第30話 三度目の終わり
「……興味を示していない?」
メアリーは、ロゴスの言葉を反芻する。しかしてそれは、その言葉の真意を理解していないから――その裏返しであるとも言えるだろう。
ロゴスは幾度か頷くと、さらに話を続けた。
「シグナルの研究員はこう思っていた――『この「扉」は神が人間に与えた試練であり、褒美である』と……。言い得て妙ではあるし、案外それもまた事実だろうとは思う」
「神が興味を示していないのに、『扉』を渡したことに関しては?」
「さあ?」
ロゴスは両手を頬の辺りまで掲げ、首を少しだけ傾げた。
「そんなこと、人間が分かるはずもないだろう? そもそもこれを提供したことでさえも解明出来ていない点だらけだと言うのに」
「でも、『扉』があることで人々は技術を享受することが出来た——それも、この時代では到底実現出来るはずもないオーバーテクノロジーを?」
「だから、ずっと言っているじゃないか」
メアリーの確認に、ロゴスはつまらないような表情を浮かべ、そう言った。
まるでこのやりとりを不毛だと——そう最初から結論づけているかのように。
「この世界に魔法と錬金術以外の概念が存在しているのは、この『扉』があったからこそ……。しかし、それに頼ってばかりでは意味がない。神とやらが与えたレールを歩き続けるだけでは、何の意味もありはしない」
「でも、あなたは『扉』を使おうとしている」
「使えるものなら幾らでも使うさ。それで素晴らしいものを少しでも生み出せるというのなら」
「……ねえ」
リリスの言葉に、メアリーは違和感を抱いた。
それはまるで遊び足りず、つまらない表情を浮かべてしまっている子供のように。
「おお、どうしたんだリリス? もしかして色々と時間をかけてしまっていることについて不満でも——」
「——くだらない」
「えっ?」
同時に、ロゴスは口から何かを吐き捨てた。
それは——血の塊だった。
メアリーは目を丸くしてロゴスの身体を見ると——ロゴスの身体は、細い腕に貫かれていた。
腕は血で真っ赤に染まっている。それだけでなく、ロゴスの着ていた白衣でさえも徐々に赤に染め上げられていく。
「……な、ぜ……?」
「何故、ですって?」
腕をふるい、ロゴスの身体を地面に打ち付ける。
再度血を吐いて、幾度か湿った咳をする。
「分からないかなあ」
ケタケタと笑いながら、リリスは言った。
「……もうつまらないんだよ、あんたの考えと行動は。それぐらい、少しは理解してくれるとばっかり思っていたんだけれどね?」
「何故……何故だ、リリス! お前は、この世界を新たなフェーズへ移行させるための大事なキー。それをどうして」
「だから、そういうの困るって言いたいの」
リリスは首をポキポキと鳴らしながら、
「そういう風に敷かれたレールばかりを歩いていると思ったら、大間違いだっつーの」
「な……!」
「そもそも、何を考えているのか分からないけれどさあ、プログラミングされたから問題ないとでも思っていたの? だとしたら滑稽よね。『知恵の木の実』に入っている記憶エネルギーを使ったのなら、少しは簡単に考えついたりしないかしら?」
「何、だと……?」
「——その魂は『何が何でも人間になりたいと願う、極悪非道の魂』である可能性を。少しばかりは考えておいた方が良いと思うけれどね? リスクヘッジという考えは、当然でしょう?」
◇◇◇
円卓。
「……オール・アイ。お前が言ったのはこういうことだったのか?」
プロフェッサーは少しだけ目を丸くさせつつ、オール・アイに訊ねる。
「分かっていたものとばかり思っていたけれど? プロフェッサー、あなたなら、ね……」
「『知恵の木の実』の効果そのものは知っていたさ。何せ、知恵の木を含めそのメカニズムを開発したのは……言うまでもないだろう? ただ、まさか実際にそうなろうとは……」
「人間というのは、強欲の生き物であるのね。だからこそ、観察していて面白い存在ではあるのだけれど……。くくく、リリスという名前も皮肉なものね」
オール・アイの表情を見て、プロフェッサーは首を傾げる。
「オール・アイ。あんた……笑うのか?」
「人間並? の感情は揃えているつもりよ。とはいえ……どう転ぶかしらねえ。結末を分かっているとしても、その過程を楽しむことができなければ意味がない。こうやって悠久の時を経ているのだから」
「……結末が分かりきっていては、つまらなくないか?」
「何ですって?」
「我々はお前から進んで未来を聞こうとはしない。楽しみはとっておきたいタイプだからだ。それに——人間がどう足掻き、前へ進むかを見ていきたいことだってある。それは、コンタクター、お前だってそうだろう?」
いきなり話題を振られたコンタクターは幾度か頷き、
「ええ、まあ……」
「しかし、オール・アイ。お前は違う。全知全能の図書館を閲覧出来る能力を持っていて、それを常時閲覧している。つまり、記録の全てを把握している訳だ」
「まあ、それはそうですね。……話の結末が見えてこないのですけれど?」
「とどのつまり、オール・アイ。何故、お前はこうも人間に執着する? 結末を見ているのならば、常に確認する必要もなかろう。円卓の存在意義が脅かされることもないだろうし、仮にそうなってしまう懸念があるのならば、その時に芽を摘めば良いだけの話だ」
「まあ、そうですねえ。確かに、あなたの言う通りそういちいち人間のことを確認する必要がない——そう言われて仕舞えばその通りではあるのですけれど」
「何か理由があるのか?」
「面白いじゃありませんか、それが」
「何だって?」
「結末は分かっている。それは分かっていますよ。と言うことは、仮に目的地が北であったとしたら何処かで南に行く選択肢を選ぶこともある可能性があり、それが最終的には誤りであると認識する——それまでの過程は、全知全能の図書館を幾ら見たとて分かりません。アレには過程は一切書かれていませんから」
「……どう悩み、どう苦しみ、どう帰結するかを楽しんでいる、と?」
「ええ。そうでなければ、わざわざ円卓から現世を見ることが出来るようには致しません。とはいえ、円卓の存在意義はそうでないこともあったりしますけれど」
「分かっているよ」
「プロフェッサー、あなたはそれの役割を担っている。だから、知恵の木を——知恵の木の実を開発した。違いますか?」
「分かっている、と言っているだろう。お前にここに招聘されたのは——もう何千年も前のことだったと思うが、今でも鮮明に覚えているよ。あれはもうつい最近とは言い難い時代の話であるだろうに」
「分かっているではありませんか。では、進捗は?」
オール・アイの言葉に、プロフェッサーは頷いた。
「……進捗は上々だ。『
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