第26話 カラオケ終わり

 その後、少し歌ってお互いが慣れてくる。


 清水も揺れることを気にせずに、楽しんで歌っているようだ。


 そんな様子を見つつ、俺がドリンクバーを取りに行くと……。


「おっ!? ……久々に、その格好のお前を見たな」


「……うげぇ……アキトかよ」


「うげぇ、って酷くない?」


「うっさいわ……バイトか?」


 そこには、俺の中学時代の悪友にして、同じ高校でもあるアキトがいた。

 しかも格好的に、どうやらバイトをしているらしい。

 ちょうど、ドリンクバーの交換をしているようだった。


「ああ、そうだよ。これが終わったら休憩ってところ。ところで、お前は何してんだ?」


「カラオケ以外にあるか?」


「いやカラオケっていうのはわかるが……今のお前が遊んでるなんて珍しいな。というか、地元でやるなら誘えよ。早めに言ってくれりゃ、シフト変えたのに」


 ……どうする? こいつは盲点だった。

 割と偏差値が高い高校なので、地元の奴らはほとんどいない。

 俺の知る限り、六人程度だ。

 その中でも、アキラは俺を知る数少ないダチで……俺は、こいつを信用している。


「あぁー、すまんな。実は、人と来てる。それも、同中じゃない奴と」


「なに? お前が、その格好で遊んでるに同中じゃない……おっと、俺としたことが失念してたわ。お前は俺ほどとはいかないが、結構なイケメンだったな。なるほど、いつのまにか彼女ができたってわけか」


「いや、そういうのではない。これは非常に高度で政治的な判断が必要になる事態で」


「ど、どうした? 意味がわからんし、汗が凄いことになってるぞ?」


 こいつに、嘘はつきたくない。

 変わってしまった俺と、今でもダチでいてくれるいい奴だ。

 しかし、清水のことを話すのは清水に悪い。


「すまん、何も聞かないでくれるか? 仮に、俺が連れている人を見ても」


「……訳ありってか。わかった、とりあえず聞かないでおく」


「悪い! もし、あとで許可が下りたら説明する!」


「……ははっ! 相変わらず律儀な奴! なるほど、自分のためじゃなく相手のためにってことだ。そういうことなら気にしなくていいさ」


「……ありがとな、アキト」


「いいってことよ、俺とお前の仲だ。その代わり、今度は俺とも遊べよ?」


「わかった、約束だ」


 そしてアキトに追加で頼みごとをして、俺は部屋に戻るのだった。


 ◇


 部屋に戻ると、清水がノリノリで歌を歌っていた。


 リズムに合わせて両手が上下して、腰がゆらゆら揺れている。


 何処からどう見ても、ご機嫌そのものだった。


 そして、ようやく……俺の存在に気づく。


「ちょっ!? い、いつから見てたの?」


「いや、最後の方だけ」


「っ〜!? お、遅いから、今なら平気かなって思ってたのに……!」


「いや、別に我慢することなくね? 好きにやったらいい」


「そ、そういうわけにはいかないのよ! それより、遅かったわね?」


 わざとらしく話題を変えたので、それに付き合うことにする。

 多分、これを突っ込んだらいかん。


「すまん、ちょっと通話がきてな。ほら、続きを歌うぞ」


「じゃあ、貴方が歌ってね。私は、ドリンク取ってくるから」


「おう、待たせて悪かった」


 コップを持った清水が出て行くが……そういや、アキトに会ったらどうするんだ?

 クラスは遠いし、接点はないはずだが。

 ……まあ、流石にそこは俺が関与することじゃないな。





 その後、割とすぐに清水が戻ってくる。


 様子を見るに、何事もなかったようだ。


 そして歌い続け、あっという間に終了の電話がかかってくる。


 俺達が入ったのは学生フリーだが、今はゴールデンウィークなので三時間となっていた。


「おーい、終わりだって」


「えっ? もう終わりなの? まだ、歌ってないのあるのに……」


「どうやら、相当ハマったみたいだな?」


「悔しいけど、めちゃくちゃ楽しいわ。何より、物凄くスッキリしたし」


「そうつは良かった。別に、またくればいいだろ。一回くれば、一人でも来れるだろうし」


 こういうのは慣れだ。

 俺も最初は気まずかったけど、そのうち気にならなくなった。

 今はわかるが……人は思ったより、人に関心がないことを知ってるし。


「……一人は無理よ。だから、また付き合ってもらうから」


「うげぇ……」


「うげぇってなによ! そもそも、誘ったのはあなたでしょ? だったら、責任を取ってもらわないと」


「……へいへい、わかりましたよ。まだまだ借りもあることだし、付き合うとしますか」


「ふふ、そうこなくちゃ」


 すると、くしゃっとした自然な笑顔を見せる。


 不覚にも、ドキッとしてしまう自分に気づくのだった。



 ◇



 そして、マイクと機材を片付けてから部屋を出る。


 地味にこういうところは、個人的には好ましく映った。


 そのまま、会計に向かい……素通りする。


「えっ? お、お金は?」


「もう払ってあるから平気だ」


「い、いつ?」


「さっきだな」


「むぅ……払うわよ」


「とりあえず、外に出よう」


「ちょっ!?」


 アキトに見つかる前に清水の手を引いて、カラオケから出て行く。

 そのまま、少し離れて……手を離す。


「な、なっ……手が」


「す、すまん! ちょっと急いでいてな」


「何があったの?」


「いや、高校の知り合いがいたんでな。だから先に会計も済ませたし、急いで出てきた」


「あっ、そうだったのね。そっか、私のために……ありがとう」


「いや、俺自身も困るしな」


 すると、じとっとした視線を向けてくる。


「むっ、それはそれで腹がたつわ」


「はい? いやいや、高校の男子全員を敵に回したくないし」


「ふふ、そうね。見つかったら、貴方の方が大変かも」


 すると、不敵に微笑む。


 どうやら、うまく誤魔化せたようだ。


アキトには、あの時にお金を払っておいた。


 ちなみに、払う払わないの攻防戦にも買ったことは伝えておこう。








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