第3話:まじで言ってる?、ウソだろ?

僕と梨紅が付き合い始めて一週間くらいしてだろうか ひとし「田中君」が


「ちょっと来てくれ、話があるから」


って図書室に連れて行かれた。


「なに、話って?」


「小高、お前さ、道枝 梨紅みちえだ りく」と付き合ってるだろ?


「そうだけど、悪いか?」


「よっぽど黙ってようかと思ったんだけど・・・」

「どっちみち、すぐに分かることだから言うけどな・・・」


「お前、転校して来たばかりだから知らないのは分かるけど・・・

道枝って・・・あいつ男だぞ、・お・と・こ」


「え?・・・何言ってんの・・・バカバカしい・・・それまじで言ってる?、

梨紅って どこからどう見たって女じゃないかよ」


「男なんだよ、クラス全員知ってるぞ・・・知らないのはおまえだけだ」


「・・・・・」


「女だと思ってただろ・・・まあ普通はそうだよな・・・あいつ綺麗だもんな、

男の要素ゼロだし」

「知らなかったら誰だって道枝のこと女だと思うよ」


「悪いことは言わないから、今のうちに付き合うのやめとけ」

「男同士なんてありえないだろ・・・」


「またまた〜・・・僕をからかって・・・面白いか、そんなことして」


「バカだな・・・そう思うなら本人に確かめてみろよ、それが一番早いわ」


まじでか・・・梨紅が男?・・・名前だって梨紅って漢字・・・これって

どう見ても女の子の名前だろ?・・・梨紅が男だなんて僕は、にわかには信じられ

なかった」


僕と梨紅りくは下校途中にある緑地帯のはずれにある、たこ焼き屋さんで

たこ焼きを、ふたりぶん買って店の向かいのコカコーラのベンチに腰掛けた。


ベンチの後ろ側は長い緑地帯になっていて、そこには緑葉樹が植わっている。

天気がいい日は その木々の間から木漏れ日が差し込んで綺麗だった。

そしてそこに誰が置いたのかは知らないけど、人ふたりが座れるくらいの

小さなベンチが置かれてあった。


学校の近所だと他の生徒も通るし、誰かに声かけられたりして邪魔されたく

なかったので、梨紅とゆっくり話したい時は、よくその緑地帯のベンチを

利用した。


「梨紅、緑地の中に移動しよう」


今日、僕は梨紅と大切な話がしたかったから梨紅を連れてコカコーラのベンチから

緑地帯のベンチに移動した。

話したいことって言うのは、もちろんひとし「田中」が言った例の件について・・・。


「だから、言ったでしょ・・・私と付き合っても別れることになるよって・・・」

「私のこと誰に聞いたの?・・・田中君?」

「悪い人じゃないけど、おしゃべりだからね、田中君」

「田中君が言ったことは本当だよ」


「これで分かったでしょ・・・ごめんね、黙ってて・・・冷めちゃったよね

嫌いになったでしょ、私のこと」


「嫌いになんかならないけど、ちょっと驚いたかな・・・」


「制服着てるし見た目は女だけど・・・私、生まれた時は男の子だったの」

「私ね、よくジェンダーレスって見られがちだけど自分をジェンダーレスだと

思ったことはないの・・・私には、そういう言葉がなくてこれまでだって自分から

ジェンダーレスですって言ったことは一度もないんだよね・・・」


「私は私、それ以上でもそれ以下でもないと思ってる」

私の中で心に女か男かの違いはないの・・だから、私に性別はないんだよ」

「おかしな子って思う?」


「思うわけないだろ?」


「梨紅自身は、自分のこと男だとも女だとも思ってないんだ?」


「そうだね・・なんて言うの?男の子の部分もあるし女の子の部分もあるよ」

「性別とかじゃなくて・・・私はそういうのを超えて・・・自然のままの自分で

いただけ・・・」


「みんなそうでしょ、男も女も両方の部分持ってるよね」

「ただ、何かを愛でて綺麗とかいいなって思う感覚は男の子とは違うかな?」

「だから女の子でいるほうが楽だし自然でいられるの」


「そうなんだ・・・じゃあ梨紅のご両親は梨紅のこと理解してくれてるの?」


「うん、最初は驚いてたけど、お母さんは私が小さい時から私のこと見てる

からね、だから薄々は感じてたみたい・・・

でも梨紅は梨紅らしくいればいいんだよって言ってくれてる・・・」


「そうかご両親の理解があってよかったね」


「最初は仁から、田中からね、梨紅が男だって聞かされた時は正直戸惑ったのは

たしかだけど、僕は人を好きになるのに性別なんか関係ないって思ってて」


「だから僕は別に梨紅はそれでいいと思ってるよ」

「男だから、こうだとか、女だから、どうだとか、そんなの決めつけるほうが

おかしいんだよ」

「それに僕が好きになった梨紅が僕にとってのすべてだから・・・」


つづく。






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