第13話 封印されし力の解放 初等部1年生
無事?免許皆伝ももらったが、さらなる高みを目指して、日々、アネモネと特訓している。
今は夏休みなので、毎日長時間練習している。
内容は、杖に付与してもらった、大火弾(ラージファイア)と、大風弾(ラージウインド)と、大光弾(ラージライト)といった大魔術の基礎魔術を素早く安定させるトレーニングだ。
応用編としては、各基礎魔術を変形させたり、能力を付与する術式に変更することで、戦いの個性が生まれる。
しかし、今は戦うべき相手がいないので、新能力を開発するより、基礎を固めることに集中している。
ちなみに、夏休み前の定期考査はオール満点だった。
だって、ひらがなや、足し算だよ?間違いようがない。
さて、練習内容に変化が欲しくなってきた俺としては、新たな練習メニューを追加するべく、アネモネと人の少ない大きな緑地公園まで来た。
夏休みなので、子どもがチラホラいるが、遊具のない奥地まで来たら誰もいなかった。
今日は封印されしアノ力を解放しようと思う。
アネモネには、先日の検査で隠の魔力にも適正があることがわかったと伝えた。
アネモネも特級なので、俺も打ち明けることにした。
「ねぇ、アネモネ」
「なんだい?ライ?」
「えーっと、さっき話したように、隠の魔力は誰にでもあるらしいんだけど…」
「あぁ、そうらしいね。アタシも驚いたよ。だから、今から特訓するんだろ?そのために杖に術式を、付与したじゃないか」
「そうだね。するけど、その前に聞いてほしいことがあるんだ…」
「なんだい?何か言いにくいこと?なんでもアタシに言って欲しいよ。アタシとライの仲じゃないか」
「そうだね。じゃあ、はっきり言うよ。多分俺の隠の魔力は特級なんだ。でも、どれくらいの出力があるのかわからないんだ」
「え?そうなの?アタシと一緒じゃない!?アタシは嬉しいよ。同じ悩みを共有できるなんて、運命を感じるね。好きだよ、ライ」
「あ、そういう反応なんだ。てっきり、危ないことが増えて不安になるかと思ってた。すぐに言えばよかった」
「何言ってんのよ。アタシが特級なんだから、いつも一緒にいる時点で、危険はいっしょじゃない?」
「そっかそっか。まぁ、いいや。よかった。それじゃ、特訓しよっか。まず、俺が特級のオーラ出すから、暴走したら逃げてね。それで、俺がケガしてたら光魔術で治癒してくる?」
「オッケー、わかった。それじゃあ、一度、ゆっくりでいいから全力オーラまで出してみようか」
「わかった。それじゃ、よろしくね」
深呼吸をして、まずは小水弾を出す。
安定している。
澱みなくマナが作用している。
暴走はない。
魔力操作が上達した証だ。
それを消し、今度は体内に発動させる。
初めてオーラを纏ったときのように、ゆっくりと進める。
マナを周囲から集める。
すると、集めた分だけオーラに変わる。
体中が全てゲートの役割を果たしており、偏りなく、オーラが積層される。
魔術経由のオーラでなく、より無駄の少ない、ゲートから直接変換のオーラに切り替える。
オーラの容量を増やすべく、さらなるマナを取り込もうとする。
そのとたん、一気に流れ出すマナの奔流に意識が投げ出される。
暴走だ。
マナの流れは俺の手を離れ、加速度的に増え続ける。
前回の暴走で起こった大惨事を思い出し、ゾッとする。
目を開けると、当たり一面が俺のオーラで埋め尽くされていた。
オーラの中で何が起こっているのか全て把握できる全能感が襲ってくる。
水のオーラのはずが、黒紫のオーラになっている。
教授が見せてくれた闇のオーラだ。
水と土のマナが両方必要なはずの闇のマナに変わっていた。
理由は簡単、操作を放棄したからだ。
莫大な魔力で大量のマナを無作為にかき集め、それを全てゲートに通している。
選ばず大量に詰め込めば、体内で水と土のマナが融合し、闇のマナのできあがり、というワケだ。
光のマナ合成も同じ理屈なので間違いない。
ただ、今はコントロール下にない。
それが問題だった。
どんな事故が起こるのか想像もつかない。
俺には国家を文字通り転覆させた過去があるだけに恐ろしいことになるのは確定だろう。
どれだけの範囲にどれだけの被害がでるのだろうか?
