初めての心霊体験
先に言っておくと私の家系、特に女性は霊感体質の人が多かった。母や姉、叔母や祖母、親戚の女性陣など様々な心霊体験を経験している人が多かった。
逆に男性陣はほとんどそう言った霊感というものを持っている人はいなかった。もちろん私もその中の一人だった。
少女の夢を見て1週間ほどが過ぎた日の夕方の事だった。
家で寝転がりながらテレビを見ていると後方から誰かに見られている様な気配を感じとった。
私の他に家にいるのは母のみだったが、母は台所で夕飯の支度をしているので後ろにいるはずがない。
振り返ってみてもそこに人の姿はなかった。あまり気にしない様にして再びテレビに目をやるが、どうしても消えない気配と違和感を感じた私は立ち上がりその気配の元に向かって歩いていった。
家のリビングを出て廊下を進んで行く。その妙な気配は風呂場の方向へと伸びていた。風呂場の手前は洗濯機があり脱衣所になっているのだが、そこに近付くにつれ気配は強くなり更にパチっパチっという何かが弾けるような音も聞こえてきた。
恐怖心が無かったわけでは無いが、その音と気配が何なのか確かめたいと言う好奇心の方が優っていて、特に躊躇う事もなく脱衣所を覗いた。
そこにはいつもと変わらない普段通りの空間が広がっているだけだった。
気のせいか。そう思った私は脱衣所に背を向け戻ろうとするがやはり何か嫌な気配を感じる。脱衣所に背中を向けた瞬間からその気配は強くなり髪を引っ張られる様な脱衣所に引っ張り込まれそうな違和感を感じた。
誰かに背中を撫でられた時の様な寒気が全身を駆け抜けた後、ゆっくりと首を締め付ける様に寒気がまとわりついてきた。
子供ながらにこれは普通じゃないと感じ、意を決して振り返った。だがそこには何もいない。首にまとわりついていた寒気もその時には消えていた。
パチっパチっ。また謎の音が鳴り始めた。その音のする方へと目を移すと風呂場の照明のスイッチが一人でにオン、オフを繰り返していた。
子供だった私でも目の前で起こっている出来事が異常な事だと理解出来た。今すぐにでも母を呼ぶべきだとは分かっているのだが足が動かない。金縛りなどではなく、何か恐ろしい何かに見つめられている様な恐怖と緊張感で体が動かなかった。
パチっパチっと一定の間隔で規則正しく鳴り響く脱衣所で動く事が出来なくなった私はただひたすら私を見つめている何かがいなくなる事を願った。ガタガタと震えながらその音を聞いていた時、ふと脱衣所の右隅に違和感を感じ視線を移すとそこには白いモヤのような塊が落ちていた。
雲の様に白く丸みを帯びた「それ」は少しだけ左右に揺れるとゆっくりと収縮し形を成し始めた。
人型へと形成されていく「それ」が白い着物を着た白髪の老婆だと認識した瞬間、私は叫び声を上げ部屋を飛び出そうとしたがそれより早くその老婆の様なモヤが私の体に覆いかぶさってくる。
視界を白いモヤに包まれたと思ったその時、誰かに腕を掴まれ勢いよく体が後方へと引っ張られた。
声になっていたのかは分からないが私の叫び声を聞いたのか何か異変を感じ取ったのか、母が私の腕を掴み脱衣所から引っ張り出したのだ。
突然の事に私は驚き母の顔を見た。その顔は今まで見たことの無い焦りとも恐怖とも取れる必死な形相で脱衣所を睨み、私を腕を掴んだまま無言でリビングまで連れ戻された。
座った母は私の目をじっと見据えたまま静かに話しを始めた。
変な違和感を感じてもそこに近づかない事。何か見えたとしてもそれに話しかけたり目を合わせたりしない事。を私に約束させると母は元の優しい表情に戻った。
母にあの老婆の様なモヤについて聞いた事は無いが、母も何か見えていたのは間違いない。
これが私の最初に体験した心霊体験だった。
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