第2話

「何をお探しですか?」


 些かキツめの言い方にぼくは店員さんに少しムッと来た。

 だけど、ぼくは可愛い女の子の店員さんには逆らえなかった。


「いや、あの……あれれ??」


 スクリーン上で、ぼくが選んだ本の作者名と彼女のネームプレートにある名前が偶然同じ苗字だった……。


 石井と書かれているんだけど、本の作者名も石井だった。石井 智子という作者名の苗字が、たまたま同じだっただけかも知れないけど……。


「あのー? 失礼ですが、石井 智子というこの本の作者さんと同じ名前なんですね。奇遇ですね。ぼくはファンになろうかと思うんです。石井 智子さんの。ぼく。このPRがとても気に入っちゃって……あ、すいません」


 彼女はやっぱりこの本の作者だったようで、恥ずかしかったのだろうなあ。次の言葉でぼくはそれが確信へと至った。 


「ふうー、いいんですもう……実は……その本は私が4年前に書いた本なんです。もう、全然売れなかったんです。それで、今は紙の本がなくなったでしょ。それですぐに絶版になっているんですけど、ここの本屋さんの店長がどうしてもというから……本棚に並べているんです。私、それが恥ずかしくて恥ずかしくて。ここ辞めようとも思った時もあるんですよ」

「どうして?」

「6年前のひどい大失恋を書いたんです」


 彼女はそういうと、はずかしそうな怒っているような顔で、プイッと背を向けた。


 本のタイトルは「春風と共に桜はすぐに散る」だった。

 4年前は紙の本はたくさんあったんだ。


 けれど……今はないんだね。


 受付には彼女はいない。


 そもそも、レジなんてないんだ。

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