第6話 昔の龍助

 部活の見学が一通り終わった龍助達。

 時間を見てみると、もう夜の七時を回ろうとしていた。

 しかし今の季節、この時間になってもまだ明るさが残っている。

 なので、まだ時間が一時間程余裕があるように感じるほどだ。


「もう七時か……。だいぶ見たな」

「だってほぼ全ての運動部を見たからね」

「で、龍助くんはどこの部活にするか決めた?」


 学校の正門に向かいながら今日の部活の話をしていた。

 野球部の後に、陸上部、テニス部、バトミントン部、バスケ部、剣道部とほぼ全ての運動部を見学した。


 舞日のどの部活が良いのかという質問に龍助は頭の中で記憶を呼び起こす。


 陸上部は各々おのおのの種目によって鍛え方が様々だったのが印象的で、テニス部とバトミントン部は二人一組になって行う練習が多かったことが印象に残った。


 バスケ部はサッカー部や野球部と同じようにチームでしっかり練習に取り組んでおり、他の部活より比較的仲間意識を大事にしている。


 そして剣道部などの武道系の部活は個人個人の練習が多く、雰囲気は他の部活に比べて落ち着いていた。


「俺的にはサッカー部とか野球部とバスケ部は遠慮しとこうかな」

「それはなぜ?」


 龍助の回答に叶夜が首を傾げて聞いてきた。

 でもその顔は意外そうだというものではなく、ある程度予想は出来ているが、一応理由を聞いてみたといったものだ。


「色々理由はあるけど、何より今のチームワークを崩したくない、かな」

「ん? どういう意味?」

「どのスポーツでもそうだろうけど、特にこういうスポーツはチームワークが大事だろ? 今築いたチームワークを変なタイミングで入った俺のせいでめちゃくちゃにしたくないんだ」


 龍助が一通り見た中で、気にしていたのは部活のチームワークだ。

 その中でも野球部とサッカー部、そしてバスケ部などはそれが見事に作り上げられていた。


 もし仮に龍助がどれかに入って、彼らに合わせることが出来たとしても、短い期間に本当の意味での信頼関係は築けない。


 むしろ逆に、おかしなタイミングで入ることで築き上げたチームワークを崩してしまう恐れもあった。


「なるほどね。確かに変に乱す可能性もあるよね」


 龍助の説明を聞いて、舞日も頷いているので納得したようだ。

 叶夜に関しては予想の範囲内だったようで、大きな反応はない。


「私は龍助なら大丈夫だと思うけどね」

「そうか?」


 龍助の問いかけに叶夜は何度か頷いた。

 まだ出会って数ヶ月ほどしか経っていないが、ずっと同じ敵と戦っているため、ある程度龍助のことを分かっているのだろう。


 叶夜だけでなく、舞日もそれには納得していたようだ。


「となると、比較的一人の種目になる剣道部とか陸上部?」

「そうだな……。あと気になっているのは空手部かな」

「確かに龍助は空手部向いてそう」

「ああ。昔も指導してもらったことがあるからな」


 実は龍助は施設に入ってしばらく経った頃、妹や施設の人達を守りたいという願いから、有名な空手の達人に指導をお願いしたことがある。


「そうなんだ! その先生は今どうしてるの?」

「今先生は様々な地域に出向いたりして、自分を磨き上げている。らしい」

「らしい?」

「実は俺が高校になった頃に先生は旅に出るとだけ言ってどこか行っちゃったんだよ。今の話も噂で聞いたに過ぎないんだ」

「そうなんだ……」

「まあでも、また会える気がしているから大丈夫さ」


 叶夜と舞日は少し寂しげな表情をしていた。

 龍助も初めこそは寂しかったが、何故かまた絶対会える気がしているので、寂しくはなくなっている。


 龍助の言葉に二人して何を根拠にと言いたげな表情をしている。


「確かに力者ならそんな気がするのはあるかもね」

「第六感というやつね」


 一般なら根拠がなくては信じられないだろうが、力者ならそれがなくても有り得ることがある。


 三人は龍助の昔話を楽しみながら、帰り道を進んで行った。

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