第11話 6歳児とプロレスラー 初等部1年生

 俺は魔術3大種目である、魔闘士大会、魔術師大会、ダンジョンクリアランキングで1位になることを目指している。

 そのどれもが1番になることが難しいことで有名であるため、3種制覇など、考えることすら憚られるような偉業である。

 前世では持たざる者として生きてきて、この惑星ボーンでは「持つ者」として生きていくための目的である。

 そう、前世での無念を晴らしたいのだ。


 そこで、今日は先日友達になったオリビアちゃんの家に遊びに来ている。


「オリビアちゃーん、あーそーぼー」


 1年生の呼び方はこの呼び方だな!


「カッコ悪いからやめてよ。というか、目の前にいるし」


 懐かしいので呼びかけてみたが、怒られた。

 それもそのはず、一緒に家にお邪魔したのだから。

 そら怒られるよね。

 ごめんなさい。


「ごめんごめん。やりたかっただけなんだよ。懐かしくて。つい、ね?」


「懐かしい?何へんなこと言ってんの?」


「ごめんごめん、こっちの話だよ。それで、オリビアが目標としているお父さんはいるのかな?」


「いるはずだよ。今は興行オフの期間だから帰ってきてるんだ」


「あ、手ぶらで来ちゃったね。失礼だったかな?」


「あ、いいよいいよ。ボクのウチって、そんなお上品な家庭ではないよ。ご安心あれ」


 お父さんに会ったら「ウチの娘はやらん」とかいうやり取りはあるのかな?

 まぁ、あんなのやるのはマンガだけだと思うけど、手ぶらで来たのは失敗だな。

 うまく話が進めばお父さんから戦い方を教えてもらう予定だったんだけどな。


「さ、そんなにおもてなしは出来ないけど、あがってよ」


「はーい」


「ん?ライ?こんなとこで何してんの?」

 おっと、オリビアの家に上がる直前にアネモネと出会った。

 これは、嫉妬パターンかな?


「おー、アネモネー!紹介するよ、彼女は学校で友達になってくれたオリビアだよ。オリビア、こちらは一緒に住んでる、姉?的な存在?んー、フィアンセ?どれだろ?あーもー、わからんけど、名前はアネモネだよ」


「オリビアさん、いつもライがお世話になってるね。アネモネといいます。中等部の1年です。よろしくね」


「アネモネさん、よろしくお願いします。フィアンセなんですか?」


「そうだよー。アタシはライが好きだし、ライもアタシが好きなんだ。だから結婚することを約束してるよ」


 アネモネは堂々と言い放った。

 かっこいい!

 フィアンセと言い切ったから嫉妬されるパターンではなかった。


「あれ?姉弟って結婚出来ないんじゃ?」


「あぁ、ライの紹介が良くなかったね。アタシの名前はアネモネ・アフロディーテ、実の姉弟では無いんだよ」


「そういうことでしたか。好き同士で同じ家に住むなんてドキドキしますね」


「そうだね。昔はそうだったけど、もう長いからね」


 倦怠期の夫婦みたいなこと言わないで。

 泣きそう


「そんなもんなんですね。良かったらアネモネさんも上がって行きますか?」


「そうだね。ライの友達がどんな子なのか気になるし、お邪魔しようかな。おうちの人はいいって言ってくれるかな?」


「聞いてきます。ちょっと待ってて下さい」



「ちょっと、アネモネもあがるの?遠慮しなよ?」


「いや、アタシも魔闘士の戦い方は気になってたんだ。授業では教えてくれないんだよ。高等部では習うんだけど、アタシの予想では、早めに身につけておいた方が魔力操作がうまくなると思うんだよね」


