第35話 婚約者


 コンドゥシル男爵家の晩餐ばんさんの席に、王立騎士団の騎士服を脱ぎ、すきの無い華麗な紳士に変身したサリダがいた。


 

「あれ、サリダ様?」

 

「今夜は男爵邸こちらに泊まっても良いと、男爵に許可をもらったんだ」

 席に着こうとするデシルの椅子を、紳士らしく引きながら、サリダは答えた。


「え? また、何かあるのですか?!」

 昼間、フリオに襲われただけでも、けっこう衝撃だったのに…? 今夜は、静かに過ごしたいよ!


 サリダが引いた椅子の前に立ち、ため息をつきながらデシルは腰を下ろす。


「うふふっ… もう、デシルったら… 鈍いわね! もちろんサリダ様は、あなたを心配しているからよ?」

 夫に椅子を引いてもらい、腰を下ろした母がニコニコと上機嫌で、デシルの疑問に答えたが… 中途半端ちゅうとはんぱな答えをもらい、さらにデシルは首をひねることになる。


「んん? 心配…って? 何が?」


「見張りをつけて監視しているが、フリオがまだ、この邸内にいるだろう? 婚約者なら、お前のことを心配して当然だからな」

 ニヤリッ… と笑ってデシルの父は答えた。


「ああ! そういうことですか?!」

 隣の席に着いたサリダに確かめると… デシルは手を取られてキスをされる。


「そう言うことさ!」


「・・・・・・」

 サリダ様はいつもさわやかに笑っているけど、本当はすごく嫉妬深い人だと、婚約してから僕は知ってしまったんだよねぇ~ だからすごく過保護かほごになるんだ!


 伯爵家に嫁入りする時に持って行く物を、買いに行った時、サリダ様が護衛をしてくれると、一緒に付いて来てくれたんだけど… 偶然、学園を一緒に卒業した知人に会い、お店でおしゃべりしていたら、だんだんサリダ様の機嫌が悪くなって……


 それで、婚約者以外のアルファを見つめすぎる! とか… 他のアルファの前で、可愛く笑ってはダメだ! とか… 僕のフェロモンを相手のアルファが感知できないよう、もっと離れろ! とか…

 ぶちぶちと文句を言われて、最後には大人げなく、ねられちゃったし…



「大丈夫だ、デシル! フリオの迎えがヌブラド伯爵家から来るまで、私は男爵邸に留まってデシルを守るから… 奴を怖がらなくても良いんだぞ?」


「……うん、嬉しいよサリダ様! ありがとう!」

 僕がお宝をつぶしたから、フリオは心的衝撃と激痛で、ベッドから出られない状態で、本当は少しも怖くないけど… でも、サリダ様と長くいられるのは、すごく嬉しいよ!

 それに、こういう気がくところが、フリオと違ってすごく頼りになるし、安心して僕は甘えることが、出来るんだよね! ふふふっ…


 早くサリダ様と、“つがい”になりたいなぁ~! 僕がサリダ様だけのオメガになれば、きっと嫉妬深さも無くなるはずだし~?! それでもっと僕は甘えてしまうんだぁ~…!


「・・・・・・」

 いや、いっそのこと… 今夜、サリダ様を襲っちゃおうかなぁ~? 結婚前だけど、すごく不安だから“番”にして! …っと、お願いしたら、してくれるんじゃ?


 チラリとサリダを見ると、こん色の瞳と目が合いニコリと笑いかけられた。


「ん? どうしたデシル? 何か言いたそうな顔だな…」



「なんちゃって!」 

 さすがに僕が襲ったら、ふしだらな奴だと、引かれちゃうよねぇ~?!


 てへっ… とデシルは笑った。






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