そして、そこにはアネモネがいた。
俺のオーラの中に。
光のオーラを全開で纏いながら。
闇のオーラに飲まれないように自身のオーラを展開して、耐えている。
他人のオーラの中に長時間入ると、マナ酔いにあって、意識障害を起こす。
それは、アネモネの練習中に身をもって体験した。
そこで、アネモネはそれに対抗するために、自身の周囲をオーラで覆うことで防いでいる。
もっとも有効な対抗策だ。
これも実験済みである。
アネモネの様子をよく見ると、何か訴えるような眼差しで見つめてくる。
口も動いているが、よく聞こえない。
あぁ、俺がコントロールを放棄しているから怒ってるんだ。
そうか、やらなきゃな。
世界一を目指してるんだもんな。
身体中のゲートに意識を向ける。
穴の空いたホースのように垂れ流しになっているマナを少しずつ絞る。
文字通りゲートを閉める感覚だ。
ある程度薄いオーラになって、安定したところで、止める。
「ふぅ」
「何が、ふぅ、だよ!びっくりしたじゃない!」
「ごめんごめん。アネモネがいてくれたからコントロールできたよ」
「全然できてないじゃない!今以上のオーラの大きさにしたら不安定なんでしょ?」
「うっ、そうだよ。でも、そんないきなり全開は無理だよ。少しずつ上手くなるからちょっと待って」
「別に待つのは構わないけど、それで世界一になれるの?」
確かに、アネモネの言うとおりだ。
今やらないと、今後の特訓スケジュールもズレていく。
肉体のピーク時に魔術のピークを持っていかないと、世界一にはなれない。
そのために体力のトレーニングも欠かさず行っているのに…。
今、やろう。
「そうだね。アネモネの言う通りだ。今から全力のコントロールをするから暴走したら逃げてね。かなりオーラが大きくなるようだし」
「初めからそうするって言ってるじゃない!さっさとやりなさいよ!ケガしたら治癒してあげるから、やってみなさいよ」
「アネモネ、ありがとう、好きだよ」
今纏っている闇のオーラを拡張する。
閉めていたゲートを少し開けてみる。
やはり不安定だ。
でも、どこかで見たような?
あ、初めてオーラの纏い方を教えてもらったときのアネモネにそっくりだ。
彼女はかつての自分と重ねてもどかしい気持ちから、怒りを露わにしていたのだろうか。
たしか、解決策として、アネモネは「オーラを硬くした」と言っていたな。
おそらく、密度を上げて、体にオーラの外殻を近づけることでコントロールしやすくしたんだろう。
オーラを凝縮するイメージで、波打つオーラを鎮める。
密度を上げて、少ない堆積に大量のオーラを捩じ込んでいく。
体表から離れようとするオーラを力技でねじ伏せる。
やってみるとイメージ通りに動いた。
こんな大量のオーラを扱うのは初めてだけど、基本は陽の時と同じだな。
「オーラを硬くする」ことは陽の時に試している。
同じと分かれば…。
よし、いけるぞ。
一気に全力の魔力でマナを取り込む。
全開のゲートで一気にマナをオーラに変換する。
体の周りにどんどん積み重なるが、全てを圧縮して、体の周囲に纏う。
どんどん圧縮する。
通常のオーラより圧縮できた。
全身を1mmもない薄い膜が覆うように黒紫に鈍く光る。
全力のオーラが完成した。
「やったか?」
フラグではなかった。
完全に成功していた。
「あっ」
アネモネが呟いたとき、俺の視界にも写っていた。
絶世の美女天使アリエルの姿が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます