第18話 誓いのキス?2 サリダside

 突然のキスで、顔を赤くして固まるデシルに、サリダはもう一度キスを落とす。



「一度では、足りないな…?」

 驚いているすきに、キスでデシルの心をとろかしてしまえば… もっと私の存在を、身近に感じるはずだ! 出来ればすぐにでも、恋人の地位を確保したいところだが… さすがにそれは急ぎ過ぎだからな…?


「デシル」


「あ… あの、サリダ様…?!」


 強引にデシルの細い腰をつかんで引き寄せ、サリダは自分の膝の上に下ろしキスを繰り返す。


「・・・・・・」

 “運命のつがい”は会った瞬間にわかると、誰かに聞いたことがある。


 私がデシルに会った瞬間、抑制剤で上手く抑えられてはいたが、デシルから微量に放たれる、オメガのフェロモンから、春に咲く最初の花のように、清らかな甘さを感じ無性に心かれたが…


 私は、どれだけデシルのフェロモンが好みでも… デシルの派手に着飾った魅力的な容姿を見て、過去の経験からアオラと同じそのしゅのオメガには、絶対に心を許さず警戒するべきだと判断した。


 それにデシルは、今のサリダが好きになると… 一番、面倒な相手でもある。

 何が面倒かというと……

 サリダからアオラを奪った愛人、フリオの婚約者デシルを、サリダが復讐のために誘惑し奪おうとしている… などと、醜聞しゅうぶんになりそうな相手だという意味だ。


 何より、フリオの裏切りで一番傷ついたデシルを、サリダはそっと静かにしておいてやりたいという思いもあった。


 サリダ的には、フリオとアオラに復讐してやりたいのは確かだが…。


 そうやって理性で考え、サリダは欲望を抑えてみたが… アルファの本能で、一度欲しいと思ったオメガを、簡単にあきめられるはずもなく、サリダは結局、目の前の誘惑に負けてしまったのだ。


 “運命の番”とは、諦めようとしても本能が求め、諦められない… たぶん、そんな相手のことを言うのだろう。



 小さな唇をサリダが解放すると… 


「…サリダ様……」

 膝に座るデシルが、ハァ―――ッ… と甘いため息をつく。


 デシルが放った甘いフェロモンが、馬車の中に充満じゅうまんしていて、サリダは春の花畑の真ん中にいるような気分になり、うっとりと目を細めた。


「デシル… 君のフェロモンに溺れそうだよ…」

 馬車の中にただようデシルが放ったフェロモンの量からして… どうやら私の誘惑は成功したようだ!


「サリダ様もアルファのフェロモン… すごいですよ?!」


「私のフェロモンは嫌か?」


「いいえ…!! こんなにアルファのフェロモンを、浴びたの初めてだから… すごく驚いた…! それよりもサリダ様、“ちかいのキス”…とは… 何の誓いのことですか?!」


「それはだな…」

 必ず、アオラとの結婚を回避かいひして、デシルに求婚するという… 自分への誓いと言うか… そんな気持ちで…


「サリダ様?」


「・・・・・・」

 そうだった! 私がアオラとの結婚を回避するだけではダメだ! デシルとフリオの結婚も回避させなくては、意味が無い!!


「…あの?」


「私は君を裏切らない! デシル、今のキスはそういう誓いだよ!」


「ああ! それなら僕も、サリダ様を裏切りません! 誓います!」

 デシルはたった今、覚えたばかりのキスでサリダに誓う。


「デシル、この誓いは、私たちの秘密の誓いだから、他の人間にはしてはいけないよ?」


「し… しませんよ!」 








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