第12話(4)ミュズィックデレーヴ対トロイメライ

「なっ……」


「こ、これは……」


「……あのお嬢様と執事がしくじったのはまあ想定内だとして、フェーズ、ハート、これは一体全体どういうことさ?」


 ドリームが陽炎と現の姿を見て、フェーズとハートを睨む。


「い、いや、えっと……」


「た、確かにとどめは刺さなかったが……」


 ハートとフェーズがそれぞれ頭を抱える。


「刺しなよ」


「も、問題ないと思ったんだ!」


「そ、そうだよ!」


 フェーズの言葉にハートが同調する。


「……問題が発生しているじゃないのさ」


「そ、それは、すまない……」


「め、めんご……」


「はあ……まあ、しゃあないね……まとめて片付けるとするか……」


 ドリームがため息交じりに呟き、現たちの方に向き直る。


「大島たちはどうした?」


「気を失ってしばらくしてから消えたよ、霧消したわけじゃなくてね」


 現の問いに刹那が答える。


「ふむ……それならばまあ、特に心配は要らないか……」


 現が腕を組んで頷く。


「……しかし、よく立ち上がれたわね、二人とも……」


 幻が陽炎と現の方を見て呟く。


「いやあ……」


 陽炎が自らの後頭部をポリポリと掻く。


「倒れているのを見たときもう駄目かと思っちゃったよ。なにかしたの?」


「いいや、特別なことは何もしていないさ」


 刹那の問いに現が首を左右に振る。幻が重ねて問う。


「では、どうして……?」


「それはもちろん……」


「根性だぜ!」


「全然違う」


 陽炎の答えを現が即座に否定する。


「ええっ⁉」


 陽炎が驚く。


「では、答えは……?」


 幻があらためて問う。現がやや間をあけてから答える。


「……信頼の為せる業だ」


「信頼?」


 刹那が首を傾げる。


「……そうだろう?」


「……ええ……まったくその通りですわ……」


 甘美がゆっくりと立ち上がる。


「なっ⁉」


 それを見たドリームが驚く。


「お互いの信頼がなければバンドというものは成り立たない……強い信頼こそが力を与えてくれるのですわ……」


「な、なにをオカルトじみたことを……!」


「ふっ……」


「な、なにがおかしいのさ!」


「こんな夢世界でそんなことを言いますか?」


「そ、それもそうね……」


 ドリームが首を縦に振る。


「お、おい! しっかりしろ!」


「相手に乗せられちゃってどうするのよ!」


 フェーズとハートがドリームを諭す。


「はっ! あ、危なかった……」


「……甘美ちゃん、大丈夫なの?」


「ええ、大丈夫ですわ」


 幻の問いに甘美が頷く。幻が笑みを浮かべる。


「それならいいけど」


「では、この五人……『ミュズィックデレーヴ』がお相手しますわ!」


 甘美たちがドリームたち、トロイメライの方に改めて向き直る。


「ど、どうする?」


 ハートがドリームに問う。


「ちっ……こっちだ!」


 ドリームが走り出す。


「お、おい!」


 フェーズとハートが慌ててその後に続く。


「お、お待ちなさい! 皆さん、行きますわよ!」


 甘美が声を上げ、五人がトロイメライを追いかける。


「着いた……」


「こ、ここは……?」


 甘美たちは広い空間に出る。


「出でよ!」


 ドリームが指をパチンと鳴らす。すると、大きな影が現れる。


「あ、あれは……!」


「この夢世界のボスだよ……」


 ドリームが笑みを浮かべながら告げる。


「ボ、ボスも呼び寄せられるのか⁉」


 現が驚く。


「さあ、こいつに勝てるかな⁉ ミュズィックデレーヴ!」


「トランポリンさん! 貴女方の挑戦、受けて立ちますわ!」


「ト、トロイメライだよ!」


 ドリームが声を上げる。甘美が自らの後頭部を抑える。


「な、なんだか覚えにくくて……」


「そっちよりは遥かに覚えやすいだろうが! ま、まあいい! やってしまえ!」


 ドリームが影を促す。


「……」


「むっ……」


「……ここは聖なる場所……」


「しゃ、喋った⁉」


「そういう影も中にはいるって話だったろ、セットゥーナ……」


 驚く刹那を陽炎が落ち着かせる。幻が首を捻る。


「聖なる場所……?」


「……騒音などまかりならん……」


「ふっ、なるほど……」


「分かったのか、甘美?」


 笑って頷く甘美に現が尋ねる。


「この大学のOGの方々でしょう……」


「オ、OG?」


「騒音かどうか、わたくしたちの奏でる音を聴いてから判断してくださいまし!」


「……!」


 甘美がマイクをさっと取り出す。それを見て、現たちもすぐさま楽器を構える。


「皆さん、行きますわよ! 1、2……1、2、3、GO!」


「~~♪」


「こ、これは……!」


 影が霧消していく。ドリームが驚く。


「ば、馬鹿な……あの規模の影をあっさりと霧消させやがるとは……」


「霧消ではありません……強いて言うなれば“浄化”です」


「じょ、浄化だと?」


「ええ、そうです。わたくしたちの音楽を聴いて理解を示してくださったのでしょう……」


「ふ、ふん! それならば! アタイたちが直接やってやる! 食らえ!」


「!」


 ドリームがヴァイオリンを出現させ、音を奏でる。音の圧で甘美たちがのけぞる。


「追い打ちをかけるよ!」


「‼」


 ハートがユーフォニアムを出現させて吹く。響く音の勢いで甘美たちがよろめく。


「よし、とどめだ!」


「⁉」


 フェーズがティンパニを出現させて鳴らす。音の揺れに甘美たちが膝をつく。


「膜鳴楽器の振動をその身をもって味わったか? ……なにっ⁉」


 フェーズが驚く。甘美たちが立ち上がったからである。ハートも驚く。


「た、立ち上がった……⁉」


「……個々の演奏レベルは大したものですが……アンサンブルがなっていませんわね……」


「なんだと⁉」


「お手本を示して差し上げますわ! 皆さん行きますわよ!」


 甘美がマイクを持ち直す。四人も楽器を構え直す。ドリームがフェーズたちに声をかける。


「落ち着け! やつらの曲ならすべて知っている! 一旦耐えて、やり返すぞ!」


「~~~~~♪」


「なにっ⁉ こ、この曲は……!」


 トロイメライがその場に膝をつく。ミュズィックデレーヴの奏でる音の圧に耐え切れなかったためである。歌い終わった甘美が微笑む。


「……いかがだったかしら、わたくしたちの新曲は?」


「し、新曲⁉ ど、道理で聴いたことがないわけだ……」


「……ようやく思い出しましたわ。貴女方、わたくしたちのライブによく足を運んで下さった三人組ですわね。いつも後ろの方で腕を組んで曲を聴いてくださっていたわね……五人になってからも……熱心なファンの方々だったのですわね……」


「ファ、ファンじゃない! 厳島甘美! 夢世界へ出入り出来るお前のことが必要だったんだ! だ、断じて、お前らの曲に魅了されたからではないんだぞ! 今回はやられたが、次のライブも楽しみにしている……じゃなくて、次こそはお前をアタイらのものにする!」


「あらら、消えてしまいました……とりあえず戻りましょうか?」


 トロイメライが消え、甘美たちも元の世界へと戻る。

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