 さすが、アネモネ、俺も同じことを考えていた。


 ってか、

「なんで、オリビアのお父さんが魔闘士だと知ってるの?」


「この辺りじゃ有名だよ?ご近所のボランティア活動もよくしてくれるし、とにかくマッチョだから目立つしね」


 そうなんだ、知らなかった。

 マッチョのお父さんに「娘はやらん」ってビンタされたらどうしよう。


「そうなんだね。アネモネはボランティア活動もよくしてるもんね。今度、俺も行こうかな。世界一になるには、人間性も磨かないといけないしね」


「おっ!いい心掛けだね」


 すると、オリビアが帰ってきた。


「大丈夫だってー。お父さんはちょっと出かけてるみたいだけど、いいかな?すぐに帰ってくるらしいよ」


「アタシは待つよ。ライもそうだろ?」


「そうするよ。お邪魔しまーす」


「はい。いらっしゃいませ」


 オリビアの家は質素な家で、シンプルな家具が置かれていた。

 現代日本の家庭よりはシンプルな印象を受ける、少し無骨な家だった。


「ここがオリビアの部屋なのかー!なんか、かわいいモノが一杯だなー!なんかいい匂いがするなー!」


「ライ、きもい」

 アネモネに突っ込まれた。

 大人しくしときます。


「ちょっと、ライ君恥ずかしいよ。もう座ってて」


 やっぱり、オリビアかわいいな。

 女子としてかわいいとかじゃなく、娘として見てしまうな。

 でも、11歳のアネモネには女を感じるんだよな。

 不思議だなー。


「あ、お父さん帰ってきたみたいだ。ちょっと待っててね」



「アネモネは魔闘士になるの?」


「いや、ただ、興味本位かな。ライはなるんだよね?」


「あぁ、そゔだよ。魔闘士でも世界一になるからな」

 すると、扉が開き、知らない男がいた。

 オリビアのお父さんだろう。

 すごいマッチョだ。

 タンクトップにハーフパンツ姿で筋肉がよく見える。


「お!ボウズ、魔闘士で世界一になるのか?がんばれよ!おっちゃんでよかったら教えてやるよ?」


 おっ!向こうから言ってきた。ラッキー!


「ぜひ!」

 アネモネが先に答えていた。


「お願いします!」

 俺も答えた。


「オリビアをくださいとか言いに来たんなら、お前にはやらん!とビンタしてやるところだったがな!ガハハ」

 おっかねー!

 余計なこと考えないようにしよ。


「それじゃ、杖持ってついてきな」



 庭へ移動した。


「それじゃ、なんでもいいから小魔術を出してみな?」


 俺とアネモネは小火弾を出した。


「オーケー、力量はわかった。オリビア、見せてやれ」


「はいっ」

 オリビアが小火弾を出した。


 明らかに俺たちとは違った。

 説明しにくいんだけど、速かった?

 魔術を発動しようとしてから、発動するまでが速かったのか?


「そっちの嬢ちゃんはわかったみたいだな。言ってみな」


「魔術の発動が速いのと、安定させるまでが速いです」


「おお、正解だ。やるな」

 半分しかわからなかった…。


「アネモネすごいね」


「まぁ、一応先輩だしね」

 アネモネが少し嬉しそうだ。かわいい。


「まずは、これを身につけてから次の段階へ行くんだが、せっかくだし、次の段階も教えちゃおう!」


「ありがとうございます」


 やった!さっきのオリビアの魔術の真似はこれから毎日やろう。

 きっと、これが基礎なんだろう。

 何日も鍛錬を重ねた結果がオリビアのような静かな魔術につながるんだろう。

 ってか、オリビアも昨日から杖を使えるようになるはずなのに、うますぎるだろ?

 絶対、ズルして杖買ってたなー?


「さて、素早く魔術が起動ができたとして、次にするのは、その魔術を全身に纏うことだ。自分の体の中に魔術を発動させて、薄い膜のように纏わせるんだ。慣れるまでは難しいけど、これができるとそれぞれの属性の強化を受けられる」


 火は力、風は速さ、水はスタミナ、土はタフネスのバフを受けられるとのことだ。

 そう言いながら、オリビアのお父さんは水のオーラを纏ってくれた。


「それで、おっちゃんたちプロレスラーは水と土の強化をすると相性がいいってわけだ。どれ、ゆっくりでいいからやってみな?」


 オリビアはしれっとできている。

 すでに練習していたんだろう。


 さて、俺もやってみよう。

 自分の体の中に魔術を発動させるんだったな。

 杖を右手に、左手を胸に当てながらゆっくりとマナを吸収し、ゲートを通して、杖の術式で魔術に変換させる。

 そして、胸の中心に小火弾を発動させる。

 すると、ほのかに暖かく感じ、全身に伝っていく。


「できた」


 思わず声が出た。

 全身を見ると赤いオーラが見える。


 隣を見るとアネモネもできていた。

 しかし、大きく波打つようにオーラが揺れていた。

 あっ。


 パァン!


 アネモネのオーラが弾けた。


「あーぁ」

 アネモネが小さく呟いた。


「嬢ちゃんはひょっとして上級か?出力が大きすぎて不安定になっているな。さっき見せた基礎練習を毎日すると安定するぞ?まずは小魔術で何回も繰り返すのがコツだ」


 アネモネは本当は特級だ。

 かなり、ピーキーな出力なんだろう。

 それと、特級であることを隠すために全力が出せないから余計にコントロールが難しいはずだ。


「はい」

 アネモネは短く返事した。

 きっと悔しいのだろう。

 彼女のことだから、きっと、このあとも練習するだろう。


 さて、長いことお邪魔するのもよくないし、この辺りかな?


「お父さん、ありがとうございました。お陰様で、練習の方向性がわかりました。また、お時間があるときに教えて下さい」


「だれがお義父さんだぁぁー!オリビアはやらんぞーー!」

 ビンタされて、吹っ飛んだ。


「誤解です。オリビアのお父さん」

 アネモネがフォローしてくれる。


 誤解もとけたところで、お暇するとこにした。


「それじゃあ、お邪魔しました。また、遊びに来させてください」


「いつでもいらっしゃい、オリビアと仲良くしてあげてね」

 オリビアのお母さんが見送りをしてくれた。

 

 帰り道で、アネモネは一言も話さなかった。


「一緒に練習しよう」


俺が言うと、コクリと頷いていた。

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