第13話 ギードさんの教育観

 初めて「力と知恵の競争」に参加してから、1年程経った。俺とヘンリ君は現在、初等学校の3年生だ。年は9才になる。


「力と知恵の競争」には、この1年で計12回参加した。このゲームは1ヶ月に1度までの制限があるから、最大限の参加数になる。


 中身は毎回変わるので、攻略方法も回によって異なる。それでも、全て1位を取ることができた。


 特典のポーションだが、初級を計72本、中級を計12本貰った。コアラ達にこれまで渡したポーションは、一人につき初級を10本、中級を2本だ。これで充分みたいだ。


 売るほど残っているが、俺は特にお金が必要と言う訳ではないので、ひとまず持っている。もし売るとすると、1本あたり初級ポーションが銀貨3枚、中級ポーションは金貨4枚で買い取ってくれる。


 ヘンリ君も売ってないけど、万が一の時は現金化すると言っていた。


 マジPは俺が1925点、ヘンリ君が1450点ある。


 例えば600点で、上級ポーションと交換できる。上級ポーションの買取金額は金貨50枚だから、それだけでもかなり高額だ。


 でも、それ以上に魅力なのが、1000点で1SPと交換できることだ。


 俺には欲しいスキルが無限にあると言っていい。でも決めることはできないので、決断は先送り中だ。


 ◇


 鉱山の仕事はつい先日、森の3分の2の領域を担当しても良いことになった。討伐する魔物も強くなるが、殆どは既に倒した経験のある魔物なので問題ない。


 最奥になる川沿いの最もリスクがある領域は、まだ俺達だけでは担当できない。境界にある川を泳いで超えてくる、あるいは飛んでくる魔物の中には、まだ俺達の能力に見合ってない魔物もいるようだ。


 担当になった範囲には、ワイルドボアなど高額買取が期待できる魔物も多い。また、見回り代金も増えたので、トータルの賃金も上がった。


 これからもらえる額も増え、ヘンリ君もお金を貯められそうだ。


 ヘンリ君に聞いたら、金貨で170枚程貯金できているとのこと。まだまだ目標金額の金貨470枚には届かないけど、借金返済が現実的になってきたよ。


 あと、この1年でレベルが5上がり、現在LV14になった。俺の強化は288、魔力は57だ。


 素の力からすると2.8倍以上あり、レベルの低い大人以上の身体能力がある。驚異の9才児だ。


 ◇


 今日は、森の最奥である川沿いの領域を、ギードさんと共に探索している。道も整備された場所が少ないから、獣道のような藪の中を進む時もある。


 ここも慣れてくれば、いずれはギードさんの監督無しでも任せられるはずだ。


「この辺りは、まだまだお前達では苦戦する魔物が出ることもある。あとは……」


 太い樹木の幹の根本で、ギードさんはしゃがんだ。


「今の時期、この周辺に生えているお宝を狙ってくる奴らもいる」


 ギードさんの視線の先には、丸みを帯びた黄色い傘が特徴的な、大ぶりのきのこが1本生えている。


 きのこはマジゲーで苦しめられた経験があるから、ちょっとしたトラウマだ。


「これは貴重な物なんですね。奴らというのは魔物ですか、それとも人ですか」


「人だ。このきのこは特殊な薬効があって、あるポーションの原料として高値で取引されるからな」


 俺の質問にギードさんが答えてくれる。


 その時、俺の「警戒」が人の接近を察知した。


 ギードさんも気が付いたようだ。ハッとした表情になり俺達に三つのハンドサインを出す。


(人接近)(北に50m移動)(木の上に登れ)だ。


 俺達は急いで距離を取り、木の上に登る。魔力を体内の一点に止め、魔力感知で見つかりにくくする。


 俺の「警戒」では、俺自身に対する害意は感じられない。そこで害意の対象をこの「森」に変更する。すると害意を示す赤い〇の表示に変わった。


 人影が近づいて来た。枝の隙間からのぞくと、先程俺達が居た木のあたりに、周りを警戒しながら5人の男達が移動してきた。


 ほつれた衣服に、ボロボロの革鎧を付けた冒険者風の姿だ。背中にしょったリュックから、ピンク色の煙が出ている。あれは何だろうか。


 先程のきのこを見つけて、指をさしている。会話は聞こえないが、喜んでいるようだ。そして一人がおもむろに腰につけた袋からナイフを取り出し、きのこに刃を向ける。きのこ泥棒だ!


