第5話


  ︎︎ ︎︎ ︎︎その夜、夢を見た。


 夜空に落ちている星を、1つずつ拾っていく夢だ。

 僕の歩く周りには星が無数に落ちていて、遠くには、月が落ちている。それをひとつひとつ、吟味しながら拾っていた。

















 長時間寝たときの気持ち悪さを感じながら、嫌々と目を覚ます。

 本来の日曜日なら、気が向くまで寝ているのだが、今日はそうにもいかない。

 なぜなら、僕には珍しく約束があるのだ。






 目的地は家から徒歩1分。

 幼なじみの家だ。



 ピーンポーン



 呼び鈴を鳴らすと、部屋着姿の奈弘が出迎えてくれた。


「………私の部屋でいい?」

「なんなら、玄関でもいいんだけど………」

「はあー。上がって突き当たり右の部屋ね。飲み物持ってくから、先に行ってて」

 そう言い、部屋へと案内された。



 幼なじみだからと言っても、年頃の女の子の部屋だ。思春期真っ盛りの男の子は、立ち尽くすことしか出来ない。


「────何してるの?適当に座っていいよ」

 お盆に麦茶を載せた奈弘は、怪訝そうにしている。


 僕は、悩みながらも、ベットを背もたれにして、座ってみた。


「…………で?話ってなに?」

 どうやら及第点のようだ。


「急で悪いんだけどさ、卒業アルバムって持ってたりするか?」

「卒業アルバム?あると思うけど………いつの頃のやつ?」

「小学生の頃のなんだが」

「小学生の頃のね………それがどうしたの?」

「ちょっと見せてくれないか?」

「別にいいけど…………ちょっと待ってて、探してみるから」

 そう言い、押し入れの中を探してくれる。



「…………………無いわね。場所とるから、おじいちゃんの家に置いてきたのかも。ごめんね」

 髪の毛をクルクルさせながら、申し訳なさそうに謝ってくれた。


「いや、全然大丈夫だ。こっちこそ、いきなりごめんな」

「……てか、あんたは持ってないの?」

「………捨てたみたい」

「捨てたー?アホなの?」

「返す言葉もございません」

「はー。それにしても、なんで小学生の頃の卒業アルバムなんて、見たがるのよ」

「いやー、僕って小学生の頃どんな感じだったっけ。って気になって」

「あんたは今と同じで、未来永劫ぼっちよ」

「そんな頃から友だちいなかったのか………」

「学校では、わたしぐらいしか話す人いなかったぐらいだしね」

「余程だな。奈弘には感謝しかないです」

「本当よ。感謝しなさい」




 それから、少し雑談した後に、お開きにすることになった。



「今日はありがとな」

「そう思うんだったら、明日は寝坊せずに起きなさいよ」

「善処する」




 外は日が落ち始め、どこからか、カレーの匂いが漂ってきていた。
















 彼女の押し入れに、卒業アルバムが2つあることを、彼女以外の人間が知る由もなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る