第5話 生徒会室にて

お昼休みを終え、再び教室に戻る。


もちろん、清水とは別々に。


席に戻ると、他の教室に行っていた悟が戻ってきていた。


「おかえり、優馬君」


「おう、悟も。あっ、言ってたやつを読んできた。今回も結構面白かったぞ」


「ほんと? それじゃあ、次は何をオススメしようかなぁ……うーん、何か見たいものはある?」


「そうだなぁ……料理ものとか。こう、心が穏やかになるものがいいかもな」


ちなみに、俺がライトノベルや漫画を読むようになったのは高校生になってからだ。

それまでは見向きもしなかったし、そもそも知らなかった。

外で遊ぶタイプだったし、部活もやっていたし。

だが、今はそういうわけにはいかない。

なので、新しい趣味をくれた悟には感謝している。


「随分とおじさんみたいなこと言うね?」


「ほっとけ。こっちは平穏な生活を見てると癒されるんだよ」


「うん、わかった。それじゃ、いくつか見繕うね」


「おう、ありがとな」


「ううん、こっちも楽しいから平気だよ」


そんな会話をしてると、聖女様も教室に戻ってくる。

当然、クラスの連中から質問攻めを受ける羽目に。


「清水さん、どこに行ってたんだい?」


「みんな探してたよ」


「ごめんなさい、最近少し体調が良くなくて」


そのタイミングでチャイムが鳴った。

そして、そのまま俺隣の席に座る。

無論、話を終わらせるためにわざとタイミングを見計らったのだろう。


「クク……やるな、聖女様」


「……何のことかしら」


おっといかん、俺の方から約束を破るわけにはいかない。

俺は笑いを堪えて、授業に集中するのだった。



そして放課後を迎え、俺は再びいつもの場所に向かおうとする。

すると、途中の職員室前の廊下で清水に会う。

その手には、清水の顔が埋まるほどの種類の山があった。


「あっ……逢沢君」


「や、やあ、清水さん……」


「「はは……」」


俺たちの間に、奇妙な空気が流れる。

流石にばったり出くわしたら、挨拶をしないのも変である。

……よし、此処は普通に対応しよう。


「それ、どうしたの?」


「え、えっと……生徒会に使う資料で、先生に持っていくように頼まれたの」


「ああ、なるほどね。誰かに手伝って貰えばいいのに……」


そこまで言って気づく。

清水が猫をかぶっているということに。

そして男子に頼めば、取り合いでえらいことになる。

こいつ、あんまり女子の友達とかいなそうだし。


「そういうこと。それじゃ……えっ?」


「生徒会室でいいんだな?」


俺は清水の書類を半分持って後ろに下がる。

ここからついていけば、一緒に歩いているようには見えないだろう。


「で、でも、見られたら貴方に……」


「だから離れて後ろを歩く。ほら、人がいないうちにささっと行ってくれ」


「……あ、ありがとう」


そう言い、前を向いて歩き出す。

俺は五メートルくらい離れて、ゆっくりとついていくのだった。

そして二階から階段を降り、一階にある生徒会室に到着する。


「んじゃ、俺はここで待ってるから先に書類を置いてきて」


「……貴方も入って」


「はっ? 何言ってんの?」


「い、いいから、早く」


俺は辺りを見回して、人がいないのを確認する。

生徒会室付近は元々ひと気がないとはいえ、このままだと見つかる可能性がある。

俺は仕方ないので、書類を持ったまま生徒会室に入ることにした。

俺が入ると、清水が手早く扉を閉める。


「これでよしっと」


「何がよしなんだ? というか、どういうつもりだ?」


ひとまず、俺も書類をテーブルに置き、清水に向き合う。


「いや、手伝ってもらって何もせずに帰すのは主義に反するのよ。だから、普段は手伝わせないんだけど」


「あぁー、お節介だったか?」


「そ、そんなことはないわ。下心ないってわかるし……困ってたからありがと」


「別に大したことしてないし。んじゃ、俺は行くわ」


「だから待ちなさいって。はい、そこに座って待つ。どうせ、あの倉庫に行くんでしょ?」


「……わかったよ」


仕方ないので、大人しくソファーに座る。

すると、予想以上の座り心地に感動してしまう。


「おおっ……ふかふかのソファーだ。これが権力の力か」


「ちょっと、変なこと言わないでよ」


「いやいや、うちの生徒会はそれくらいあるだろ」


何せ、うちの生徒会は有名だ。

地域に根付いたボランティア活動から、生徒たちの相談なんかも受けたりする。

部活の部費とか、部屋割りとかの決定権もあるし。

先生からの信頼も厚く、ある程度の裁量は任されてるって感じだ。


「まあ、生徒会に力が入ってるのは事実だけど……うまく利用されてる気するけどね」


「あぁー、確かに。生徒の悩みとか、そういうのは先生の仕事だろうに」


「そう! そうなの! ……ごめんなさい」


「いやいや、そりゃそうなるわな。しかも、清水は副会長だし」


すると、俺の前に暖かい紅茶が置かれる。

そこからは、いい香りがしてきた。

そして、対面に清水が座る。


「はい、これがお礼」


「なるほど、これが生徒会委員の特権ってやつか」


「まあ、そうなるわね。それくらいはないと割に合わないし。仕事の量が多いし、面倒事もあるし」


「というか、他の役員は?」


書記や会計ならいざ知らず、生徒会長は学年トップの秀才である横山だったはず。

先生の目もあるし、サボるような奴には見えないが。


「下の子達は可哀想だから、今日は来なくていいように言ったの。生徒会長は……うん、あんまり二人きりになりたくなくて」


「あぁー察し」


「……ありがとう」


「まあ、仕方ないわな」


まあ、側から見たところ……清水にベタ惚れって感じだからなぁ。

そりゃ、密室で二人きりは怖いわな。


「悪い人じゃないんだけどね」


「ふむ……ところで、この紅茶美味いな」


「えっ? ほんと?」


「ああ、独特の深みがある……アッサムか?」


「わかるんだ!? もしかして詳しいの?」


「いや、すまん。そこまで詳しいわけじゃないが、身内にうるさい人がいてな。ただ、紅茶は好きだけど」


目を輝かせて、テーブル越しに接近してくる。

その整った顔と勢いに、思わず面を食らう。

香水なんかとは違う、何か甘い香りもしてくるし。


「そ、そうなんだ。いいな……周りにわかる人いなくて」


「ふむふむ……この美味い紅茶をくれるなら俺が話を聞こう」


「なるほど、交換条件ってことね? 私は倉庫に行けるし、貴方は生徒会室来れるっていう」


「そういうことだ。しかし、ここは暖房器具や冷蔵庫もあっていいな」


「なんなら、貴方も生徒会入る? 今年の後期なら、これからでも行けるわよ?」


「勘弁してくれって」


うちは生徒会が前期と後期に分かれていて、前期が三月選挙、後期が十月となっている。

なので、今からでも間に合うのは確かだ。


「目立つのは嫌そうだものね」


「良いことないしな」


「……わかる」


「まあ、それぞれに事情はあるわな。さて……んじゃ、バイトだから行くわ。紅茶、ありがとな」


「う、ううん、こっちこそありがとう」


俺は軽く手を振り、生徒会室を後にする。


幸い、誰にも会うことなく校舎から出てバイトに向かうのだった。








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