第六話 リアル詐欺師と男気

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「お湯湧いたから薬草入れるねぇ」

「そ、そんな一度に??」


 どデカい鍋を薪にくべて湧き水を沸かし、薬草を次々と放り込む巫女。そんなでっかい鍋どこで売ってるの??

 


「これでちゃんと完成するのか?」

「できるよぉ。普段どうしてるの?」


 巫女が大きな棒で鍋をぐりぐりかき混ぜてる。


「スキルに書いてある通り、葉っぱ毟って筋をとって、花を1枚1枚外して…」

「それやると効果落ちるよ?筋に力が籠ってるのにもったいない。丸ごとぶち込んだ方が効果的デス。湧き水を使えば筋も根っこもぜーんぶ溶けるよ」

「まじかよぉぉぉ…」

 

 絵に描いたようなorzになる自分。衝撃がすごい…ヒーラーはとにかく回復薬を使うから…今までの作業が走馬灯のように浮かんでは消えていく。

 スキル説明の嘘つきっ!!!

 



 現在地、ダンジョン出口の一角、焚き火をたける場所でお薬作成中。

 俺なら見てもいいと言われて見学してるんだが、薬学持っている俺からしたら…とんでもない作り方だ。


 薬草は根っこを含めた全体を丸ごと煮てる。下処理しなくていいなんてとてもじゃないけど受け止めきれない。毎回毎回下処理に何時間もかけてたんだ…うぅ。

 巫女はどこまで今までの常識を塗り替えていくんだ!?怖いよ!!!



「あと狂骨の粉と、神宮の清め塩と、ちょびっとだけハーブの青の葉っぱだけ入れてぇ」

「おいっ、レシピ言わないの!」

「コレは独り言だからぁ」

「ぐぬぬぬ」

 

 ニコニコしながら材料喋るのやめて。レシピ秘密にして!俺のスキルに作り方が記録されちゃうでしょ!

 

「最後にボクの血ぃ」

「えっ」

 

 小さな懐刀でサク、と人差し指を切りつけてぽたぽたと血を注ぐ。

 あ、なるほど。それは真似出来ないな。

 巫女の狙い通り、俺のスキルにレシピは追加されたが。名前、効果ともに???表記。

ふ、そろそろ見慣れたな。




「リアルの効果がどこまで適用されるか分からないけど、ボクの体液には色んな効果がありましてぇ」

「言わないでっ!せめて囁きにして!人がいるかもしれないだろ」


 キョロキョロと辺りを見回す。

 雑草がモサモサ生えてて、松の木や杉の木が乱立してる森の中だが隠密スキルがあれば見えないからな……。


「結界張ってるから紀京にしか聞こえてないよ?」

「防音結界?!あぁ、でも巫女はスキル上限だもんな。できるのか」


「スキルじゃないよぉ。ここでは別々なのかな?ボクの結界はその場を浄め祓う、防音、侵入不可、ある程度なら攻撃も弾くよ。こういう物を作る時はやった方がいい。御札もそう」

「なるほど、俺の札効果が薄いのはそれか」




 お店でも札を売ってるがあんまり効果がないから全く売れません。使ってる人がそもそも余りいないんだよなぁ。

 それにしても。さっき切った指が気になる。回復したろ。


「んふふ。くすぐったい。紀京の法術優しいね」

「そうか?皆同じだろ」


「ううん。力にはその人の心がこもるから。紀京だから優しく感じたんだよ。ありがとう」

「お、おう」


 ふー。相変わらず殺傷力の高い言葉だ…。

 回復してもしなくても変わらないかもしれんが、巫女は喜んでくれるのか。俺だからだって言ってくれて…そうかぁ…思わずニヤけてしまう。




 俺がニヤけてる間に巫女はガラスの瓶を簡易結界から取りだし、大量に並べていく。陽の光を弾いてキラキラ輝いてる。瓶は道具屋のやつだな。俺も同じのを使ってる。使い終わると消えるやつがゴミにならず一番いい。

 


「所で何の薬作ったんだ?表記が?でわからん」

「何の薬?あっ。普通ってもしかして、体力と神力は別?」

「な、なるほど…理解した。もしや状態異常も含まれるのか?」

 

