【第3章完結】隣の席の美少女転校生の家がダンジョンだった件~謎の世界ランカーが一家揃って隣に越してきました~

八月 猫

第1章 隣の席の転校生は黒髪ロングの超絶美少女

第1話 転校生は美少女?

「いやあぁぁぁぁ!!助けて―!!」


 私、鈴原すずはらりんは、16年間生きてきて初めての大ピンチを迎えていた。


 なんて、呑気の言っている場合ではないくらいの命の危機を。


小鳥遊たかなしさーん!!助けて―!!」


 今の私にはただ、そう叫んで逃げ回るしか手段は残されていなかった。


 ホントに早く助けに来て!!私、死んじゃうから!!




 西暦1999年7月に地球全土に起こった事は、当初人類にとっての脅威的な厄災であると考えられていた。

 世界各地に突如として出現した異空間。

 それはゲームなどによくある、ダンジョンと呼ばれる存在と酷似していた。


 洞窟の入り口を入ると、そこは複雑に入り組んだ迷路のような空間。

 地理上ありえないはずの空間に広がったその巨大な迷宮には、地球上に存在しない凶暴な未知の生き物が闊歩し、それらに対して科学の粋を集めて作られたはずの近代兵器は、その力をまったく発揮しなかった。


 そして、そのダンジョンは洞窟の姿をしているだけではなく、神殿のような建造物であったり、ふと入った森の中だったりと、多種多様なものが世界各地に現れたのだった。

 そう、多種多様……。


 調査の為に送り込まれた軍隊であったり、研究を目的とした者であったり、または興味本位で中へと入った者だったりと、次第にダンジョンによる犠牲者は増えていった。

 

 各国政府は自国民に対して、うかつに近づかないように指示を出し、一刻も早いダンジョンの場所の把握と、その対応に全精力をつぎ込むことになった。


 西暦2000年4月、国連は正式にその存在を異空間に存在するダンジョンと認定し、そこに棲む生き物をモンスター、魔物と呼ぶことを決めた。


 世界中の人々は早期のダンジョンの破壊を訴えていたが、その時点で唯一の救いであるのが、魔物がダンジョンより外に出てくることはなかったということだろう。


 それを盾にして、各国の首脳陣はダンジョンの破壊を最終手段に、その内部にあるかもしれない何かに希望を求めて、世論の声を何とか押し込めていた。


 西暦2000年10月、アメリカの特殊部隊に所属する1部隊から初めて成果のある報告が上がった。フロリダにあるダンジョンの魔物からドロップアイテムを獲得したというのだ。

 彼らはダンジョン出現当初からその探索任務に当たっており、1年以上の期間をかけての成果だった。


 それは後に「ポーション」と呼ばれる物で、ガラスに似た未知の物質の容器に入った水色の液体。

 そしてそれは、人体の怪我を立ちどころに治すという、現代医学の常識を覆す代物だった。


 この報告に各国は驚喜した。

 ある者はその効果が苦しむ国民を救うと感じ、そしてある者は戦争などの軍事利用にと考えた。

 その頃に見つかっていたダンジョンは世界中で100を超え、ダンジョンを保有している国はその探索に未来を賭けて探索を開始した。


 その結果――「ポーション」だけではなく、様々な未知の鉱石やアイテム、魔物に効果を発揮する武器や防具などが発見される。

 また、ダンジョン内ではレベルとステータスによって個人の力が管理されており、魔物を1体でも倒すと、そのステータス情報の記入されているカードがどこからともなく現れた。


 まさにゲームのようなこのダンジョンに、興味を持った一般の人たちからも参加の声が各地で上がり出す。


 それを待っていたかのように、各国は民間人からも希望者を集い、徐々にその人数は世界的に増え続けていく。


 やがて、彼ら彼女らは「探索者」と呼ばれるようになり、それを生業とする者や、それを商売に会社を立ち上げる者が続出していく。


 そして――地球規模でのダンジョン時代が幕を開けたのだった。



「はーい。今日は転校生を紹介します」


 GW明け初っ端のホームルーム前に担任の立華たちばなうるみ先生、29歳独身彼氏絶賛募集中がクラスのみんなに向かってそう言った。


 そしてざわつく教室。


 その内訳のほとんどは転校生が来るということ自体への興味だと思う。

 私もめったにない転校生というイベントの突然発生にわくわくしている。


 教室の扉が開いて、転校生が教室へ入ってきた瞬間――


 そのざわめきが水を打ったように静まり、女子しかいない教室のあちこちから、ほぅ…っといった息が抜けるような音が聞こえた。


「じゃあ、小鳥遊たかなしさん自己紹介して」


 大きくぱっちりとした瞳に、しゅっと伸びた綺麗な鼻筋。

 そこにバランスを取る為に付いているような薄く綺麗な唇。


 私たちはその端正な顔立ちに完全に見とれてしまっていた。


「はい。本日転校してきました――小鳥遊たかなし阿須奈あすなと言います。皆さん、これからよろしくお願いします」


 そう言って綺麗にお辞儀をすると、腰の近くまである長い黒髪が僅かに前に流れてきて、それを優雅に指でかき上げた。


「じゃあ、席は――鈴原すずはらさん。あなたの隣なので、しばらくは教科書とか見せてあげてね」


 ……綺麗。


「鈴原さん?聞いてる?」


 鈴原は私ですけど、今はそれどころじゃないんです。


「……小鳥遊さん、あのぼんやりしてる子の隣の席に座ってください」


「えっと…はい…」


 おお!近づいてくると、その綺麗さが更にパワーアップする!


「鈴原……さん?あの……よろしくね」


 うわあ!近くで聞くと声もパワーアップだ!


「はーい、じゃあホームルーム始めます。鈴原さんには後で誰かが内容を伝えておいてください」


 当然、私がホームルームの内容を聞いているはずもなかった。




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カクヨムコン9参加作品です。

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