第10話 伝える勇気
コカトリスの調査から戻り一息付くと、無事に終わった安心感でお互い顔を見合わせて笑顔になる。
俺はクトウさんに言った。
「おそらく攻略法が見つかったと思います」
実は、コカトリスの毒を吐き出す時に膨らむ、喉の袋にキーとなる特徴があった。
袋の側面は赤茶色だが、その下側の色は2種類あった。大人のオスが白、メスは黒だった。
そして子供も、喉の袋の下は白か黒どちらかだ。
その場合、子供の袋の下の色をチェックして、白だとオス、黒はメスと推測できる。
通常時、袋の下側は隠れて見えなかった。だから意図的に毒を吐かせて、その際に色を確認することになる。
石化の毒は、縮れた草による「状態異常耐性」の効果でカバーする。
勿論、この判別法は推測に推測を重ねたもので、本当に正しいかどうかはわからない。
だけど、この考えにクトウさんも納得してくれた。
毒煙に対する「状態異常耐性」の効果は大丈夫とのこと。多少の量であれば、毒煙は防げそうだ。
そして、6羽を観察した後「状態異常耐性」の残り時間は、まだ1分程余っていたようだ。だから、必須の5羽をチェックしても、時間は間に合いそうだ。
あと、魔力の残りは大丈夫か聞くと、「闇治療」と「影操作」合わせて計4回程は使えそうだと言う。
もう一度、コカトリスの調査に行くことも考えた。ただ、ちょっとした不注意で蛇にかまれたり、足で蹴られたりして、「闇治療」でも治らない怪我を負う可能性もある。
本番に支障が出ることも考え、これで調査は終了だ。
俺達は話し合い、鑑定に挑戦することを決めた。
◇
俺達がコカトリスのいる場所に行くと、周りに結構人が集まってきた。スキルを使ってたし、毒を浴びても平気だったので目立ったかもしれない。
残りの時間は後2時間程。皆生き残りをかけて必死だろう。クリアできなければ、地獄行きの人もいるはず。
そして、俺は皆に助けとなるであろう情報を持っている。
俺は皆の様子を見て決心した。皆のため……だけではなく、自分のためにも。
「クトウさん、俺も『勇気』を取ることにします」
「……はい。やっぱり『勇気』はあるといいかもしれません。『勇気』なくあのモンスターの目の前に立つと、足が動かなくなりますから」
俺は首を振った。
「いえ、コカトリス対策のため『勇気』を取る訳じゃないんです」
「だったらどうして?」
「俺は、ここで皆にゲームの攻略法を伝えて共有したい。皆の役に立ちたいんです。でも、俺は恥ずかしい話、人と話すのが苦手で……特に大勢の人がいる前で話すのは無理なんです。だから……だから人前で話すため、伝えるための『勇気』が欲しい。攻略に役立つことじゃないかもしれないけど、俺の次の人生には必要なんです」
クトウさんはちょっと驚いた様子を見せた後、少し考え込んでいた。
「わかりました。でも、約束して欲しいです。必ずゲームを成功させると」
「もちろん、そのつもりです」
俺はステータスウィンドウを操作して、「勇気(小)」を1SPで取った。
光の玉が、俺の体にスッと入った。
胸の奥に、俺を前に押し出してくれる力の存在が作られたのを感じる。
<勇気(小)>
恐怖や未知の経験等、困難に対して勇気を持って向かうことができる。常時起動。初回起動時に魔力1使用。天界のみ取得可。
これで残りは0SP。退路はなくなった。
俺は、周りを取り囲む参加者を見た。俺に注目する視線を感じ、少し怖気付いてしまう。「勇気(小)」を取っていなければ、いつもの様に頭が真っ白になり、動けなくなっていたかもしれない。
落ち着かず横を見ると、俺を安心させるようにクトウさんが微笑んでくれた。その気遣いにちょっと照れてしまう。
俺は息を深く吸って、ゆっくりと吐いた。
大丈夫だ! 皆にとって、俺の話は求められる内容のはず!
