第3章 少年の成長編

第1話 新たな出会い

 6才になって1月を迎え、俺は街中の初等学校に通うことになった。


 初等学校は、前世で言えば小学校みたいな所だ。6才から6年間通うのも一緒だな。


 といっても、週に3日、1日あたり3時間程度の授業で終わるから、そこまで拘束はされない。


 初等学校には平民の子供が通っている。


 貴族の子供はと言うと、殆どが家庭教師を雇っているそうだ。


 彼らは王都にある、名門の王都学園を受験するための勉強をしている。王都学園は平民も受験できるが超難関らしい。


 前世の受験勉強を思い出すと身震いするよ。


 ◇


 俺は今、汗をかかない程度に駆け足で、学校に向けて街道を進んでいる。


 魔力を足に巡らせて、身体強化の練習を兼ねて走っているのだ。魔力を使うが、疲れは歩くのと同程度になる。


 この走り方は、学校に入る前に母に教えてもらった。足を出す度に、地面を踏み込む片足の方に魔力の場所を切り替えると良いとのことだが、今の俺にそこまでの制御は難しい。


 初等学校までは、俺の軽めの駆け足で40分程度だ。普通に歩けば1時間程度の距離にある。


 やがて、街中に入って人通りも増えて来たので歩くことにする。


 さらに進むと学校が見えてきた。


 校舎は結構ボロイ。元倉庫を改修して作られたそうだ。予算が無いらしく、見た目より目的優先だ。


 でも初等学校は有難いことに、平民の授業料が無料だ。教育熱心な国で良かった。




 俺は教室の割り当てられた席に着き、授業が始まるのを待つ。


 周りのクラスメイトに挨拶はするけど、学校が始まって1週間程経った現在、会話を交わす友達はできていない。


 近所に住む子供達同士で幼馴染グループが既にできあがっていて、入る余地がないのだ。


 転生してもボッチ体質が改善されていない件について……まあ、気長に友達獲得作戦を実行しよう。


 先生が入ってきた。20才中頃に見える女性で、おっとりとした優しい感じの人だ。


 今日の最初の時間は、社会の授業だ。


 初等学校では主に算数、国語、社会の3分野を勉強する。


 授業の内容は実践的な内容が殆どで、読み書きやお金の計算といった社会に出るための常識を学んでいる。


 地球で一応大学まで進んだ俺にはあまり必要のないこともあるが、地理や歴史などの授業はためになる。


 <「マジカルゲーム」について>


 黒板に先生がチョークで書いた。


「では皆さん、今日は『マジカルゲーム』について学びます。皆さんは『マジカルゲーム』に参加されたことはありますか?参加したことのある人は手を上げて下さい」


 半分程度の人の手が上がった。結構参加してない人もいるんだな。


「はい、よろしいですよ。まだ参加していない人も、『マジカルゲーム』について聞いたことはあると思います。どうしてこの世界に『マジカルゲーム』があるのか、その理由をお話ししましょう」


 そうして先生が説明してくれたところによると、「マジカルゲーム」は管理者と呼ばれる神界にいる神様達が、天界の天使を通じて下界の人間に分け与えた贈り物だそうだ。


 はるか昔、この大地であるハーベティアは、豊かな実りがあり過ぎて人々の進歩が止まっていたそうだ。人々は豊富に採取できる作物、そこから育つ動物を必要なだけ得て満足し、未開の文明のまま何万年も時を過ごしていた。


