第27話 転校生は己を知る?
「不本意だけど畑野の加入が決まったところで、これからの方針を改めて決めよう」
空、そんなにデコポンが嫌いか?
愛媛の人に怒られるぞ?
「そうね。このままじゃマズいと思うわ」
ほら、デコポンは歩み寄って来てるぞ?
「今まで通り、1話につき1階づつ進むじゃ駄目なの?」
「駄目よ!全然駄目!」
「私も勢いで始めちゃったけど、それは駄目だと思う」
阿須奈の意見は物凄い勢いで却下された。
私の意見?
理想は解散。希望は休止。
「良い?このまま進むって事は、どんどん強い魔物と戦っていくってことでしょ?阿須奈は良いとしても、私たちは死んじゃうわよ」
「大丈夫!みんなの事を守りながらでも余裕だよ!」
「阿須奈、それが駄目なのよ」
空が諭すような優しい口調で話しかける。
「似合わなさ過ぎて気持ち悪いからやめてほしい」
「……鈴?」
はい、お口チャックしまーす。
「阿須奈、正直私はあなたのことをまだ理解してなかった。生まれた時からダンジョンに住んでいるっていう異常さを全然分かってなかったのよ」
「阿比留、回りくどい言い方してもしょうがないでしょ?阿須奈、あなたは強すぎるのよ。私は動画で観ただけだけど、あんなのは序の口なんでしょ?どんどん下層に行って、あなたが強い魔物を派手にやっつけていったら、そりゃあ動画映えはするわよ。でも、それはあなた個人のチャンネルであって、私たちはただのスタッフになっちゃうわ」
「あ……」
みらんの言葉にはっとする阿須奈。
そんな顔も可愛らしい。
「カレンダーズって名前にした時に、『可憐』な少女が『日めくりカレンダー』みたいに代わる代わる主役になるって意味でつけたでしょ?このまま進んでいったら、畑野の言う通り、私たちはただのスタッフで、カレンダーズのメンバーじゃなくなっちゃうんじゃないかな?鈴なんてまだオープニングと声しか入ってないんだから」
いえいえ、私なんて月めくりカレンダーの表紙みたいなもんなんで、最初映ってるだけで十分ですよ。
始まったらベリリと破って捨てちゃってください。
「いや、私は表紙はポスター代わりに部屋に貼ってあるぞ」
そういう人もいるね……。
「それとね、今言った強すぎるっていうのも問題があるのよ。ええと、阿須奈。あなた誕生日は?」
「え?12月24日だけど……」
「じゃあ今年の誕生日はまだね。まだ16歳の女子高生がグリーンキャタピラーを単独討伐してるだけでも動画のコメント欄がざわついてるのよ。確認はしてないけど、ネット上ではもっと騒ぎになってるかもしれないわ」
今年のクリスマスは阿須奈の誕生日パーティーも合同でやろう。
ダンジョン外で…。
「グリーンキャタピラーなら鈴ちゃんも倒したよ?」
「いや!あれは倒したって言わないでしょ!?」
巻き込み事故回避の為に高速のツッコミ!!
私は剣の柄になっただけ。そう、通販で見たことのある、にょーんと伸びる高枝切りばさみのような便利アイテム。
「何にしても――ダンジョン地下3階っていうのは、本当なら素人が立ち入れるような場所じゃないし、趣味で動画やリアルタイム配信やってる探索者の人たちでも簡単に入れるとこじゃないのよ」
「でも……行かないとトイレが……」
更にお風呂なら5階だしね。
そうか、私はそんな危険なとこにトイレ行ったりお風呂入ったりしに行ってたのか…。
改めて阿須奈が規格外なのだということを思い知った。
「そういうとこね。まず阿須奈はダンジョンの常識を学ぶところから始めないといけないわ。今ならギリギリ強い女子高生で誤魔化せるかもしれないけど、このペースで進んで行ったとしたら、近いうちに大騒ぎになるわ。それこそ国の偉い人が血眼になってあなたや私たちの素性を探し出してくるでしょうね」
「さすがにそれは大げさなんじゃ…」
いくらなんでもそこまでとは思えなくて、思わず私は口を挟んだ。
「鈴原、あなたもまだ認識不足のようね」
「鈴。これは畑野の言う通りだと思う。あんたも気付いてるんだろ?阿須奈の家族のランキングの事」
「気付いてるっていうか……そうなんじゃないかな?っては思ってるよ……」
世界ランキングトップ10にある『UNKNOW』の3人。
「ランキング?どういうこと?」
今日初めてこの家に来たみらんはまだ気づいていない。
「空ちゃん。ランキングって何?」
当の阿須奈も興味が無かったのか知らないようだ。
「ちょっとまって」
空はそう言うと鞄の中からメモ帳を取り出した。
「これを見て」
そう言って開いたページには――
ランク6 李 震(中国) 247.921.113pt
ランク7 UNKNOWN 246.397.677pt
ランク8 コリン・ブラッドリー(アメリカ) 243.668.721pt
現在の探索者ランキングと、その累計ポイントが書かれていた。
「阿須奈。あなたのポイントはいくつ?」
「え?えっと――」
慌てて机の引き出しからカードを取り出す。
そんなとこに入れっぱなしにしてたのか…。
別に携帯しなくて良いの?それとも、ここもダンジョン内だから?
「246.397.691ptかな?」
「――な!?」
喉の奥から絞り出したような声を上げるみらん。
それは絞った果汁か?
「だろうね。これは昨日の夜に取った数値だから――朝と今、この部屋の出入りとトイレとかに行った時の数値が足されてると考えると間違いないね」
「ちょっと阿比留!!どういうこと!?阿須奈が世界7位の探索者だっていうの!?」
「畑野。阿須奈の両親が結婚して借りた家の中がダンジョンになってたらしくて、それ以来、引っ越し先にダンジョンが付いてきてるらしいぞ?」
「はあ?そんな馬鹿な話が――」
「本当だよ?お父さんとお母さんは私が生まれる前からダンジョンに住んでるんでーす!えへん!」
何故そこでテンションが上がる!?
「だ、そうだ」
「そんな……え?じゃあ阿須奈のご両親は……」
「ランキング2位と4位も正体不明だよね」
私だって――これまでのことが全てが嘘で、ただただ可愛らしい転校生の友達が欲しかったよ。
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カクヨムコン9参加作品です。
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