第11話 早く帰りたい(ランスロット視点)
私は殿下のお伴で隣国に来ている。
つまらんつまらんつまらん。
早く家に帰ってべべを愛たいのに、落石で道路が封鎖された為にこの国に足止めされている。
「いったいいつ復旧ですかね?」
聞きたいのは私の方だ。本当にいつ帰れるんだ。でっかい岩が道路に落ち塞がれてからもう半月。
人足を出して岩を崩し、なんとか復旧を目指しているのだが岩が硬くてなかなか崩れないらしい。
「ギル、私も行ってくる。ここで待っていてもイライラするだけだ。岩を崩してくる」
私は人足として岩崩しに参加しようと立ち上がった。
ギルベルトはヘラヘラ笑っている。
「落ち着けよ。おまえが参加しても焼石に水だよ。そのうち岩は崩れ、帰れるようになるから今は待つしかない」
「それでも蟻も軍勢だ!」
私は現場に向かった。
現場は騒然としていた。
道路を塞いでいる大きな岩をたくさんの男達がツルハシやショベルを使い砕いている。
こんなことしていたらいつ復旧するんだ? 私は蒼白になった。
「ダイナマイトでぶっ飛ばしたらどうだ?」
現場監督に声をかけた。
「ダイナマイト?」
こいつら、ダイナマイトを知らないのか?
私はダイナマイトによる爆破ですぐに岩が崩れると説明をした。
「あぁ、それなら早いですね。でもダイナマイトなんて我が国にはないですよ」
ほんとかよ。
私はすぐに王宮に戻り、工事責任者で話をした。
「おっしゃることはわかりますが我が国にはそんな物騒なものはありません。あんな大きな落石なども始めてでみな戸惑っています」
何を悠長なこと言ってるんだ。あんなツルハシでこんこんやっていたらいつ戻れるかわからないじゃないか。
「我が国ならあるが、道がふさがれているし、リバラルド王国にはないか?」
「リバラルド王国ならあるかもしれませんね。問い合わせてみましょうか?」
リバラルド王国はこの国の我が国と反対側の隣国だ。
「すぐに問い合わせてほしい。私は1日も早く帰らなくてはならないんだ。頼む」
それにしてものんびりした国だな。我が国と比べるとかなり遅れている。我が国ならあんな落石すぐにダイナマイトで爆破させるのに。
私はイライラしながらダイナマイトを待っていた。
「ランス、そんなにイライラするなよ。この国は食事も美味いし、気候も良い。ホリデーだと思って道路が復旧するまでのんびりすればいい」
「何馬鹿なこと言っているんだ、お前も仕事があるだろう。私は1日も早く帰りたいんだ。だいたい、私がついてこなくても良かったんだ。馬があの岩を越えられたら一人でも帰るんだが……」
1ヶ月で戻る予定だったのにもうすぐ2ヶ月だ。道が塞がれているので手紙も送れない。
べべに会いたい。あ~べべ。出かける朝、身体が辛いのに私を見送りに出てきてくれた可愛いべべ。戻ったらどれだけべべを愛しているか伝えたい。
「ところでランス、べべちゃんとちゃんと話せるようになったのか?」
ギルは面白そうに言う。こいつは私が拗らせていてべべと話せないことは姉が喋ったらしく知っている。
「えっ? ランス、お嫁ちゃんと話せないのか?」
「うるさい!」
他の側近達にもバレたじゃないか。イザークは驚いた顔をしている。ギルベルトは説明を始めた。
「そうなんだよ。オリヴィア姉に聞いたんだが、ランスは好きを拗らせすぎてべべちゃんの前に出ると全然話せないらしい。昔は足がすくんで前に出られなかったが、最近はそれは大丈夫らしい」
「うるさい!」
情報元は姉上か。あのおしゃべりめ!
「閨はちゃんとできるのか?」
イザーク、ほっといてくれ。
「閨はバッチリ毎晩抱き潰しているらしいぞ」
「うるさい! ほっとけ」
ギルベルトはそんなことまでしってるのか。姉上、喋りすぎだ。デリカシーのない奴らめ。
「閨事の話はやめとこう。でも奥方はランスが拗らせて話せないと知っているのか?」
まともなハインリッヒはまともな事を言うな。
「多分知らない」
「それ、まずいんじゃないか? ランスに嫌われてると思っているかもしれんぞ」
姉上もそんな事言っていたな。ハインリッヒは腕組みをして難しい顔をした。
「喋らないのに、閨事はがっつりか。奥方は子供を産むだけのために嫁いだお飾り妻とか、または娼館にいかなくてもいいように娼婦がわりに嫁いだとか思っているかもしれない。たまにそんな話を聞く」
私は顔面蒼白になった。まさかべべがそんな事思っている?
「家族も使用人もみんなべべと仲良くしている。お飾り妻なんてとんでもない」
「お前が重要なんだよ。家族や使用人に良くされても、お前に冷たくあしらわれたら妻としては辛いだろうな」
「まぁ、ギル、そんなに脅してやるなよ」
「もし、夫人がお前に嫌われていると思っていたら、お前がこんなに長い間帰らなかったら、他の男とどうにかなってたりして? 夫人、めっちゃ可愛いし、学生の頃はモテモテだったもんな。お前が潰してたけで。お前がいないと知ったら言い寄る男もいるかもしれん」
イザークの言葉に、頭に血が上り私はイザークにつかみかかった。
「イザーク、いい加減にしろ。ランスも落ち着けよ。べべちゃんに限ってそんなことはない。あの子はかなり鈍チンで天然だからな」
ギルが仲に入って止めたが、私の怒りは収まらなかった。
「そうだ、マデレイネ嬢達に会いに行ってきたらどうだ? この国の王都に住んでるんだろ?」
「らしいが、会ってどうする?」
「義姉だろう?」
「義姉だ。しかもお前にとっては恩人だろ? アンジェラがマデレイネ嬢と恋仲にならなかったら、お前はべべちゃんと結婚できなかっただろ」
従兄弟だからかもしれんが、ギルベルトはなんでこんなになんでも知ってるんだ。姉上か? 母上か? あのふたりはおしゃべりだからな。
「私も一緒に行こうか? 久しぶりにアンジェラのバイオリンとマデレイネのピアノが聴きたいな」
私は聴きたくない。
「思い立ったら吉日だ。先ぶれをだそう。どうせやる事ないし」
4日後、私はギルベルトに引っ張られ、アンジェラ姉上と元婚約者のマデレイネが住む屋敷に向かった。
*ギルベルトは王太子でランスロットとは従兄弟、イザークとハインリッヒはランスロットと同じ側近です。皆同じ年で仲が良いので、普段は砕けた言葉遣いで話してます。
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