第201話
「……絶対、キミの力になってくれる。あいつは面白……真剣な話には付き合ってくれるから」
なにか言いかけたことを、危うく引っ込めたような感じではありましたが、今は信じるしかありません。八区。大通りを一本外れた通りにその店はありました。花屋というと、店の外にまではみ出るくらいの花を想像していましたが、そこはひっそりとしていて。
ですがその店内は、リオネル氏の店は摘んできた花そのものが置いてあるイメージでしたが、こちらはアレンジメントされたものが無数に配置されていて。まるで森にでも迷い込んだかのような雰囲気がありました。
「なんだ? 電話? もらっていないぞ。なんの話だ?」
そこの店主らしき女性、ちょっと年齢はわからないですが、自分よりも若いのではないか? と思わせるほどにその、背の低く童顔な女性で。話し方がとてもぶっきらぼうなところもあり、非常に困惑はしましたが、経緯を説明しました。
全く納得していない様子で、なんだか自分が悪いことをしているようでした。言われただけなのに……。
「……ったく……面倒ごとを押し付けおって……」
なにやら罵っているような口調ではありましたが、詳しい話をしてみると、意外な反応でした。
「面白い。なんだ、それを先に言え。とりあえず要望を聞こう。どんな花を希望する?」
なぜかはわかりませんが、やる気を出していただけたようで安心しました。が、自分は明確なビジョンのようなものを持たずに来店していることに、ここで気づきました。たしかに、彼女が花屋で働いているという情報だけで来ていたので、当然といえば当然です。
しかし、相手は花の知識もそれなりにあることは、簡単に予想できます。そこに自分の拙い表現力で、感動させることなどできるのか? もしかしたら、花という選択は間違ってしまっているのでしょうか。上手く口に出すことができません。
「別に、曖昧で輪郭のない、ぼやけたものでいい。それを拾い集め、かき集め、形にするのがフローリストだ。そのために情報をできれば細かく知りたい。まずはフレデリックについてだ」
花を贈るだけだというのに、自分のことは必要なのだろうか? という疑問は浮かんだのですが、なぜだろう、とても信頼できる人物のような気がして、こと細かく伝えてみました。コントラバスのこと、なぜその子のことが好きになったのか、お互いの実力や関係性など。
その人、ベアトリスさんは特に音楽について質問してきました。本人曰く「それなりには」知識があるらしく、音楽をベースに思いつくこともあるらしいです。自分はカルメン以外の女性には、あまり強く出ることもできない控えめな性格なので、されるがままです。
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