 恐ろしいもののレシピを知ってしまったんじゃないのかこれは。

 


「えっと、体力、神力、状態異常と一本丸ごとなら、反魂も含みます」

「それは大変マズイです。今後絶対見せたらヤバいやつ…みんなの前で使うならこっそり頼む」

「は、はぁい…」




 巫女は何やってもこうなるんだな。よく分かった。

 普通は体力、神力、状態異常は別々の薬だし。その中でも毒のみ、混乱を治す気付け薬、中毒回復に別れる。反魂は薬学があっても薬にはできないんだ、普通は。

 反魂の術か、道具屋で売ってる、伊邪那美の涙を買うんだが。

 あっ…伊邪那美と言えば!



「巫女、伊邪那美って昨日言ってたよな?生まれ変わりって、もしかして…」

「ううん。ボクは伊邪那美本体じゃないよ。大したことないけど、眷属って言って何世代か前は魂の繋がりがあったから。

 ボクの由来は桃の神様だって。邪気を払う桃の花、果実は不老長寿の仙果とされるんだよぉ。

正式には意富加牟豆美命オオカムズミノミコトって言われてるねぇ。」


「桃か。ピッタリじゃないか」

「そ、そぉかな」


 ほんのり頬を染めて、薬液をかき混ぜる速度が早くなる。やっぱり桃の花は巫女にピッタリだ。

かき混ぜ終わったのか、長い棒を布で拭いてストレージに戻して大きな柄杓が取り出される。

 懐かしいな、俺もそうやってたよ。



「薬液注ぐならスキルの方が楽だからスキル使ってみなよ」

「えっ!?そうなんだ!あ、充填てやつかなぁ?」

「そうそう。きっと感動するぞ」


 巫女がスキルボタンをポチッと押すと、出来上がった透明な薬液がキラキラしながら瓶に勝手に注ぎ込まれ、蓋が締められる。

 これ取得するまでは大変だったなぁ。

手作業だとこぼすし火傷するし。数が多いと精神も腰もやられるんだ。俺の腰は薬作りで鍛えられたと言っても過言ではない。

 


「なんて便利なのぉ!?素晴らしい!!」

「そうだろうな…巫女はしばらくその驚きが、度々あると思うよ」

 

 俺はもっと驚きの連続ばかりだけどさ。

 素直に楽しい。ゲームを始めた頃みたいなワクワクを貰ってしまっている。



 突然コンコン、と音がして振り向く。結界叩いてる?

 

「あれっ!?獄炎さんに殺氷さん?ログイン通知来てないぞ」


 赤と青の二人が結界の外にいる。

 オフラインで行動してるのかな?秘密のお話か?俺達も今オフラインのままだがよく見つけたな…。



「んしょ。どうぞ」

 

 巫女が地面の上から透明な布みたいなものを持ち上げ、そこをくぐってふたりが結界内に入ってくる。結界って……そういう入り方もあるのね。


 

「おはようございます、お薬作りですか?」

 

 殺氷さんと獄炎さんがニコニコしてる。昨日とは違って人懐こい柔らかい微笑みだ。

 あっ、まずい!薬を…ってもうしまってたか。よかった。ホッとしてると巫女が目を合わせて微笑んでくる。

 ん゛っ…うん、よしよし。

 背中をポンポンするとますます深くなる笑みに咳払いを落とす。

 ふー。昨日からどうも俺はおかしい…はぁ。

 

 


「でっけー鍋だなぁ。こんなに作って神力枯れねぇのか?すげぇな」


 獄炎さんは中身が空になった鍋を覗いてる。

 本当にそうなんだけど、パーティーを組んでる俺には残存神力が見えている。

 ほとんど減ってません!はい。

 ところで、二人とも軍服姿なのはなんでだ?軍服はギルドマスターのみ所持できる装い。メンバーの人数が三百人を超えたギルドだけに貰えるものなんだよな。


 襟元までがっちり襟首が閉められて、肩にはヒラヒラした紐とか着いてるし、腕章とか、でかい金のボタンとか、階級章とかがモリモリついてる。赤と黒と金で統一されたかっこいい服だ。


