第149話 形勢逆転
「……これは明確なルール違反です。言い逃れは出来ませんよ」
若者二人は腕に付けてあったブレスレットを取り外すと、咲にも見えるようになったようで、冷たい視線を初老の男に向けている。
咲は足を拘束された男たちに近づいていき、不審な動きを見せたら全身氷づけにする、という脅しつきで魔法を解除した。
「レオさん、アイテムボックスに余っている服はありますか? 流石にこのまま外に連れ出すのは目立ちそうなので……」
「ない。そのまま外に連れていくといい」
……本当のことを言えばある。
だがあの服は、理紗たちから買ってもらったもので、気軽に他人にあげれるものではない。
その言葉に咲は諦めたようにため息を吐くと、気持ち悪いものに触るように、二人の背中に指をあてながら外に誘導する……。
「ある! 俺が着替えを持ってるから、せめて着替えさせてくれ」
坊主頭の男が悲痛な叫びを上げる。
魔道具がなければ、人前で全裸になることには抵抗があるようだ。
俺も水壺の魔道具を手に入れる前は、全裸で水浴びするのが習慣であったため、人前で裸になることへの羞恥心は全くない。
これを令嬢が言っているなら分かりもするが……。
男たちはそれぞれ無地のシャツと、ジーパン姿になると、咲に封筒を差し出す。
咲は何も言わず手に取り、下に向けると札束が地面に落ちた。
「何ですかこれは?」
「口止め料です。俺たちはもうこの件に手を出しません。だから表沙汰にしないでもらえると助かります。もちろんこれは前金で、帰ったら報酬を上乗せして……」
「断ります」
坊主頭の言葉に咲は悩む間も無く拒否する。
それはさっき貧乏と自嘲していた者とは思えないほどの迅速な決断で、それを受けた男たちはチラリと初老の男に視線を送る。
「まだ正確な金額を説明してないだろう。話を聞く前に断るのは早計なのではないか?」
「いいえ、ルール違反を犯した者と取り引きすることはありません。私も同罪になりたくないので……」
咲は助け舟を出した初老の言葉を切り捨てる。
実際、こちらの被害は全裸の体をみせつけられただけで、攻撃を仕掛けられたわけではない。
もしあの金で黙っていてくれと俺が言われたら、受け取ってしまう自信があった。
よほど裸を見せられたことに憤りを感じているのかもしれない。
この話が表に出ても、精々、露出が好きな男という風評がたつくらいであろう。
だが初老の男はなおも咲に食い下がる。
「……報酬を三倍払うと言ってもか?」
「私どもは、あなたより少しばかり裏の事情に詳しいです。なのでルールを破った人間がどうなるのか、今まで何度も見てきました。あなたも少しくらいは聞いたことがあるでしょうに……」
少し呆れたように話す咲は二人の男に退出を促すと、自らも外に出て行った。
外で裸になるのはこんなにも罪なことだとは思いもしなかった。
これなら理紗が口酸っぱく服を着ろと言ってきたのが頷ける。
咲は扉が閉まる前に振り返ると。
「飲み物は注文通り、いつもので持ってきてあげます。その注文が出来るのは最後になりそうですから、味わって飲んでください」
扉が音を立てて閉じると、初老の男はガックリと腰を落とす。
「落ち込む前にさっさと説明しろ。あの手紙の内容は何だ?」
「……このままでは終われん。切り捨てられる前に……」
初老の男はぶつぶつと口の中で言葉を漏らした後、地面に震える拳を叩きつける。
男の瞳に力が戻り、こちらに向かって声を張り上げる。
「私は君が何処から来たのか知っている。これを公表されたくなければ、私のところに来い!」
その言葉に、勉強の合間に鏡花から伝えられた言葉を思い出す。
『レオが異世界出身の件なんだけど、最悪バレてもいいぞ。自分から話すのはやめてほしいけど、もしかしたら、うちら以外にエアリアル出身者が出てくるとも限らないからな』
特に俺は魔物にも、人間にも恨みを買ってる可能性が高い。
他にエアリアルからの転生者がいるとするならば、俺を陥れようとする者が出てきてもおかしくはない。
だが問題はその後の鏡花の行動だ。
『これは理紗には話してないんだけどさ、その時はうちも公表するから。異世界出身カップルでやってこうな!』
その時の鏡花の目は、冗談を言っているような雰囲気ではなかった。
俺の出身がバレると、鏡花のことも巻き添えにしてしまう。
「怯えているのか? そりゃそうだろうな! こんな話が公表されれば、勇者なんぞともてはやされたお前の立場はなくなるだろうよ」
何も答えない俺を見て男は調子を取り戻し、話を続ける。
「不自然な知識量も、お前の馬鹿げた強さも、そうであれば全て説明がつく! 無能な国民を騙すことが出来ても、私は騙せないぞ! お前が未来人だってことは分かってるんだ!」
「は?」
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