第17話 国立大学教授ツバル・シュバルツ 初等部1年生
またもやパパンの車に乗って、国立大学へ向かっていた。
今回のメンバーは、パパン、ママン、アネモネ、俺だ。
かつてのドライブメンバーと同じだった。
アースエイクは今日も家庭教師とお勉強をしている。
さぞ、立派な跡取りになってくれるはずだ!
俺は自由に動けるし彼とはwin-winの関係だね!
今回は、アネモネも行くのだが、その説明には一悶着あった。
アネモネが強くなりたい理由が復讐であるからだ。
天使の話は混乱させるから伏せたが、両親を殺した犯人を罰することを言わざるを得なかった。
俺は赤ちゃんのときから「世界一」と言いまくっていたので、「世界一を目指すため」と、言えばすぐに納得されたが…。
何せ、復讐するなんて物騒だし、危険だという話になった。
しかし、自分も両親も特級であることをカミングアウトすると、護身のために強くなることは認めてくれた。
すんなり認めた辺りから、すでに特級であることは、知っていたのではないだろうか?
復讐については、答えの先延ばしを両親から要求されたので、アネモネはしぶしぶ認めていた。
そこで、教授のところも危険かもしれないということで、ママンも参戦である。
何せ、俺たちの魔力について研究される可能性が高い。
それでなくても、俺は前回スカウトされた。
ママンの魔力は下級なので、戦力外だが、気持ちは負けてない。
また、我が家の重要事項は、すべてママンが決めている。
パパンは働いて稼ぐATMと言われても過言ではない。
いや、言いすぎました。ごめんなさい。
何せ、決定裁量権はママンにあるので、一緒に来たという認識をしていた。
大学に到着し、前回と同じ部屋に通される。
しばらくすると、ノックがした。
コンコンコン
「はい。どうぞ」
パパンが応える。
「こんにちは、お久しぶりですね。アルデウスさん」
「そうですね。お久しぶりです。本日はお忙しい中、娘と息子のためにお時間をいただき、ありがとうございます」
「いえいえ、魔闘法についてさらに詳しく知りたいんですよね?」
「ええ、そうです。この2人は少し才能があったようで、ご近所のロドリゲスさんという方に師事していたんですよ。そしたら、こちらのご紹介を受けましてね」
ママンが参戦する。
ママンは実際にラースに会いに行って、俺たちの能力の確認に行ったらしい。
「そうでしたか、ロドリゲスさん、いや、ラースもよく知った仲なので、これも何かの縁ですね。私でよければ、協力しましょう」
「そうですか、ありがとうございます…」
教授が話を被せる。
「ただし、私の研究にも協力してもらいますね」
「それはどのような協力ですか?」
「なぁに、魔力の測定や、観察、戦闘記録をとりたいのです。もちろん、強くするというには、それなりに戦闘訓練が必要ですからね」
「わかりました。期間はどれくらいですか?」
「1年は欲しいですね。いや、2年は見て欲しいです」
「自宅からは遠すぎて通えません」
「大丈夫ですよ。学生用の寮を用意しますし、生活に不自由がないよう、側仕えも1人用意しましょう。もちろん、学力面のフォローも行いますし、自由な時間も保証します。ただ、一日に2時間だけトレーニングを兼ねた調査研究に協力いただくだけです」
「何もそこまでしなくても…」
ママンが動揺している。
そりゃそうだ。
待遇が良すぎる。
「アタシはそれでいい」
アネモネが口を開いた。
「いや、私は反対だね!話がうますぎる、どうもこの大学は信用できない」
ママンが見たこともないような険しい顔をしている。
何か過去にあったのだろうか?