 装備じゃなくて見た目を変える洋服だから付与効果は無いけど。その服には意味を持ってる。


 ゲーム内の自警団に属してて、ルール・マナー違反やボットと呼ばれる中身が居ない人たち…RMT用キャラ育成をやってる違反者の通報してくれたりと、まるで警察みたいな事をしてくれる人たちの制服になってるんだ。

 ギルドマスターの仕事は沢山あるんだよなぁ。

 お二人はお偉いさんだから階級章がたくさんついてて煌びやかだ。




「紀京、メッセージ見て探してたんだ。あれお前んとこのマスターにも送ったか?」


 おや?厳しいお顔。何かあったな。


「いや、ログインしてから対策も兼ねて直接話そうと思ってたのでまだ送ってないですよ?」


 殺氷さんと獄炎さんが顔を見合せて頷く。


「間に合ったか…皇が規約違反で、アカウント凍結された」

「えっ!?いつですか!?」


「凍結自体はつい先程です。猶予期間から動けなくなりますが…本人も察していたでしょうね。

 鉱物発掘の洞窟で、中身が居ないまま掘り続けていたのを自警団が見つけました。

 外部のチートソフトで自動プレイをしていたようです。メッセージを送っていなくてよかったですよ。危なかった」


 巫女と二人で顔を見合せて青ざめる。

 マジか…マスターが…。




「凍結ですので異議申し立てをすれば復活する可能性はありますが、あのキャラクターでゲームをしていくのは難しいでしょうね。公式掲示板にも晒されていましたから。ゲーム内の人間はほとんど知ってると見ていいでしょう。

 ギルドは清白によって追放されています。彩の神札は崩壊するかもしれません。清白がどう動くかですが。そして、問題がひとつ。」


 殺氷さんが目配せして、獄炎さんが頷く。

 

「巫女の話を聞いちまってる。称号については考察の域を出てねぇが、あのダンジョンをクリア出来るやつなんかいねぇし、それはいいとしてだ。

 巫女の素性、能力、スキルまで知られてるからな。マジでマズイ」


「あの人はインターネットにかなり強いコネクションを持っています。それこそヌチャンネル作成者の名無しとも繋がっている。

 普段から倫理観が低いため、何度か疑いがかかりましたが今回明るみに出てしまった。

 アカウントが凍結されるとして、狙われるのは巫女でしょう。新たに別のアカウントを作成して、巫女を脅してでも何かを成そうとしてくる可能性があります」




 それは良くないな…。

 巫女の情報を売り買いする可能性もあるし、晒されたらそれこそまずい。

 興味本位で巫女の身元を探る人が出たら、行方不明者を増やしてしまう。

 そしてゲーム内でも巫女をカモにしてやろうという人が出てくるだろう。ネット配信もあったし避けられない部分かもしれないが、追い剥ぎやらクレクレの人たちが群がる可能性が出てきた。

 巫女にとっては害悪にしかならない。

 そして件の裁定者称号も狙われるだろう。


 


「ボクは大丈夫だよぉ。新しいアカウントで現れたとして、そうだなぁ…レベル上げに使われたって、僕以上に強くなれるかは疑問だしねぇ。

 称号が心配だからあと二人、取ってしまえばいいんじゃない?サクッと。」

「「サクッと…」」


 三人で巫女を見つめる。

 本当になんとも思ってない顔なんだよなぁ。うーん。サクッとは、ちょっとなぁ…。




「マスター二人に授けてもいいけど、ごめんね。一人は紀京にして欲しいなぁ。」

 

 突然の発言にびっくりしてしまう。マスターたちも驚いてるぞ。

 

「えっ!??な、なんでさ??」

「紀京の事信頼してるから。ほかに理由なんかないよぉ?」

「そ、そう…そうか…そうかぁ 」


 巫女の笑顔を真正面から受けて、俺は顔が熱い。多分真っ赤になっているとは思う。




「お前、手ぇだしたのか?」

「紀京?まさかとは思いますが」


 マスター二人が剣呑な眼差しになる。えっ、なにこの流れ??