 それを変えるために、管理者は魔力を外の世界から取り入れ、また精霊の助けを借りてゲームを導入し、人々への刺激としたのだと言う。


 確かに生活に困らないと、そこで満足してしまうかもしれない。それでいいのではと思う俺のような考えは、小市民過ぎて管理者の感覚では満足できなかったのだろう。


 そして現在では、ゲームで糧を得て生活する人も増え、下界に根付いたとのことだ。


 先生は様々なゲームの目的と活用について説明してくれた。


 その中でも興味を引いたのは、マジPを貯めるとSPに交換できることだ。そしてSPによってスキルを得ることができる。


 結構なマジPが必要みたいだけど、ゲーム攻略を頑張ればスキルを得られるのは嬉しいな。




 ただ、俺は5才の時の「初めてのマジゲ―」以降、ゲームには参加していない。


 両親と相談した結果、そうすることにしたのだ。「初めてのマジゲ―」では、たまたまフィルベルト君がいたことで、均衡した良いゲームになった。


 しかし、普通だったら圧倒してしまい、周りの子供達に悪い影響を与えるかもしれない。そして、俺にとってもその経験は成長につながらないだろう。


 だから、もう少し年が上がり、高年齢の子達と一緒に参加できるようになってからの方が良いとのことだった。




 そして3時間の授業時間が終わり、次は昼の給食の時間だ。


 給食は何と、無料で食べることができる。


 主にパンとスープが出る。スープにはしっかりと野菜と肉が入っていて、そこそこ美味しい。


 これを目当てに通う生徒もいるみたいだ。


 子供は労働力と考え学校に通わせるのを渋る親もいるから、こうしたサービスは出席率を上げるのに有効だろう。


 授業料も無料だし、この国の評価が俺の中で上昇したよ。




 給食も終わり皆が帰り支度を始める頃、俺は一人の少年に目が留まった。


 余ったパンを余分に貰って、袋にしまっている。


 その袋も、着ている服も継ぎはぎだらけで、一目で貧しい様子がわかる。


 生活魔法の「洗浄」があるから清潔ではあるけど、食事をちゃんとしていないのか痩せていて健康そうに見えない。


 銀髪で整った容姿から、薄幸の美少年と言った感じだ。もし栄養が取れて衣服をキチンとすれば、皆が振り返るルックスになるだろう。


 何となく気になった俺は、学校を出て彼が帰るのを少し距離を取って付いていく。これってストーカーかな?


 帰り道も同じ方向みたいだ。俺は勇気を出して、駆け足で彼に追いつき声をかけてみた。


「やあ、学校で同じクラスのカイって言うんだけど」


「あ、う、うん……」


「あー、何か帰り道が同じ方向だったから、声をかけてみたんだ。大丈夫だった?」


「うん、別に大丈夫だよ……」


 そこから俺のコミュ力では中々話が繋がらなかったが、嫌がっている様子でもなかった。


 その日は帰り道の途中で別れることになった。


 ◇


 それから数日、教室で会えば挨拶をするぐらいにはなり、名前もヘンリ君であるということがわかった。


 そして何度か一緒に帰っている内に、段々と打ち解けて自分の話をしてくれるようになった。


「実はボク、奴隷の息子なんだ」


 ヘンリ君が教えてくれた。


 転生後、奴隷について初めて聞いたな。天界で平民の境遇を選ばなければ、俺も奴隷の子供になっていた。


「親が借金を返せなくなって、1年ぐらい前から商会の人の奴隷になっているんだ。ボクは奴隷ではないけど、その商会の人に借金をしていることになっている」


「借金って、どういうこと?」


「親は借金があって、僕を育てるお金が無いんだよ。だから、商会の人が親にお金を貸して、本当はそれでボクにご飯を食べさせたりするはずなんだ。でも、親は食べ物や服をぜんぜんくれない。親はそのお金を返すつもりは無くて、ボクの借金になると言っている。そして、お金を返せなければ将来ボクは奴隷落ちになるんだよ」


 つまり、親は養育費を貰うだけで実際には世話をせず、最後には借金としてヘンリ君に押し付けるってこと? そんなことあり得るの?


「そんな……その借金は返せそうなの?」


「とても無理だよ。今も週に3日は商会で働いているけど、そこで貰えるお金は生活するだけで殆ど無くなるし、ほんの少ししか貯まらないんだ。それに、その商会の偉い人は僕を見る目が変なんだ。やたらとボクに触ろうとしたりもする。だから、ボクを奴隷にして自由にするために、親にお金を貸しているんじゃないかと思ってる」


 な、なにーーーー! そいつはヘンリ君を、将来手籠めにしようとするヘンタイじゃねーか!!


 俺はどうにかしなければと思ったが、この世界の事情に疎い俺が何か考えても、トラブルになるだけだろう。


 こんな時は頼りになる人に相談だ! 今日は休みになったと言っていたから、家にいるはずだ。


 俺の家は遠いから、ヘンリ君の体力だと歩くのはしんどそうだな。


「ヘンリ君。この後時間は大丈夫?」


「うん。今日は仕事の日ではないから大丈夫だよ」


「じゃあ僕の家に行って、その問題を解決する方法を考えよう。僕の親なら何かアイデアをくれると思うんだ。家は遠いから、僕がヘンリ君を背負って走って行くよ。ほら、僕の背中に負ぶさって」


「え、その……」


「遠慮しなくて大丈夫。一人で悩んでも解決しないよ」


 俺の押しに負けて、ヘンリ君は俺の背中に背負われた。


「よし! ゴー!」


 俺はこれまでになく足に魔力を循環させ、街道を駆けていく。それにしてもヘンリ君は軽い。もっと栄養を取らないと。


「カイ君凄いね。それにありがとう」


 背中のヘンリ君に耳元でささやかれて、俺は一瞬新しい扉を開きそうになった。


 俺はそれを振り払うため、さらにスピードを上げて家路へと急いだ。

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