「前回来られた時は、国からの要請を受けて、幼い上級術師に魔闘法を授ける『魔闘士協会役員』の肩書きだったので、無理に引き留めませんでした。しかし、今は違います。今は『国立大学教授』です。一人の研究者です。ライラックさんは、世界的に見ても珍しい可能性の持ち主です。最高の研究対象が目の前にいるなら、どんなことをしても足止めするのが研究者です。あとは、研究者としての私を信じてくださいとしか言いようがありません」
「ライはどうしたい?」
ママンに問われた。
「俺は行きたい。でも、ママンやパパンに心配されたまま行くのは嫌だ」
「わかりました。親が枷になりたくはないので、お任せすることにします。しかし、子ども達が嫌がることはしないと約束してください。帰りたくなったらいつでも帰れることを約束してください」
「わかりました。約束します」
「アンタもそれでいいかい?」
パパンがママンに問われた。
「ああ。それでいいよ」
パパンは即答だった。
この一言で話は終了し、両親は頭を下げてすぐに帰って行った。
俺たちは教授に促されるまま、日用品を購入するために、近くのショッピングモールに来ていた。
準備万端すぎて怖かったのが、俺たち用のクレジットカードが用意されていたことだ。
この惑星でもタッチ決済や、スマホ決済のようなものは存在し、カードがあればどこでも買い物ができる状態だった。
それぞれ、衣類を中心に日用品を買う。
アネモネはカードでの支払いをしたことが無いようだったので、支払い方を教えてあげた。
すると、
「なんで、ライは知ってるのよ?」
「前世にも似たような物があったしね」
「あぁ、中身はオッサンだもんね。つい忘れがちだけど。ロリコン」
「あぁー!それはもう言わない約束だろ?買い物手伝わないぞー!?」
「ごめんごめん。ロリコンでも好きよ」
「そう言えば黙るの知ってるからってズルいなー!」
「まぁまぁ、いいじゃない。これからは2人で同棲よ?楽しもうよ?」
・
・
・
必要な物を買い揃え、教授の説明通りに進むと寮の前にたどり着いた。
寮の入り口には、メイド服をきた1人の女性がいた。
床を見つめながらブツブツ何かを言って、立ち尽くしていた。
「どうかしました?」
一応、声はかけてみたが、かなり怖い。
そして、デカい。
180cmは身長があるだろうか。
すらっとしているのでスタイルはいいのだろうが、姿勢が悪いので台無しである。
「こんばんは。どうもしませんが、ご主人様からの命でライラック・アルデウス様と、アネモネ・アフロディーテ様の身の回りのお世話をする様に仰せつかっています。しかし、どの方が、お仕えする方なのか分からず、ずっと立ち尽くしていたのです。あぁ、どなたなのでしょうか」
やたらと早口で捲し立てられた。
俺たちの風貌を聞いておらず、誰に仕えるのか分からないのか。
「俺たちがライラックとアネモネです。はじめまして。よろしくお願いします」
「あぁ、貴方様でしたか。初めまして、シャイナ・グランテと申します。私は、メイド3段のメイド道を求める者でございます。掃除洗濯、料理は勿論のこと、ご主人様のメンタル管理まで行います。御必要とあらば、夜伽のお世話も…」
「夜伽はいいです!さて、自己紹介も終わったことですし、部屋に入りましょう?どの部屋なんですか?」
ちょっと何言ってるのかわからない所もあるな。
夜伽とか言い出したし…。
「よとぎって何?」
「さぁ?何だろうね?」
ちょっと、子ども相手に説明できないな。
いくらアネモネが大人っぽくても中身は11歳の子どもだ。
「失礼いたしました。お部屋へご案内致します。こちらへどうぞお進みくださいませ」
見た感じ、空気が読めないだけで、普通のメイドなのかな?
ちょっと様子を見て、あんまり酷いようだとチェンジしてもらおう。
案内に従って部屋に入る。
どうやら、この部屋は4人用のルームシェア用の部屋みたいだ。
リビングダイニングキッチンに加えて、4つの個室。
4LDKだ。
恐らく、大学生が4人で使っている部屋なのだろう。
トイレと風呂もある。
冷蔵庫やテレビにエアコン、洗濯機などの大型魔道具もすでにセットされている。
どうやら、俺たちを養ってくれると言うのは本気なようだ。
「至れり尽くせりですね。ありがとうございます」
俺は素直に感謝の言葉を述べた。
「ほんと、ステキな部屋ね。アタシの趣味にぴったりだよ」
「ご希望に応えられたようで何よりでございます」
「それでは、夕食の準備を致しますので、荷物の整理をしてお待ちください」
メイド3段はダテじゃないらしい。
ここで2年ほどお世話になろうじゃないか。
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