「ノーノーノー!!な、何も、いや何もでは無いか?違う!いかがわしいことはしてません!!」

「そうそう。お布団で一緒に寝ただけだよねぇ」

「ちょっ!巫女っ!!しいーー!!」


「「ほー…?」」

 

 いたたた!二人して肩をがっちり掴まないで!あれは仕方ないと思うんだが!


「何をしたんですか?巫女に」

「おい、正直に吐け。今なら一瞬で済ませてやるぜぇ」

「な、なんもしてないって!うわーーーん!!」




 ━━━━━━


「なんだよ、勘違いさせやがって」

「紛らわしいですね」

「俺のせいか?違うよな?」


 結局俺の店で四人話し合うことになり、お家に帰ってきました。なう…。

 疑いは晴れた。巫女が説明してくれなきゃ俺は監獄行きだったぞ。


「称号のことはもう少し後で詰めましょう。まずは巫女の安全対策と、彩の神札がどうなるかですが。清白がログインしていませんね」

「いつもならそろそろ来るはずなんだけどなぁ?」


 清白のアイコンはログアウトのままだ。



 ふと、お茶のカップを抱えた巫女がドアの方に、ふわりと髪の毛を揺らして振り向く。

「来た。スズだよ」

「えっ!?」


 直後に鳴らされるチャイム。わー、訪問前に分かるのかぁ。しゅごい。


「はいはいっと…よっ!清白。お疲れ様」

「なっ!なんでわかった!?…あぁ、マスターたちもそろい踏みか。ちょうどいい」




 清白がスタスタと入ってきて、マスターたちに近づく。腰を折って、頭を下げる。


「遅くなりましたが、この度はご迷惑をお掛けしました」

「清白、お前のせいじゃねえだろ?そういうのはやめろ」


「そうですよ。いくらサブマスターとはいえ、規約違反の責任は背負わずともよろしいのでは?」


 頭を下げたままの清白が眉をしかめて叫ぶ。


「そばにいながら!…何度も怪しいと思いながら、止められなかった!!確証を掴むまでと思っていたんだ。でも…」


 顔を上げた清白は、巫女を見つめる。



「ごめん…巫女。あいつにお前の事を知らせてしまった。多分、危険な目に遭わせることになる。もっと早く証拠を掴んで、もっと早く、俺が動けばよかったんだ。何も出来なかった俺のせいだ。ごめん」

 

 もう一度頭を下げた清白。肩が震えてる…。

 巫女が立ち上がって、清白を抱きしめた。背中をとんとん叩きながら、頭を撫でてる。




「大丈夫。スズはなぁんにも悪くないよ。一生懸命してきたんでしょう?

 マスターとも仲良しだったもんね。辛かったね…。スズが謝ることじゃないよぉ。何でもかんでも背負わないの。よしよし…」


 優しい顔で肩の上に清白の顔を乗せて、柔らかく撫でてる。

 震えていた清白が少しずつそれを収めていく。

 目を瞑った清白が、一粒だけぽろん、と涙を零した。



「ガキ扱い…すんな。バカ」

「大人でもしていいって、紀京が言ってたよぉ?たまにはいいじゃん。ねぇ、紀京」


「…そうだな」


 うん、何をしたかバレた気がするが。これは仕方ないな。うん。

 マスターふたりの目線が痛いです。




 清白の手を引いて、ソファーに座る巫女。手を握って、浮かない顔をのぞき込む。


「マスターには凍結した後に会ったの?」

 

「メッセージが来てた。多分、凍結される直前に。全然反省してない。むしろ転生楽しみにしてて☆って書いてやがった。」

「わ、わぁお。なかなかだねぇ。」


 うーん、マスター。元マスターか。今後明らかに危害を及ぼしそうだな。



 

「それで、ギルドはどうする?」


「紀京はまだ見てないんだな。ギルメンははほぼ脱退済みだ。

 残っているのは同情してくれた人と、幽霊部員だけ。監視役すら居ない。

 ギルドの共同資金がマスターにごっそり引き出されていたから、その件について山ほどメッセージが来てる」

 

 えぇ…?ドロボーもしたんかいっ!

 待って、共同資金ってギルド運営のために貯めてたお金のことだよな?



