第4話(2)求める人材
「それほど驚くことでしょうか?」
「い、いや、それは驚くだろう……何故だ?」
「何故?」
甘美が不思議そうに首を傾げる。
「それをこっちが聞いている」
「メンバーを増やせば、それだけ音楽のバリエーションが増えます」
「バンドと言ったな、どのパートを増やすつもりだ?」
「ベタなところですが、ギターやベース、ドラムですね」
「本格的にバンドサウンドを志向するのか?」
「どのような方が加わるかにもよります」
「音楽性を変えるのか?」
「そこまで極端な話ではありません……」
甘美は首を左右に振る。
「いや、通常ボーカルとキーボードの二人でやっていたところにギターなどが加わるならば、かなりの変化を伴うぞ……」
現が腕を組む。
「繰り返しになりますが、バリエーションを増やせると思えば良いのです」
「多少の変化は避けられん。せっかくのファンも離れていってしまう恐れがあるぞ」
「それならば、わたくしたちのそもそもの実力がそれまでだったということでしょう」
「む……」
「むしろここは攻めの一手を打つべきなのです」
「メンバー増員がそれだというのか?」
「ええ、そうです」
甘美が頷く。
「ふむ……」
「正直、このままではマンネリです。そうだとは思いませんか?」
「……まったくそう感じないと言えば嘘になるが……」
「そこで強い個性をひとつまみです」
「個性が強すぎるのも考えものだぞ」
「何故です?」
「ぶつかり合いが生じるかもしれない」
「前向きなぶつかり合いなら大歓迎です」
「前向きな……果たしてそうなるだろうか?」
現が首を傾げる。
「そうなるようにしっかりと人を見極めるのです」
「見極めね……」
「そうです」
「見極めと言っても、なにをもって判断するんだ?」
「人間性の良さ」
「それはそうに越したことはないが……」
「音楽性の高さ」
「それももちろんだが……」
「ただ難しいのは……」
甘美が腕を組む。
「難しいのは?」
「人間性の良さと音楽性の高さは必ずや比例するものではないということです」
「ああ、それはなんとなくだが分かる気がするな……」
「そうでしょう?」
「甘美のようにな」
「貴女のようにね」
二人は互いを指し示す。
「……」
「………」
「…………」
「そ、それはどういう意味ですの⁉」
「こっちの台詞だ!」
しばらく睨み合った後、甘美はこほんと咳払いをする。
「こ、こほん……まあ、とにかくメンバー探しを致しましょう」
「むう……」
「加入させるかどうかは別として、探すだけでも良いでしょう?」
「どういうメンバーを求めているのだ?」
「そうですね……まずは情熱的なギター」
「情熱的……」
「ファンキーなベース」
「ファ、ファンキー?」
「なんか良さげなドラム」
「ドラムだけ適当だな!」
「そうかしら?」
「そうだ! 大体なんだ、情熱的でファンキーって⁉」
「要するにパッションが欲しいのですわ」
甘美が両手を大きく広げる。
「全然要してないぞ!」
「まあ、とにかく探してみましょう」
「ちょっと待て、当ても無いのか?」
「ええ」
「なんだ、大体の目星くらいは付いているのかと思ったぞ」
「この大型連休で探そうかと思いまして」
「思いつきか」
「そうとも言います」
「おいおい……」
「とりあえず、ステージなどをこなしながら探しましょう」
「ステージだと?」
「ええ、各地のイベント出演などを決めておきましたので」
「聞いていないぞ」
「言っておりませんでしたので」
「おい! って、各地?」
「はい、この大型連休は中国地方を周ります」
「なに⁉」
「まずは鳥取ですわ」
「鳥取⁉」
「はい」
「いつだ⁉」
「連休初日ですわ」
「明後日じゃないか! いくらなんでも急過ぎる!」
「人生というものは基本待ったなしですわ……スケジュールなどは今、スマホに送りましたから、今日明日中に準備しておいて下さい。それでは失礼……」
「お、おい……」
甘美は事務所を後にする。そして二日後……。二人は鳥取のイベント会場に到着する。
「はあ……」
「う~ん、機材を積んだ車を運転して、よその土地のイベントに出演! なんだかとってもバンドっぽいですわね!」
「その前に荒っぽい運転をなんとかして欲しい……」
「リハーサルが始まっているようですわね」
「イベント概要を見たが、よくある地方のお祭りのようなものじゃないか。場数を踏むのは良いとして、言っちゃ悪いが、こんなところでお目当てのメンバー探しが出来るとは……」
「~~♪」
ステージ上で赤髪のソフトリーゼントの女性がギターを激しくかき鳴らす。現が叫ぶ。
「い、いた⁉ 情熱的なギター!」
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