『復讐の暗黒騎士』王族の末息子に転生しました。陰から世界を支配する様です。

@panda_san

プロローグ

*プロローグは三人称視点です

 


 アルトガルトと呼ばれる大陸では、資源、食物、種族の違いから、帝国軍と魔王軍の数百年に及ぶ冷戦が続いていた。


 だがそれは、ある日を境に幕を閉じることになる。


 人間は魔族に対して国交を結び、お互いの利益に値するような国策を求めてきた。


 六帝魔王ろくだいまおうと呼ばれる魔族を統括している王を筆頭に、幾つかの夜を通した会議が成され、最終的には国交を結んだ。


 冷戦決着から5年後、帝国暦1799年12月25日。


 大陸の南側一帯は、業火に包まれていた。


「裏切りだ……。人間供の裏切りだぁーー!!」


 暗黒騎士ゼロは、魔王の娘アイリーナ王女と国境付近の森まで出掛けていた。


 しかし、魔王様の魔力の異変を感知し、すぐ様に城へと戻る。


 魔族の領土は焼かれ、村や街は無残な姿へと変わり果てている。人間がダークエルフに乱暴し、巨人やオーガが縄で縛り上げられていた。


 まさに、地獄絵図。


「アイリーナ様……見ては行けませぬ。これを」

「これはなーに? 真っ暗ー!」


 ゼロは黒い帯でアイリーナの視界を覆った。


 5歳になったばかり——魔神の正当な血を引く、アイリーナ様は何としても守らねばならない。


 彼の頭には、それがよぎり、人間に反抗する事を考えず、ひたすらに魔王城を目指し、帰還を目指した。


 魔王城には防壁魔法陣がかけられている世界で一番安全なシェルターという場所がある。

 そこならば、安全にアイリーナを保護しつつ魔王様と共闘する事が可能と考えていたのだ。


 ゼロが到着した時、城周辺では戦争が巻き起こっており、火の嵐だった。


「アイリーナ様。抜け道を使い、シェルターへと避難します。そこは、安全な筈です」


 地下下水道から、城のシェルターへと歩み進んでいた。


 王女アイリーナと、暗く長い道を進むこと数十分。地下通路の中央広間で、挟み撃ちにあった。


「——! これは、どう言うことだ?」


 六帝魔王とその側近しか知らない隠し通路にて、人間の兵が待ち伏せをしていた。まるで、彼らがここを通る事を予期していたかのように。


「おおっと、本日の目玉だ。魔神の血を引く、唯一の子アイリーナ。彼女を渡せ。さすれば、お前の命は助けてやるぞ、暗黒騎士よ」


「ゼロ……わたし、どうなるの?」


 幼きアイリーナはゼロの袖を掴んだ。その小さな身体は震え上がっている。


「大丈夫です。貴方様は命に換えても、私がお守りします」


 左手で、彼女をそっと抱き抱える。右手に持っていた長槍を目の前の帝国兵に投げ飛ばした。喉元を貫通し、死体は壁にはりつけになる。


「——貴様っ!! かかれ、お前ら!」

「愚かだな。お前らは全員殺す」


 暗黒魔法と、剣術で場に残っていた帝国兵は全て殲滅された。


「アイリーナ様。お怪我は?」

「わたしは平気! ゼロは、ケガしてるの?」

「いえいえ、これぐらいでは、私に傷一つ付けることも出来ませぬ。それよりも、先を急ぎま——」


 背後から、何者かの強襲によってゼロの左腕が空中へと舞い上がる。恐ろしいほど強い光属性魔法。


「見事な剣と魔法。暗黒魔王直属護衛兵——ゼロとお見受けする」


「誰だ……お前は?」


「失礼。私の名は、アーサー・ゴッドウィン。帝国王家の第一王子だ。二つ名は制圧王せいあつおう

 無駄な殺生はしたくない。良ければ、その子から離れてくれ」


「断る」


「……残念だ。私の任務は、そこの少女だが、君を殺すしか無いようだね。その殺気から察するには」


 ゼロは一瞬で理解した。目の前に現れた金髪の男は、自分と同等かそれ以上に強い手練れ。


 即時——戦闘態勢に入り、奴に目掛けて無数のランスを放出した。


 アーサーを千本の槍が追尾する。


「いい魔法だ。千本の槍が縦横無尽じゅうおうむじんに私を殺そうと、自律して動いてる。全力を出す、聖十字の大剣セイクリッド・フルロード


(奴は光の大剣で全てのランスを薙ぎ払った。大振りかつ、きだらけだ。モーション的に、僕の手に持っている長槍が、奴の喉元を突く方が速い!)


 ゼロの思考は冴え渡り、相手のモーションを瞬時に読み取った。


「穿ち抜く!」


 彼の思考は後一歩……アーサーの実力には及ばなかった。


 ——ガキンッ!!


「……なんだこれは?」


 右手に持っていた槍は喉元に届く事はなかった。ゼロの全身は光の鎖によって、身動き一つ取れない状態となっている。


「『白光天鎖びゃっこうてんさ』。遠隔操作魔法を使えるのは、何も君だけじゃない。 

 その鎖は君が力を込めれば、込めるほど、堅く、鋭く、君の身体を蝕んでいく。一度それに掴まれば逃れる事は出来ないよ」


「……くっ。アイリーナ様をどうする気だ。彼女はこの戦争には関係ない。子供だぞ」


「私も具体的な内容は知らないし、興味がない。ただ——だからね」


 パチパチパチッと、通路の奥の方から拍手が聞こえてきた。その魔力から、妙な違和感を覚える。


 その魔力の感じは、魔族……それも上級のものだとゼロは知覚する。


「さすがですね。アーサー卿。ゼロを封じるとは、お見事」

「お前は一体誰だ?」


 黒いフードを深く被った人物の顔は見えない。彼はアイリーナに近づき、少女を抱き抱えた。


「離してっ! 助けて、ゼロ! お願い……」


「くそ、くそ!! 彼女を離せっ!」


「えぇ、離しますとも。ほら——」




 ——グシャッ。





 辺り一面に、アイリーナの鮮血が飛び散り、心臓が抜き取られる。彼女はその場に捨てられ、瞼がゆっくりと閉じた。


 ゼロの視界が真っ白になり、今までに感じたことのない、憤怒、憎悪、殺意が溢れ出る。


「ああああああああああああああああっ!」

「なんだと。鎖が——」

「アーサー!! れっ!」


 ゼロは最後——光の聖剣により心臓を貫かれ、体を引き裂かれた。


「アイ……リーナ様。約束、した。のに」


 走馬灯のように、過去の記憶が蘇ってくる。



***


「陛下。なぜ、私のような、よそ者を直属護衛兵として迎え入れてくださったのでしょうか」


「フハハッ。護衛兵は強いのは最低条件だが……そうだな。お前は我が国で一番信用に足りるからだ。お前の手で、アイリーナを導いてやってくれ。頼んだぞゼロよ」


「ハッ!! 命に換えても、例え、天変地異、戦争、飢餓、が起きようとアイリーナ様は守り抜きます故!」


***




(はぁ……はぁ。私は、死ぬのか。愚か者の私は、最後まで陛下との約束を守れずに、アイリーナ様を守れずに、何ていう、これほどまでに私は無力なのか。


 もしも、もし生まれ変われるとしたら、このような結末を——未来を正す事が出来るならば……)




 暗黒騎士は最後、アイリーナの手を握ることもままならず、死を迎えた。

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