 

「清白、覚えてるだけでも金額が物凄かった気がするんだが」


 清白が頷く。事態の割にはスッキリしてる顔だな。覚悟が決まってるってことか。


「家を売って、装備も手放したが全然足りない。運営からも詐欺になる可能性があると通告が来てる。一ヶ月以内に返済期限を設定されて、不履行は俺もアカウント凍結だ。

 ダンジョンに潜りまくって、元ギルメンに返済して行くと約束してある。

 俺自身はリアルの仕事を有給にしてもらって、一ヶ月休みを取った。それでも返し切れるか微妙だけどな」


 獄炎さんと殺氷さんがため息をつく。


 

 

「お前事前に相談しろよ!うちから出してやる」

「うちも出しますよ。そもそもあなただけのせいでは無いでしょう。何故そこまで背負うんですか?」


 清白が顔を伏せる。手のひらを握りしめ、爪がくい込んでいく。


「俺と…付き合ってたんだ。リアルでも。婚約寸前だった」

「えっ!?ま、マスターのリアルと…清白が恋人だったのか?」


 ふ、と自嘲して清白が頭を抱える。おうおう、手から血が出てるぞ。こっそり治療しておこう。

 俺の回復法術を見て、巫女が微笑んだ。




「所謂美人局つつもたせってやつかな。画家をめざしてるって言ってたから。散々絵を買った。本業は風俗嬢だ。

 それも、仕事としてやっているなら良かったんだ。騙せる男を探すためにやっていたってよ。俺、リアルもゲームもすっからかんだ。笑えるだろ?」


 なにを言えばいいのか分からない…。

 マスター、それこそガチの詐欺師じゃないか。清白が背負う必要なんてあるのか?


 

「清白、お前だって被害者だろ。そこまでする必要があるのか?」

「ある。俺は仮にも恋人として付き合ってたし、好きだった。裏切られたとしても付き合っていた奴の後始末は俺がやる。男として、そうしたいだけだ」


 

「潔し!!!」



 ガバッと巫女が立ち上がる。びっくりしたな!突然どした?

 マスター二人もびっくりしてるし、清白がひっくり返りそうになってるぞ。


 

「ボク、そういうの好きだよぉ。つつ…何とかは分からないけど、要するに、清白はマスターの事好きだったんだよねぇ?だからそれを引き受けたと。ボクに任せて!億万長者にしてみせる!」


 巫女がすごいテンションになった。でもごめん。難しいぞ。




「あのな、巫女、清白はおんぶにだっこが本当に地雷なんだ」

「確かに」

「ガチ切れしますね」

「紀京。そういえばその称号、どうした?」



 

 ギクリ。ああー、顔が怖くなってきた。何故外さなかったんだ俺は。


「後で説教な…覚悟しておけよ。

 巫女、お前の力で金を稼ぐのはダメだ。獄炎、殺氷もありがたいが気持ちだけいただく。俺が稼がなきゃ意味が無い。サブマスとしての食材も兼ねてるんだから」

 

「でも一ヶ月もゆうきゅう?わかんないけど、仕事休むなんて…」


 巫女は有給知らなかったんだな。リアルでも社会には疎いのかな。



 

「有給は仕事しなくても給料貰えるシステムだ。巫女の件に関しても色々やらなきゃならんが、悪いがしばらくは金稼ぎで忙しくなっちまう…」


「ふぅん。それなら清白は一ヶ月ずっとログインしてるんだよね?」

「そうだけど…」


「おんぶにだっこじゃなきゃいいんでしょ?スパルタ育成ならどぉ?称号も、取りに行かないとならないし」

「ん…称号?裁定者の話か?どういう意味だ?」




 あ、そうだ清白には話してないんだった。


「とりあえずそこから整理しよう。そんで、ここから先どうするか決めようか。俺と巫女はしばらくログアウトしないんだし、清白一人にはそんなことさせないよ」


 俺の言葉に清白が眉を下げる。

 巫女は笑顔満開だ。


「そうだよ!一緒にやろ。一人になんかさせないからぁ!」

「クソ。なんだよ。散々悩んでたのに…あり、がとう…」

「「清白が礼をするなんて…」」


 マスターふたりのつぶやきに、みんなで思わず吹き出してしまった。

 

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