる。
「いいから場所を移動しよう。いつもの場所でいいだろ?」
「ああ、そうだな」
そう言ってレドブルは二つのアイテムを取り出し、一つを俺に渡す。
「転移場所はオレのハウスに設定している。さっさと移動しよう」
渡してきたアイテムを受け取るとそれは手紙型の転移アイテム。一回の使用で二人まで一緒に指定した場所へと転移することができる便利アイテムだ。
「アルファにはいいのか?アイツいるだろここら辺」
「あいつはもう何個も渡してるからな。いい取引相手だしな」
「ああ、さいですか。んじゃいこうか」
そう言って少女に同意を求めるとコクコクと頭を縦に振り、俺の空いていた左手を握ってきた。無表情でもどこかウキウキしているのか体がうずいているようだ。
そのまま俺たちは手紙型の転移アイテムを空に掲げて唱える。
「「転移、マイハウス」」
手紙がポリゴンとなって消滅すると、俺たちの体も淡く光ったのちに次元の渦へと飲み込まれ、その場から消滅した。
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