第17話『一社目』

翌週の頭、月曜日に私は不安と高揚感を持って家を出た。母には、「頑張っておいで」と言われ、私はそれに自信なさげに頷いた。

 というのも、私は採用を貰えた帰り道、大丈夫だろうかと不安に苛まれていた。

 面接に落ち続け、誰からももらえなかった採用をいとも簡単に出す企業で大丈夫なのだろうかと思った。何か裏があるのではないか、何か危ない事をやらされるのではないかと不安で仕方なかった。

 その思いを拭いきれず、しかし、漸く採用を貰えたという事もあって一先ずで良いから行こうと思ったのだ。

 服装は私服で良いとの事だったので、私はそれなりの格好で会社に向かった。電車の中のスーツ姿の人達がちょっと羨ましくなったのは秘密だ。

 会社に着くまでの間、事前に調べた道を書き写したメモを手にしてそれ通りに歩いた。住宅街の中に入っていき多少の不安はあったが、会社近くの家に可愛らしいダックスフンドが居るなどした。

 会社に着いた私は、受付で電話をして言われた通り面接を行った部屋へ向かった。ドキドキしながら待っていると、部長さんが入ってきた。挨拶をして契約書で手続きをした。

 雇用形態は契約社員。土日の週休二日制フルタイム。作業内容はデータ入力。

 その仕事内容で契約して、私は上階へ案内された。プレハブのような建物の中に会社があり、その上階、三階が私の作業場だった。

 一先ず上司の人を紹介されて挨拶した。その後、会社の中を案内されて、午前中の半ばから私は早速仕事を一つ任された。

 それは紙媒体の資料をエクセルに入力していく事だった。出来上がったり分からない所は聞いたりして良いからと言われて、私は一先ず言われた通りデータを入力していった。

 そうしているうちに一日、二日が経ち、一先ず任された資料のデータ入力は終わった。それを見てもらうと「早いね」と言ってもらえた。

 そうして三日目に、会社独自のCADというソフトで図面修正をしてほしいと頼まれた。私は断るわけもなく受け入れた。

 CADというのは図面作成をするソフトだ。設計図に使われたり、道路などの地図にも使われたりしているソフトだ。

 それを使って私は言われた所を修正していった。それが二週間程で終わり、三週間目からは図面作成の仕方やデータ入力の仕事を並行する仕事を任された。

 それ以降は似たような作業をしていたので割愛する。

 この企業では銀行振り込みではなくお給料は手渡しだった。そのため、お給料を初めて貰えた時は舞い上がる程嬉しくて、大事に大事に持って帰った。

 結論から言うと、この企業は凄くホワイトだった。人の雰囲気も良かったし、ちゃんと休憩は全社員でお昼に一斉に休むなど、今となってはホワイト過ぎてびっくりしたくらいだ。

 私はそこでの契約期間を満了して、一度会社を離れたが、会社から自宅に直接電話があってもう一度就業する事になる。

 それから暫く経った頃にもう一度連絡があったのだが、その際は別の企業に就職して断る事になった。それでも丸一日考えて、結果、私が三度目の就業をする事はなかった。

 それでも私はこの会社が最初の会社で良かったように思う。もし他の会社だったらというのが思い浮かばないため、私にとってそこは原点の一つなのだろう。

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