第5話 新しい武器
ヘンリ君の魔力操作は、少しずつ上手くなっている。魔物に攻撃する時も、身体強化ができるようになった。
しかし魔力感知や瞬歩の方は、まだまだ向上が必要だ。
そして最大の問題は、メインの武器である棍棒を使いこなせていないことだ。コアラ達との訓練でも、ヘンリ君は棍棒の扱いに苦戦しているように見える。
確かに、無骨な棍棒を力でねじ伏せて叩きつけるようなスタイルは、華奢なヘンリ君に合ってないかもしれない。
ある日、ヘンリ君が学校で俺に相談をしてきた。
「カイ君、今度授業が終わった放課後、カイ君の家の裏庭を使わせてもらえないかな。あと、もしできれば、ナイフみたいな削る道具を借りたいんだ。棍棒を何とかしたいんだよ」
話を聞くと、最初に貰った武器である棍棒は気に入ってるが、使い勝手は良くないそうだ。だから、加工して良い武器に直したいとのこと。
「僕の方は問題ないよ。家族に聞いてみるね」
家に帰ってから父と母に相談すると、勿論良いと言ってくれた。
父は早速良さそうな加工の道具を探しに行き、母とセシル姉さんは、来たら何を食べさせるのか相談し始めた。俺の家族、ヘンリ君好き過ぎね?
◇
翌週、ヘンリ君は俺の家に訪ねてきた。そして家の裏庭で父から借りたナイフを使って、棍棒を削り始める。
ヘンリ君は「計測」を使って、棍棒の長さや重さを測りながら作っているようだ。棍棒を振るのに、理想的なバランスを探すらしい。
制作に没頭するヘンリ君は、何かを追求する職人のように見えた。
途中、ハチミツクッキーを持ってセシル姉さんがやって来る。ヘンリ君はお礼を言い、もぐもぐと美味しそうにクッキーを食べた。その様子を見るセシル姉さんは嬉しそうだった。
その日には終わらず、ヘンリ君は次の週も家に来て作業を続けた。棍棒を削る、「計測」で測る、振って試すを根気よく繰り返して、理想の棍棒制作をヘンリ君は目指す。
そして完成に近づいたのか、ヘンリ君はヤスリをかけて表面を整えていった。
やがて形になったのは、前世で見たことのある木製バットのような物だった。
打撃部分は太目で、持ち手となるグリップに向けて細くなり、すっぽ抜けないようグリップエンドが付いている。
「バットみたいだね」
俺はふと漏らしてしまった。
「バットって何?」
「あー、いやいや、何となくそんな言葉が思い浮かんだんだ。それより、打って叩くような武器だから『打撃棒』って名前を付けるのはどうかな?」
「『打撃棒』……いいね! この武器の名前は『打撃棒』だ!」
ヘンリ君のテンションが上がる。新しく制作した武器は「打撃棒」という名前になった。
そして父が様子を見に来たようで、近づいて来る。
「ヘンリ君、いい武器ができたじゃないか。ちょっと持たせてもらえないか」
そう言うと父はヘンリ君から打撃棒を受け取った。
父はそれを両手で持ち、軽く振る。あれ、魔力を打撃棒にまとわせている?
「ヘンリ君、魔力操作の練習をしていると聞いているよ。もしできたら、こんな風に魔力をこの武器にまとわせるんだ。すると強さが増すし、さらに魔力の質を工夫すると新たな機能を加えることもできる」
そう言うと、父は打撃棒を持って草原の方を向く。
「ちょっと使わせてもらうよ」
≪土操作≫
地面から土が浮かび、空中で固まって石の球になる。ゴルフボール程のサイズだ。
それを魔力に覆われた打撃棒で振り抜く。すると目で追えない程の勢いで飛んでいき、100m程先の土が盛り上がっている場所にめり込んだ。
「凄い! 凄いです! エリクさん!」
父はドヤ顔で自慢げだ。
俺は打撃棒から打ち出された石の威力に驚いたが、それとは別に石を打つという父のアイデアにも驚いた。
これ、野球を知らずに考えたとしたら中々の発想だ。でも、もしかしたら日本の転生者が、この世界に野球を既に伝えているのかもしれない。
その辺りの話は俺の出自にも関わるから、父とは少し話づらいけどな。
いずれにしても、ヘンリ君の武器の目途が立ったみたいだ。それに面白い使い方もできそうだし。
その後、父はヘンリ君に石の球を沢山作ってプレゼントしてくれた。
石の球は俺のアイテムボックスに入れておくことにする。練習する時にまた出せばいいしね。
◇
ヘンリ君は打撃棒を作ってから、元工場裏手の空き地で、打撃棒を用いた戦闘や石の球の打撃の訓練をしている。
コアラ達と一緒に、試行錯誤しながら打撃棒での戦い方を模索する。
打撃棒はリーチが短いから、相手の懐に飛び込む瞬歩の技術と組み合わせることが必要だ。
身体強化をコントロールしながら打撃棒を扱う、集中力が求められる戦い方になる。
