第41話 その後

 

 今夜は、社交シーズンで一番大きなイベントとなる、王家主催の王宮舞踏会が開かれ、国中から大勢の貴族たちが集まり、それぞれが活発な社交活動を繰り広げていた。


 招待客の1人として出席しているデシルは… それまで親し気に声をかけて来ていた、独身の若いアルファたちが、激減したことに気付き苦笑した。


「・・・・・・」

 婚約者のサリダ様から略奪しようと、僕は本当に独身のアルファたちに、狙われていたんだ?! こうして話しかけて来る、アルファが減ってから、そのことを実感するなんて! 僕はなんて、間抜けなんだ?! 


 アルファけに結婚よりも先に、サリダと交わした、“つがいちぎり”の効果は覿面てきめんだった。


 アオラの時のように… デシルもサリダと“番”になり、体質が変わったせいで、オメガの誘惑フェロモンを“番”のサリダ以外の、アルファたちが感じ取れなくなり… アルファがオメガに感じる魅力がデシルから消え失せていた。 

 もちろん、多額の持参金付きという魅力は、消えないけれど。




「ねぇミラドル… 今夜は誰にも、声をかけられないねぇ?」


 舞踏会に招待された、出席者たちの熱気にあてられ、顔を赤くして椅子に座り、扇子せんすを広げてぱたぱたと胸元をあおぐミラドルのために… デシルは給仕係から受け取った、のどをうるおすためのグラスを渡しながらたずねた。


「そうね! でも今夜は舞踏会を楽しみたいから、私は別に構わないわ」


「うう~ん… でもさぁ?」

 実はもう一つ、若いアルファを寄せ付けない武器が、僕にはあるんだ!

 “番の契り”を交わした夜から、発情期に入ってしまった僕のために、サリダ様はそのまま男爵邸に逗留とうりゅうすることとなり… 結局、結婚まで僕と同じ部屋で眠り、今はすでに夫婦同然の生活を送っている。


 だから、時間さえあれば旺盛おうせいなアルファの性欲を満たすために、僕の体力が続くかぎり、サリダ様に抱かれ続け… ついでにその時、身体じゅうの内側にも、外側にも、サリダ様は独身のアルファに向けた威嚇いかく用に、自分の濃厚なアルファフェロモンをこすり付けて来るんだ!


 同じアルファのお父さまの話では、サリダ様は代々武家の名家、レセプシオン伯爵の後継者というだけはあり… 成熟した屈強くっきょうなアルファでないと、サリダのフェロモンに『絶対に敵にまわしたら危険な相手だぞ?!』 …と、本能で脅威きょういを感じるらしい。(サリダはデシルの2歳年上なだけなのに)



「だからね、ミラドル… 今の僕と一緒にいると、素敵なアルファと出会う機会を失っちゃうよ? サリダ様のフェロモンが、追い払っちゃうからさぁ… 本当にそれで良いの?」

 だって、ミラドルはまだ婚約者が決まっていないし… やっぱり、親友としては心配になるよ?


「社交シーズンは始まったばかりですもの! 今夜ぐらい良いでしょう? もっと楽しみましょうよ! デシルは心配性ね?」


 2日後にサリダとの婚姻の儀をひかえたデシルにとって、今夜は独身最後の舞踏会である。



「そう?」


「そうよ! それにね、私もデシルみたいに、“番”にするなら強い、騎士が良いもん!」

 兄も父親も騎士のミラドルは、その影響を強く受けているのだ。


「ふむふむ… なるほどねぇ~! それだと騎士団が一番忙しくなる、社交シーズンに素敵な騎士を見つけるのは難しいよねぇ~?!」


「本当に、それが問題なのよね! でも今夜はとにかく、デシルと楽しみたいの!」


「わかったよ~ お嬢様! ふふふふっ…」

 まぁ、ミラドルは美人だし… 気が強いけどさっぱりした、優しい性格だし… 僕の心配なんて、必要ないかも知れないけれど… 僕が側にいるせいで、アルファが寄り付かず、親友が婚期をのがしたらと思うとねぇ…?

 そうか、ミラドルは騎士が好みかぁ~! 今まではっきり聞いたことが無かったから、知らなかった! 親友のことなのに、どれだけ僕が自分のことだけで精一杯になっていたか、わかるよ… 反省!



 あれこれ悩んでいると、突然背後から長い腕がのびて来て、デシルはグイッ…と腰を引き寄せられる。

 

「あっ…」

 もちろん、そんなことをする人が誰かはすぐにデシルも気付いた。


「デシル、楽しんでいるか? 変な奴に見つめられたりしていないか?」

 ひそひそとサリダが、デシルの耳元でささやいた。


「もう、サリダ様! 離れてぇ! 離れてぇ…っ! ここにはたくさんの人の目があるんだからっ!」

 デシルはググッ~っと、サリダから身体を引き離した。


「ああ、忘れてた!」


 サリダは機嫌良く笑う。




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