第一章 世話焼き幼女と元勇者(7)
ああ、今さらだけどたまによく分からない年月の単位が出てきたよね?
上とか下とかいう感じの。
この国(というかおそらく近辺の国々も?)ではひと月は三十日、一年は十二ヶ月で三百六十日となっている。
一週間(七日)という区切りはなく、十日が三回でひと月だな。
最初の十日が
季節も花(三月~五月)、実(六月~八月)、穂(九月~十一月)、種(十二月~二月)で季節ごとに上中下の三ヶ月で分かれており、例えば四月の十三日なら花中月の中子月の三の日となる。
……が、俺は面倒なので四月の十三日でいこうと思う。
もちろん他の人と話す時は、ちゃんと花中月の中子月の三の日って言うけどね?
ちなみに新年は普通に一月一日、種中月の上の一の日である。
トイレットペーパーも生産可能になり、精神的に少し余裕の出てきた初夏。
うん、もうすでに初夏なのだ。
何が言いたいかというと……すでにそこそこ部屋の中が暑い。だってここって閉め切られた物置部屋じゃないですか? 風の循環がまったくないんだ。一方で酸欠を起こすほどの気密性もない。
これ、真夏になったら命に関わるんじゃね?
脱水症状起こして暑いのに、冷たくなってたとか嫌すぎるんだけど……。
最低限でも扇風機、できればクーラー、最良は暖房もできるエアコンが是非とも欲しい。
欲しいのだが。
「スキル的には魔道具制作スキルがあるんだけどなぁ。それよりも材料ってか素材がまったく何もないからなぁ……」
うん、無理だ。だって限りなく無一文に近い貧乏なんだもん。素材の調達が採集するか拾ってくるかしかないからね? 植物素材以外はどう頑張っても集めようがないのである。
どうしよう? 風魔法が使えるんだから延々と風魔法を使って風を循環させる? ……どう考えても魔力的に無理だな。そしてこの方法では一切涼しくはならないし。むしろサウナの中を
なら水魔法で水を作り出して桶か何かに溜めておく……水を出すだけなら魔法じゃなく井戸を使えばよくね? そして常温の水を置いといても大して気化しないだろうから、あまり意味がないだろうなぁ。
……なら水の温度を下げればいいんじゃね?
いや、むしろ最初から氷を出せばいいじゃん!
『氷魔法を使用するには水魔法ランク3、火魔法ランク3、合成魔法ランク3が必要です』
ああ、氷は水魔法の
てか氷魔法なのに火魔法? 温度的な関連は火魔法の範疇なのかな?
でも条件的にはそんなに難しくないよね! 三日もあればポイントも溜められそうだしさ。
てことで四日後に氷魔法をゲット(三日じゃ少し足りなかったよ……)して、氷を部屋に設置……したら溶けて水浸しの大惨事になるので、煉瓦を作ってそれを氷魔法で凍らせることで最低限の結露で抑えることに成功。地魔法、初のお役立ちの瞬間である。
床は適当にその辺に転がってるよく分からないモノを下に敷いておけば問題ないだろう。
氷魔法のランクを上げることで長時間低温を維持できることも分かったので一安心である。
これ、商売になりそうだな。小銭稼ぎにしかならないだろうけど。
魔道具さえ作れるようになれればもっと稼げるのに! いや、売る所がないんだった。
あとさ、俺の部屋がなんとなく涼しいことに気付いたシーナちゃんがさ、夜になるとさ、来るようになったんだよねぇ……。
そして俺と同じベッド(という名のただの木の台)で一緒に寝るんだよ。
この子、勝手に部屋(女の子ばかりの八人部屋らしい)を出てきて大丈夫なのか?
そもそもくっついて寝たら少々部屋が涼しくなっても暑いからね?
それでなくとも子供は体温が高いんだからね?
さて、そんなこんなで一生懸命に草むしり──夏場は雑草の季節なのでお声掛けも多くて小銭もそこそこ稼げたので、十日に一度くらいはシーナちゃんとの買い食いなんかも挿みながら──頑張って頑張って頑張って……気付いたら秋である。
まぁ養護院に夏らしいイベントなんてないからさ。
海水浴? 海まで往復すると徒歩でふた月以上掛かるみたいだし。
この国で海があるのって東の果てだけらしいもん。
じゃあ川とか湖? いや、別にそんなに泳ぐことにこだわりないよ? そして大都市(一応ここ、北部の中心なんだ)の近くの川とかそこそこの水質汚染があるから絶対に入りたくない。
バーベキュー? うっすいスープとかったいパンと傷んだ芋くらいしか食えないのに、そんな贅沢な食べ物がここで出るはずなかろうが。
うん、実に寂しい夏であった。もちろん春も寂しかったんだけどさ。
でも経験値はいっぱい稼げたし、シーナちゃんともそれなりに遊べたし、何の問題もないだろう。
むしろこれ以上を求めるのは贅沢ってもんなのだ。少しでも気を抜いたら死ぬ世界なのだから。
いや、一般人はそこまで厳しくはないんだけどさ。現状の俺、ど貧民レベルだからねぇ。
暗い話にしかならないので身の上話はこれくらいにして、『秋』なのである!
むしろ秋真っ盛りである!
暦で言えば十月一日、キリのいい感じだな。
ああ、ここまで溜めたポイントはとりあえずステイタスにオール・インした。
だってHPとか低いままだと蛍並みにすぐ死んじゃいそうだったんだもん。
蛍、
繰り返しになるけど、色んな意味で自衛ができないと貧乏人は生きていけない世界なのだ。
マジ世知辛いよね……。
「てかどうしてそんなに秋にこだわるんだよ?」ってお思いの方もいらっしゃるとは思いますが、秋の次は当然冬が来るんだよ?
なにを当たり前のことを大げさに……まぁそうなんだけどさ。
冬、賢明なる諸兄の皆様ならばすでにお気付きだと思われるが冬といえば寒い、そして雪が降る。そして諸兄と皆様で微妙にかぶっている。
特にここはキルシブリテ王国でも北部にある北都プリメル。他の大都市よりも秋が短く冬が長いのだ。
つまり何が言いたいかというと、これまでのルーチンワーク、草むしりによる経験値稼ぎ&小銭稼ぎが通用しなくなるのだ。
いや、これ、マジで死活問題なんだよ? それでなくとも冬場ってカロリー溜め込まなきゃならない季節なのに収入源がゼロ、経験値もゼロ、当然余剰カロリーもゼロなのである。
流石冬、草も生えないとはこのことだな……。
そう、この現実を乗り越えるため、早急に、早急に対策を講じなければならぬのだ!!
どこかに草むしり以外で経験値が美味しくて、小銭が稼げるお仕事ございませんかっ!?
てなわけで、草をむしりながら街中で何かできることはないかと必死に探してはみたんだけど……早々に見つかるはずもなく。
そもそも、子供でもできるような仕事は普通のご家庭の子供に割り振られているので、小汚くて胡散臭い俺みたいな者の出番などないのだ。ん? 探索者組合? もちろん行ってみたさ。
でも年齢制限に引っかかった。十五歳未満お断りだとさ。
普通に考えたら子供が迷宮に入っても足手まとい以外のなにものでもないから仕方ない。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり、灯台下暗し大正デモクラシー。
お仕事、見つかったのである。そして大正デモクラシーについてはいくらなんでも使い古されすぎた安易な返しだったと反省している。
この養護院、運営は教会がしているってのは言った……よね? たぶん言ったんじゃないかな? 言ってなかったら今聞いたってことでよろしく。
改めて、そう、ここは教会の運営なのである。教会、平たく言えば宗教施設だな。
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