そして、打撃棒に魔力をまとわせることも練習している。最初はうまくいかず、すぐに魔力が拡散してしまう。
それでも繰り返し取り組んでいると、膜のように打撃棒表面に魔力を満たせるようになっていった。
魔力をまとった打撃棒は、とんでもない破壊力だ。打ち合いの戦闘訓練が急に緊張感を増したよ。俺も棒に魔力をまとわせて応戦している。
ただ、石の球を打つのは難しいようだ。単純に魔力をまとわせて打つと、球を破壊してしまう。簡単そうに見えたけど、父も熟練者だからな。
いずれにしても、ヘンリ君の武器に目途が立ったぞ。
◇
それから数か月経ち新年を迎え、俺とヘンリ君は初等学校の2年生になった。
俺達は相変わらず、毎週坑道でのアシッドマウスの駆除の仕事を続けている。
基本的には罠での討伐だ。棒で特定の魔物を倒すのに慣れてしまうと、その動きが癖になってしまうとギードさんに言われた。だから最後の1匹だけ棒で倒している。
そして最近、坑道のアシッドマウスの数が減ってきたように感じる。以前は20匹駆除できた日もあったのに、今は少ない日だと8匹程度の時もある。
まあ、これまで総計で730匹程のアシッドマウスを駆除してきた。そろそろ坑道からいなくなってもおかしくない。
俺達がしつこく駆除したことで、ようやく目に見えて少なくなってきたようだ。
あと、俺とヘンリ君のレベルは5になった。
俺は強化180、魔力36のステータスになり、随分と体の動きやスキルの運用も楽になってきた。
ただ、最近は相当な数のアシッドマウスを倒さないと、レベルが上がらない。もうこのレベルの魔物だと、経験値としては足りないのかもしれない。
◇
そしてヘンリ君がいよいよ、ギードさんからの課題にチャレンジし始めた。
今日はヘンリ君の4回目の挑戦だ。
俺は少し離れた場所から魔力感知を広げて、様子を把握している。
ヘンリ君が広いスペースの真中に鉄くずを置き、4m程離れる。
そして光を消し、辺りは真っ暗になった。
ヘンリ君の体の表面から魔力が出ていくのを感じるが、その先の魔力はわからない。つまり、俺と同質の魔力放出が出来ているということだ。
やがて、アシッドマウスと思われる魔力が鉄くずのある場所へ近づいていく。
ヘンリ君の足裏に魔力が瞬時に集まる。その瞬間、魔物の側に移動した。
「ヤッ!」
バチッッッッ!!!
魔力をまとう打撃棒の鋭い回転が、魔物に打撃を与える。
光が点くと、上半身を失った哀れなアシッドマウスの姿があった。そして上半身が飛んだ先の坑道の壁が、大変なことになっている。
ちょっと勢いが付きすぎた? もうヘンリ君を怒らせない方がいいね。
苦笑いのヘンリ君。
「やったな! ヘンリも一から魔力操作を始めたのに、このスピードでクリアとは才能があるぞ。あと、力加減についてはこれから覚えればいい」
ギードさんはそう褒めてくれた。
ようやくホッとしたのか、ヘンリ君も喜びの笑顔だ。
そして、壁に「洗浄」をかけたりしてその場を片づけた後、ギードさんは話しを始める。
「もう、この坑道もかなりアシッドマウスの駆除が進んだ。ここまでくれば、少し高めの依頼料を出して、完全駆除依頼を冒険者ギルドに出してもいいかもしれん。完全駆除ができれば、鉱員長に念入りに開いた穴をふさいでもらい、入口も密閉すれば次の坑道の稼働時までは大丈夫だろう」
「そうなると、僕達の仕事は終わりですか?」
俺はギードさんに聞いた。
「いや、お前らは試験に合格した。だから次は森だ。鉱山周りの森の魔物の駆除と見回りをしてみないか。さらにレベルアップして、より強い冒険者を目指せるぞ」
ギードさんの課題は試験だったようだ。そして森の魔物の駆除と、見回りを提案された。
俺達は強い冒険者を目指しているわけではないが、レベルアップには興味がある。
そして仕事が続くのは金銭的にありがたい。坑道の仕事を始めて11ヶ月で、紙販売の代金も合わせるとヘンリ君は金貨40枚程稼いだ。あと金貨が430枚は必要だけど、森での仕事の賃金はさらに期待できるだろう。
俺とヘンリ君は目を合わせて頷く。
「もちろんやります。これからもよろしくお願いします」
「ボクもカイ君と同じ気持ちです。ぜひやらせて下さい」
「よし! いい返事だ! 次の目標は、森の主を皆で討伐だ!」
俺達はグータッチで決意を共有する。
ちょっとギードさんの目標達成は無理なような気がするけど、心意気として受け止めておこう。
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