第2話 高級食材

本日は初回記念で4話同時投稿です。

ぜひお楽しみください

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「はじめに君に謝らないといけないことがある」

「……なんでしょう」


 馬車での移動中、クライムが私に話しかける。孤児院で院長との話し合いを盗み聞きしていた私からしたら意外でもなんでもないがこの雰囲気を壊すのもなんだか申し訳なく感じ、おとなしく聞くことにした。


「私は君をただ引き取ったわけではない。君の体質に用があって引き取ったのだ。だから君を幸せにすることはできないだろう」

「そうですか」


 重い雰囲気の中私にそう語ったクライムは私の淡白な反応に驚いたようだった。


「君は死ぬことになるのだぞ?それでも君はいいのか?」

「はい、構いません」


 問いかけるクライムに私は迷いもせずそう答えた。元々買われた時点で察していたことだ。私の体質を知った上で私を買う人なんてそれを利用したい人しかいないだろう。


「でも私をどう使う気なんですか?寄せにでも使うのですか?」

「そんな勿体無いことするはずがないだろう。貴重な稀血なのだぞ?」


 稀血。孤児院でも聞いた言葉だ。しかしそれは私が予想していた言葉ではない。


「稀血ですか?ではなく?」

「……確か人間の間ではそう言われてるのだったな。稀血とはその忌み子のことと捉えてもらって相違ない」


 忌み子。この世界で神に見捨てられ災いを呼び寄せるとされている存在。ほとんどがアルビノ体質であることが多く、白い髪と真っ赤な瞳はそれだけでこの世界の忌むべきものの象徴だ。どうやら私の予想通りクライムはこの体質を求めていたらしい。しかし彼の用事はその災いの方ではないらしい。


「では何に私を使うのですか?」


 正直私は災い、吸血鬼を引き寄せる以外にできることはない。その体質のおかげで私は命拾いをし、命を落としかけた。


「君なら身をもって知っていると思ったんだが......」

「命を落としかけたことはありますよ?」

「そうか……」


 それを聞いてクライムは語り始める。


「君が過去に体験したように、君の体質、稀血は吸血鬼にとってご馳走であり毒なのだ。程度の低い野良の吸血鬼なら狂って自我を忘れるほどにな」


 我々、と稀血と吸血鬼の関係を語る。私の感じた違和感を無視してクライムは続ける。


「しかしそんな稀血も我々貴族からすれば祝い事などで振る舞われる高級食材なのだ。それは血だけに留まらない。筋肉、脳、骨に至るまで、稀血の染み込んだ体全てが一級品なのだ」


 そこまで語ったクライムは私に向き直り目を閉じると身じろぎをする。次の瞬間背中からビリッという布の裂ける音と共にコウモリのような羽が生える。開いた瞳は血のような真紅に染まっていた。


「私は吸血鬼の名家、カータレット侯爵家の当主クライム・カータレット。我らカータレット家は君の命を余すことなく頂くと約束しよう」


 だからどうか許して欲しいと。クライムは吸血鬼とは思えないほど人間じみた様子で私にいうのだった。


 **


「クライム様」

「……なんだ?」

「あなたからしたら不思議かもしれませんが私は......感謝しています」


 しばらくの沈黙が続いた後。私はクライムにそう告げた。クライムは形のいい眉歪める。


「気になっていたのだが君は自分の命に執着がないのか?」

「執着ですか?」


 自分は死ぬと言われてはいそうですかと頷き、さらには感謝までする子供は普通はいないだろう。私だって逆の立場だったら気味が悪いと思う。しかし私は自分の命に執着があるかと言われればないと言えるだろう。


「執着どころか私は自分の人生が終わるならそれでいいとさえ思っています」


 私はそう言ってクライムに向き直る。クライムはいまだに懐疑的な目を私に向けていた。


「あなたは稀血が、忌み子が普通の生活過ごせると思いますか?ただ吸血鬼に襲われるだけでなく、文字通り忌むべき存在として扱われてきた人が」

「それは……」

「他人にも知人にも、そして家族にも煙たがられ邪魔者扱いされ虐げられてきた人がひとかけらの幸せでも掴めると思いますか?」


 すでに紫紺に戻っていたクライムの瞳を、私の濁った真っ赤な瞳が見据える。それを見たクライムは言葉に詰まってしまったようだ。


「すみません、少し当たってしまいました。私を虐げたのも襲ったのもあなたではないというのに」

「……せめて、君の命をいただくまでは私の屋敷で快適に過ごせるように取り計らせてもらう」


 平静を取り繕ったクライムが私にそう言う。


「ふふっ、ありがとうございます」

「……やっと子供らしい一面が見れたようだ。いや、この状況ならそれはそれでおかしいのだが……」


 私を食べるなんて言った割にはお人よしなクライムに思わず笑ってしまった。吸血鬼と思わせない彼の態度と死に恐怖を感じていない私は、側から見ればはたしてどちらの方が怪物に見えるだろうか。


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