俺は覚悟を決めた。
そして皆に向かって話し始めた。
「み、皆さん。俺達2人はこれから鑑定にチャレンジします……声を出しながら進めるので、もし俺達が成功したら同じようにやってみて下さい。逆に失敗したら真似しないで下さい」
声はしっかり出てる。頑張るんだ!
「ポイントはコカトリスの喉の袋、下側の色になります。『白オス、黒メス』、この組み合わせを覚えて下さい……あと確実なトライをしたいので、俺達2人のチャレンジが終わるのを待ってから、皆さんは行動してもらっていいですか。お願いします」
よしよし。ちゃんと言えてるよ!
そして、俺は手に持っていた縮れた草を掲げた。
「この縮れた草はあちこちに生えている、コカトリスの毒を浴びても石化しない草です。食べると10分間、状態異常耐性が付きます。これでコカトリスの毒を防ぐので、まず最初に食べてから挑みます。ではチャレンジまで少し待っていて下さい」
話し切った! よく話せた俺!
「おおーーーー!」
とどよめきが起きた。
そして、どこからとなく拍手が沸き上がる。「頑張れー」とか「成功したら後でプロポーズかー」とか色々な声が上がる。
変な冷やかしはともかく、反応があったのは嬉しかった。皆がちゃんと聞いてくれたことに安堵した。
これで後はチャレンジするだけ。と思ったけど、あと一つクトウさんに言うことを忘れてた。
「最後に一つお願いがあるんです。先に俺が挑んで成否を確認してから、クトウさんのゲームを始めてもらえませんか。例えば、もし俺が1羽目を失敗した場合、色とオスメスの組み合わせを逆のパターンにして宣言すれば、クトウさんの勝率は上がるはずです」
「だ、ダメ、ダメですよ! そんなこと言っちゃ! さっきもカッコよかったのに2回も続けちゃダメです。い、いや、私が先にします。私が先に挑んでから、ミツキさんが後に続きます」
とクトウさんが慌てて言う。
カ、カッコよかった? そ、そんな言葉には誤魔化されないぞ!
俺は首を振る。そしてクトウさんの目を見て言う。
「ダメです。コカトリスと対峙して、最初に毒を浴びるのはクトウさんに譲りました。だから次は俺に任せてもらえませんか?」
周りで「痴話喧嘩だな」とか、勘違いした声が聞こえる……そういえば皆に注目されてる状態だった。
「……わかりました。でも絶対に成功させて下さいね」
「はい! 成功させますよ!」
俺はクトウさんを心配させないよう明るく答えた。
俺達はお互い、どのコカトリスを狙っていくか相談した。俺はスタートするポイントに向かって歩いて行く。
白オス、白オス、黒メス、黒メス……俺は答えを間違わないよう、繰り返し心の中で唱える。
よし! チャレンジの時が来た!
縮れた草を食べる。2度目でもニゲー!
そして、ちゃんと視界に「状態異常耐性 残り 10:00」と表示された。
俺は飛び出し、コカトリスに向かって走る。
正直に言います。「勇気(小)」取ってて良かった。今めちゃ怖い気持ちを抑えてます。
凶悪な目が俺を睨む。そして喉の袋が膨らむ。俺に邪悪な毒煙を浴びせようとする時――
「黒! お前はメス!」
指を指して声を上げると、コカトリスは光の粒子となり消えていった。
「スゲエ!」
「素敵―!」
「あと4羽だー!」
歓声と声援が飛び交う。皆、興奮しているのがわかる。
俺は夢中になってコカトリスに向かう。そして野原を駆け回り、次々に鑑定していった。
少し毒煙を浴びることもあったが、「状態異常耐性」のおかげで平気だ。
気づくと5羽のノルマを達成していた。
<「鑑定のアルバイト」クリア>の表示が出た!
相変わらずのんびりとしたタリムが出てきて、「キミ、頑張ったね~」と褒めてくれた。
俺の足元に魔法陣が生じ、光に包まれた。
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