第11話(3)思わぬ相手

「ここは……」


 現が周囲を見まわす。レンガに囲まれている。


「比べるとだいぶ広いですが、夢世界の構造としては極めてオーソドックスですわね……」


 甘美が頷く。陽炎が問う。


「さっき大学がどうとか言ってなかったか?」


「ええ……周囲の様子を見た感じ、多くの人が眠りについていました。恐らくですが、大学の広範囲、もしくは全体が夢世界に巻き込まれているのではないのでしょうか」


「マジかよ……」


 陽炎が絶句する。


「な、なんでこんなことに……?」


「それは目的があってでしょうね……」


 刹那の呟きに幻が反応する。


「目的?」


「ええ……」


「それは何?」


「甘美ちゃんでしょう」


「ということは、もしかして……」


「そう、甘美ちゃんに用事がある娘たちの悪戯じゃないかしら」


 幻が笑みを浮かべる。


「『トリプルテール』?」


「『ドラゴンフライ』じゃね?」


「『トロイメライ』だろう……」


 甘美と陽炎に現が呆れた視線を向ける。


「あのお三方が?」


「そんなこと出来るのかよ?」


 甘美と陽炎が揃って首を傾げる。


「う~ん、他に出来そうな人も思い付かないからねえ……」


「恐らく十中八九そうだろう……」


 幻の呟きに現が同意する。


「つまり、この夢世界を解放するには、あの三人組をどうにかしないといけないってこと?」


「そうなるな……」


 刹那の問いに現が頷く。


「どうにかするって言ったって、どうすりゃあ良いんだよ? こんな広い夢世界で……」


 陽炎が両手を広げる。


「……あまり心配しなくても良いんじゃないかしら……ほら、おいでなすった……あら?」


 幻が視線を向けると、そこには男女二人組が立っていた。


「……」


「どちらさまかしら?」


 幻が首を傾げる。甘美が口を開く。


「……大島ナップザックさんですわ」


「ええ?」


「大島極楽な、いい加減覚えてやれ……」


 現が甘美の言葉を訂正する。


「知り合いか?」


「大学の同級生だ」


 陽炎の問いに現が答える。


「お嬢様より、お隣の素敵な殿方の方が気になるわね……」


 幻が顎をさすりながら呟く。


「彼は大島家の執事、岩城煉だ……」


「し、執事、初めて見た……さすが名門女子大、執事さんを連れ歩いているんだ……」


「ああいう風に四六時中連れ歩いているのはなかなか珍しいがな」


 刹那の感心したような呟きに現が反応する。


「なんだってあいつらはここにいるんだ?」


 陽炎が現に尋ねる。


「……大島グループは何らかの方法で、この夢世界に出入り出来る技術を開発した様だ」


「え……」


「マジかよ……」


「それは驚きね……」


 刹那と陽炎が戸惑い、幻が目を細める。甘美が前に進み出る。


「……大島さん、今貴女方に構っている場合ではありませんの……」


「……!」


「おおっと⁉」


 極楽が急に殴りかかってきた為、甘美は慌ててそれをかわす。


「…………」


「な、なんなのですか⁉ いきなり攻撃してくるなんて……」


「……………」


「甘美! なにか様子がおかしい!」


「元々エキセントリックな方ですわ!」


 現の言葉に甘美が即答する。


「そ、それはそうかもしれんが……目に精気が感じられない。操られているのかもしれない」


「誰に⁉」


「恐らくだが、トロイメライにだろう……」


「何のために⁉」


「お前の身柄を確保する為だ! それがあいつらの狙いのようだからな!」


「………!」


「うおっと⁉」


 極楽が再び殴りかかってきたが、甘美がまたもかわす。


「…………」


「危ないですわね……」


「な、なんかヤバくないかな……?」


「ああ、マジだぜ。あのおかっぱ頭……」


 刹那の呟きに陽炎が頷く。


「……………」


「大島さん、とりあえず落ち着いて話し合いましょう」


 甘美が語りかける。


「…………!」


「どおっと⁉」


 極楽が三度殴りかかってきたが、甘美がまたまたかわす。


「………………」


「大島さん……いえ、大島ウラジオストックさん……」


「……‼」


 極楽が身構える。


「おっと! なにやら刺激を与えてしまったようですね……」


「煽っているんだよ!」


「はい?」


 現の言葉に甘美が首を傾げる。


「無自覚か! 質が悪いな!」


「……戦うしかないということでしょうか」


「ま、まあ、どうやらそのようだな……」


「ここは任せて……」


 幻がゆっくりと前に進み出る。


「えっ⁉」


「ま、幻……」


「本命はあの三人娘でしょう? ここで足止めを食ってる暇はないわよ」


「し、しかし……」


「なんとかするわ……刹那ちゃんが」


「ええっ⁉ ボクが⁉」


 刹那が驚く。

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