 すると隣の木に登っていたギードさんが、ハンドサインを出した。


(相手を確保)(脅威レベル2)(俺が先に行く)


 ゲー! 俺達もですか!


 そう思った瞬間、ギードさんは木の幹を蹴り宙を回転しながら飛び出した。


 俺も急いで木から飛び降りた。


 先を行くギードさんは、ナイフを出した男にラリアットだ。男はその場で1回転し、地面に叩きつけられた。し、死んだ?


 叫びながら他の男達は逃げ惑う。


 ≪防壁≫


 俺は走り出した相手の足元に板を出す。


「うぎゃ!」


 スネに板がぶつかり、ひっくり返った。自分でやっといて何だけど、めっちゃ痛そうだ。


 そして枝の上からコアラ棒が伸び、別の男が押さえつけられた。コアラ達が木から飛び降りてきて確保だ。


 ヘンリ君は打撃棒を使って、逃げる男の肩に石の球を当てる。球が当たった男はもんどり打って倒れた。


 俺は皆が倒したきのこ泥棒達を、「捕縛」で素早く縛り上げていく。また木に結び付けて、逃げられないようにした。


 だけどギードさんが倒した人は、ピクリともしないのでそっとしておく。


 やがて何処かに行っていたギードさんが、苦い顔をして戻ってきた。


「一人逃がしてしまったな。おそらく逃走関係のスキル持ちだ。それにしても、突然の対人戦になって悪かった。まあ、戦闘力は大したことなさそうだったし、確保を優先させてもらった」


「いえ、ギードさんがそう判断したなら大丈夫です。それよりも、あの人は……」


 俺は倒れたままの男を見る。


「ああ、お前らがいるからな。教育上良くないかと思って手加減した。気絶しているだけだろ。ちょっと後ろ手にして縛ってもらえるか。一応足もな」


 手加減ー! そして俺達の教育を考えていたなんて。


 俺が「捕縛」で縛ると、ギードさんは初級ポーションをマジックバッグから出して男の頭に振りかける。


 男はうめき声を上げて、目を開けた。そしてギードさんの顔を見ると、ガタガタと震え出した。


 強烈なラリアットをくらって、恐怖しかないよね。


「フン。ポーション代はちゃんと返してもらうからな。後で知ってることは全て教えろ。いいな」


 ギードさんの言葉に、男は目をつぶり顔を伏せた。


 俺達はきのこ泥棒達を、歩けるまでポーションで回復させた。そして彼らをロープで数珠つなぎにして、鉱山の事務所まで歩かせた。


 ◇


 事務所に戻って、ギードさんは父に今日の出来事を説明する。


 ひとしきり話を聞いた父は、棚の引き出しから鳥のような物を取り出した。そして胴体のフタを開け、魔石を入れる。鳥型の魔道具みたいだ。


「鉱山のエリクだ。4人の犯罪者の引き取りを頼む」


 父は口元に魔道具を当て、発声する。音声入力だろうか。


「衛兵の詰め所に知らせる」


 そう言って父はドアを開け、外に投げる。鳥型の魔道具は羽ばたいて飛んで行った。


 おおー! 異世界通信だ! ハイテクだかローテクだかわからないな。


「さて、衛兵が貴様らを引き取りに来る前に、お話しをしよう」


 ギードさんが、部屋の隅に固まって座り込む泥棒達をギロリと睨んで言う。


「カイ、ヘンリ、お前らは外に出て待っていろ」


「はい、わかりました。でもどうしてですか?」


 ヘンリ君が、ギードさんに聞いた。


「教育上良くないと思ってな」


 こ、怖ー!


 俺はよくわかってなさそうな表情のヘンリ君の手を引いて、外に出る。


 事務所から上がる泥棒達の悲鳴を聞いたヘンリ君は、ようやく状況を理解したようで、顔を引きつらせていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る