第59話 叩いて被って……

「えっと……これ、ありがとう……」


 魔法少女の変身ステッキ……。

 鏡花ちゃんにそっとお返しする。


「ん?りんおねえちゃんが使ってて良いよ!」


「いや!」


「え?」


「あ、いや、嫌じゃなくて……。ほら!主人公って、そんなにポンポン必殺技出したりしないでしょ?だからしばらくは良いかなあ……って。はは……」


「でも毎週出してるよお?」


 くそっ!ニチアサめ!!


「あ、あれって、主人公がピンチになってから出してるでしょ?お姉ちゃんがピンチになって、その時に鏡花ちゃんがお助けマスコットキャラみたいに助けてくれた方がカッコ良いかなあ……って……」


「わたしがおたすけマスコット……」


 何か考えている様子の鏡花ちゃん。

 頭の中ではポムポムしたぬいぐるみが走り回っていることだろうね。


「うん、分かった!きょうかが助けてあげる!!」


 満面の笑みを浮かべる鏡花ちゃん。

 本当はメイン戦力として助けてくれた方が嬉しいなあって思ってるんだけども。

 あ、そうだ!!


「ねえ鏡花ちゃん。変身ステッキはピンチの時で良いんだけど、それまでに代わりになるようなものって持ってないかなあ?」


 あんな大鎌を持ってるくらいだから、剣は無いにしても、武器になりそうなものの1つや2つ入っててもおかしくないはず。


「他の変身アイテム?」


「いや、変身しなくて良いけど、敵を攻撃できるような何か持ってないかなあ?」


 それも変身は出来ないからね。

 必殺技用の――それも違う!!


「でも、りんおねえちゃんはそのままでも強いよ?」


 あなたに比べたらミジンコみたいなもんですよ。


「んー。お姉ちゃんね。さっきのネズミさんとか、あんまり手で直接触りたくないかなあ……って。鏡花ちゃんもばっちいの嫌でしょ?」


「うん……。わたしも触りたくない……」


「ね?だから、何か持ってたらお姉ちゃん嬉しいなあ」


「分かった!えっと……何があったかなあ……」


 鏡花ちゃんは何もない空間に手首まで突っ込んで、中で何かごそごそとし始めた。

 うーん、シュール。

 むしろホラー。


「あの……」


 あ、忘れてた。


「えっと……」


「苑子です」


「あ、大丈夫です。名前は覚えてますって」


 嘘である。


「ここのボスは倒したんで、これで先に進めますよ」


「あ、はい。ありがとうございます……。それで、私たちもずっと見てたんですけど……鏡花ちゃんて何者なんですか?絶対に普通の子供じゃないですよね?」


「あ……。えっと……鏡花ちゃんはですねえ……」


 2人が観ていたことをすっかり忘れてたよ……。

 何をやったかまでは素人の2人に分からなかったと思うけど、あんな死神みたいな姿を見ちゃったら……ん?2人?


「あのう、もう1人の……えっと……」


「康平ですか?」


「そう!その康平さんはどこに?」


 ここにいるのは苑子さんだけ。

 2人で部屋の入り口にいたはずだから、一緒に入ってくるのが普通なんじゃ?


「康平は……鏡花ちゃんを見て気を失ってしまって……あっちに転がってます」


 苑子さんが入り口の方を見る。

 よーく見ると、そこには靴の底らしきものが微かに見えた。


 ……だよね。怖かったよね。

 初めて会った女の子が、魔物相手に大鎌振り回してたんだもんね。

 むしろあれを見て近寄って来た苑子さんが凄いんだよ。


「……とりあえず意識が戻るのを待ちましょうか」


「お手数おかけします……」


 何とか鏡花ちゃんの話から逸らすことが出来た。

 康平!ナイス気絶!!


「りんおねえちゃん、こんなのでどう?」


「ん?何が?」


 鏡花ちゃんが何をやっていたのか失念していた私。

 ほっとした気持ちのまま、何気なく振り返った。


「ヒヤッ!!」


 苑子さんが悲鳴を上げる。

 私は逆に声も出せなかった。


「こんなのしかなかったよ」


「鏡花ちゃん……それは……何?」


 振り返って見た鏡花ちゃんが持っていたのは……。


「前に、パパがもぐらさんを退治するのに使いなさいってくれたやつー。ピコピコハンマー」


 樽の様なサイズの頭の付いた、超巨大なトンカチだった。

 絶対にピコピコいわないやつー。


 どんなモグラ?!

 てか、ダンジョンの中にモグラっているの?!

 ……まあ、あの家ならいてもおかしくないか。


「はい!」


 絶対に重い!!


「はい!!」


 その笑顔が重い!!


「あ、ありがとう……」


 私は覚悟を決めて受け取る。

 全身の力を両腕両足に集中!!

 踏ん張れ私の両足!!受け止めろ私の両腕!!


 受け取った瞬間、ずっしりとした重みが手の平に伝わった。

 ……あれ?でも持てなくはない……な。


 上下に上げ、下げ。

 左右にぶん、ぶん。


「うん、悪くない」


 なるほど、ダンジョンの中だったら、これくらいなら持てるくらいの力が付いてるってことね。

 ちょっと不格好だけど、素手でやるよりは全然良い。


「ありがとう鏡花ちゃん。これでお姉ちゃんはばっちいの触らなくて済むよ」


「えへへ……」


 ハンマーを片手で持って空いた手で鏡花ちゃんの頭をナデナデすると、鏡花ちゃんははにかむような表情になった。

 うん、やっぱり天使だ。

 さっきの死神に見えたのは気の迷いに違いない!


「苑子さん、じゃあ一旦康平さんのところに戻りま……あれ?」


 そう言って振り返ったところに苑子さんの姿は無かった。

 ん?どこいった?


「おねえちゃん寝ちゃったの?」


「え?寝た?」


 おおう……。

 地面に突っ伏して倒れている苑子さん。

 完全に気を失っているもよう……。


 どのタイミングで気絶したの?

 ハンマー見たとこだよね?

 私が振り回してるの見たからじゃないよね?!ねえ?!



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