二話

ソファに寝転び外界からの情報を一切遮断して、お気に入りの小説の最新更新を確認していると。


『ん〜っ!』


そんな声が聞こえたので振り返ると、ただ悪役令嬢?のお嬢様が伸びをしただけだった。その後元の体制に戻ると、また集中し始めた。彼女をそんな集中させているモノは何なのか。


帰ってきてプリンを食べ終わり、暇そうだったので本棚から本を持って来て渡してみた。趣味が合うか、絵柄が合うか分からないがまぁ嫌ならすぐに辞めるだろう。と思ってたら何書いてあるか分からないと言われてしまった。


どうしてか俺はグルメ漫画を音読する事になった。幸いな事は、彼女が五巻あたりで文字を理解した事。


それから、文字が読めなくても雰囲気で理解出来ると言う事が判明してしまった事だ。感情入れて朗読した、俺の身にもなってほしい。


効果音一つ一つに魂込めてたのに……。


それから彼女は俺の助け無しで、読み進めていった。もう九巻か。


時間を確認するともう九時だった、早い。俺は仕事の日には十時には寝る事にしている。何故なら起きるのは朝の五時だからだ、で行く服装に着替えたら二度寝。それが俺のモーニングルーティンだ。


風呂にも入ってない。何もやってない事に気づいて、絶望する。はぁ、しょうがない。風呂を沸かしながら、他にやってない事を考える。


洗濯は、大丈夫だろ。洗い物も無い。……何か忘れてる様な気がするんだよな。気のせいか?


《ググゥ〜‼︎》


そうだ、夕飯!危なかった。ダブルプリンで、今日の食事が終わる所だった。


さて、問題です。俺は今何を食べたいでしょう。


正解は、無いです。俺が聞きたいぐらい。なので、同居人に聞いてみる事にした。ちょうど彼女は料理のメニュー表グルメ漫画の単行本を読んでいたからイメージしやすいだろう。


まあそこにはひとつ穴があった。それは、漫画の料理と言う事だ。実在しない生き物の実在しない料理。映画飯と違って、再現度はかなり上がる。それを休みでだらけすぎて、脳味噌省エネだった俺は忘れていた。


「何食べたい?」


『ワニ』


「Amaz○nで売ってるか?鰐肉。他は?」


『肉』


「確か、一つの肉で場所ごとに味が変わるんだっけ。各部位の盛り合わせの焼き肉で、何とかなりそうだな。焼肉屋行くか」


『スープ』


「再現どうやるんだよ。かがくの先生にでも頼むしか無いか」


結果消去法により


「焼肉屋行くか!」


それしか無かった。ワニを取り寄せろと?色々な意味で間に合わない。最悪美味しく喰われるのは俺達の方だ。


『お肉!楽しみです!』


楽しみすぎて突然立ち上がりだしたお嬢様を座らせて、風呂は後にしよう。焼肉の匂いつくし。














そんな感じで、近くの焼肉屋に来た。明日頑張る為にも、肉食べて頑張りますか!取り敢えず、色々な肉を楽しめる盛り合わせ、そして米。そしてドリンクバーをササッと頼む。


肉に米があれば人は幸せになれる。ただし、野菜を摂っていない罪悪感が生まれるので野菜スープを頼んでターンエンド。


飲み物を飲みながら今か今かと、肉の降臨を待つ。この時ばかりは、俺の脳味噌は原始人化して肉の事ばかり考える。寝ても覚めても彼女の事ばかり……。もしかして、これが恋?


「お待たせしました。肉肉しい盛り合わせ〜牛と豚と鳥の三重奏〜とマンガ盛りです、火つけますね〜。ごゆっくりどうぞ〜」


店員さんがそう声をかけて皿を置いていってくれる。輝く様なお肉達がテーブルを占領していく姿は、見惚れる程だ。さあ焼いて行きますか!


網に肉を置いていくと、ジュワァァッと肉の産声が聞こえる。良い匂いに、幸せな景色。コレをどうにかしてお持ち帰りして映画館のMX4Dで楽しみたいと思うぐらい幸せな空間だ。


良い肉は焼けるのが早い。良い感じの焼き加減で、肉を救出していく。あー美味そう。高く積まれたご飯を横目にお肉に、焼肉のタレを纏わせてご飯と一緒に頂く。


美味くない訳が無い、美味く無い訳が無い。


柔らかくて美味い。やはりこの値段だからこそ、な美味さだ。そう思いながら肉を救い、ご飯が消えていく光景が続いた。


焼きたての湯気を纏った肉、そしてホカホカのご飯をかっこむ。そんなツーコンボで俺は幸せな気持ちになった。


途中で食べている肉が何なのか分からなくなったが、気にしない事にする。美味い!


お嬢様も俺と同じマンガ盛りのご飯を頼んでいたが、俺よりも減るスピードが早かった。そんな気品のある所作でどこからそんなスピードが?


まあ、幸せなそうにお肉を頬張ったり、ネギ塩やレモンだれで味変して目が輝いていたりして楽しそうだから良いか。子供みたい。


俺は自分の食事に戻る事にした。このテーブル上の食べ物全てが美味い!


そして肉の残量が少なくなった所で、シメの野菜スープが来た。結構デカい。店員さんに分ける様のお皿を出して貰うと、俺達は野菜スープを流し込んだ。


スーッと胃の中に入っていく。だけども野菜が美味い。あ〜美味い。煮込まれた野菜達とスープ達の力で俺達は肉だけ食う原始人から野菜もバランスよく取る現代人に戻れた様な気がする。


あーずっと食べていたい。だが現実は残酷だ、空っぽの皿が増えていき、俺達は遂に手を合わせて


「『ご馳走様でした』」


二人揃って満足した。










「ありがとうございました〜!またのお越しを〜」


『美味しゅうございました』


「美味しかったです」


会計を終えて、店のドアを開けるともう真っ暗だった。いやぁ……暗い。そしてお腹いっぱいだ。二人で家に帰るまでどれが美味しかったとか話しながら帰ったが、結論どの肉も美味かったと言う事になった。


また行こうと約束をして、その日は風呂に入って寝た。


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