第10話 龍助と主将の試合

 月桜高校の中にいくつかある道場のうちの一つを空手部が使っており、その道場の中では緊張感が張り詰めていた。


 なぜなら今龍助と空手部の主将である奥田がお互いに睨み合い、向かい合って立っている。

 そしてその周りには彼らの組手を見守る叶夜達と部員達の姿があった。


「それでは両者前へ」


 審判をしているのは空手部顧問の寺本先生だ。

 彼の掛け声で一礼をした龍助と奥田がコートの中に入り、互いに見合っている。


 今から行われるのは龍助の実力を試す試験と同じようなものだ。


「こちらも本気でいくから、そっちも本気で頼むぞ」

「もちろんです。あなたを倒す勢いでいきます」


 龍助の威勢の良さが気に入ったのか、奥田はフッと小さく笑う。


「両者、構え」


 寺本先生の号令で二人が構えに入る。


 空手の組手のルールは単純明快たんじゅんめいかい、決められた時間内に相手の身体に拳や蹴りなどの攻撃を入れて点を競っていくのだ。

 もちろんボクシングのように顔面を直接殴ったり、行き過ぎた攻撃は反則になる。


 龍助達の試合時間は三分だ。この間により高い点を取った方が勝利になる。


 そして、寺本先生が手を挙げて思いっきり振り下ろす。


「試合始め!」


 大声で掛け声が流れた直後、早速奥田が仕掛けてくる。


 奥田は大きい身体をしていながら、素早い動きで龍助との距離を詰めてくる。

 そして詰め寄ったのと同時に、拳を突いてきた。


 龍助はその拳を払って反撃しようとするが、それを阻止するかのように右から頭を狙った蹴りが飛んでくる。

 すぐに気がついた龍助が受けにてっしたため、攻撃が通ることはなかった。


 しかし、


「がら空きだ!」


 攻撃をガード出来た龍助だが、奥田は右足を素早く引き下げたかと思えば、すぐさま龍助の腹部に拳がぶつかる。

 ぶつかるといっても軽くなので痛みはそこまでないが、ここで龍助が一本取られてしまった。


「止め!」


 奥田が一本取ったことで、一時的に試合を止められる。


「白、有効!」

「押忍!」


 白と言われた奥田が審判である寺本先生に礼をする。

 白と言われたのは腰につけている帯の色のことだ。


 空手の試合上、わかりやすいように試合に出る選手には赤帯と白帯をつけるさせることになっているのだ。

 相手が白なので、龍助は赤になる。


(早速一点取られたか……)


 相手の様子見をするため、かわすか受け流す程度しか動かなかったが、相手がかなり攻めてくるということが分かった。


「続けて始め!」


 すぐに寺本先生の掛け声が流れて試合再開になる。

 先程は攻めてきたが、もしかしたら今度は受け身で来る可能性も高い。

 相手の動きを予測しながら動くというのはなかなか大変なことではある。


(まあこれが楽しいんだけどな)


 相手の動き次第、または自分の考え次第で試合の行方が変わってくる。

 こういう試合での戦いはなかなか楽しく感じてくる龍助。


(力者の戦いは殺し合いにまで発展するから嫌だけど……)


 今まで力者との戦いをしてきたが、あれは本当に殺し合い以上になるなど辛い状況となる。

 そんな思いにふけっているのもつかの間。


「考え事とは余裕なんだな!」


 龍助が考え込んでいる隙に奥田がまっすぐに標的へと詰め寄りながら拳を突き出してくる。

 また龍助の腹部に食らわせるつもりだ。


 しかしすぐに我に返った龍助がかろうじてその攻撃を受け流すことに成功する。


「もらった!」


 受け流したことで奥田の腹部に隙ができたので、そこを狙って龍助は拳を突き出す。

 拳は見事に奥田の腹部に当たり、すかさず寺本先生の制止が入った。


 これで龍助にも一点入り、同点となる。


「やるな」

「先輩こそ」


 お互いに一点を取り、その場の緊張感がさらに強くなる。


 そして再び寺本先生の掛け声が響いたのと同時に龍助達は動き出す。

 今度はどう来るのかを様子見しているが、それは相手も同じだ。


 相手も読もうとするならば、こちらから動くべきだと感じた龍助は自身から仕掛けることにした。


 何度か拳と蹴りを連続で繰り出すが、奥田は全て受け止める。

 しかし龍助が攻撃を一旦止めたタイミングを狙いすましたかのように攻撃を連発してきた。


(見事な動き……!)


 カウンターのような動きを心の中で賞賛した龍助だが、その動きが分かりやすかったので、すぐに対処に移る。


 奥田が繰り出してきたのは相手の顎を狙った上段突きと胸を狙った中段突き、そして回し蹴りの連続技だ。

 龍助はそれらの技を受け流し、隙を作った。


「しまっ……!」


 隙を作られた奥田は慌てて体勢を立て直そうとしたが一歩遅く、龍助の中段突きが先に胸に入ってしまう。


「止め! 試合終了!」


 龍助の中段突きが決まったのと同時に試合終了の合図が出る。三分経ったようだ。


「二対一で赤の勝ち!」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」


 試合結果を告げられ、お互いにお礼を言って本当に試合が終了した。


 短い時間だったが、龍助達にとってはかなり長い時間になっていたようだった。

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