第141話 偽りの力
絢爛な鎧と騎馬で身を飾った物言わぬ兵隊は、数にして十体はおり、追加で取り出される少年の魔石により、その数を増やしていく。
馬も騎乗者である人形も、金属質の光沢を放っているため、鎧を装備する意味はあるのかと疑問に思ったが、格好いいので良しとしよう。
だが少年が投じた次の一手に、俺は失望を禁じ得なかった。
少年が取り出したのは丸い水晶型の魔道具で、無色の大きな水晶を吸収させると、少年を守るように結界が張り巡らされる。
「どこまでもよその力に頼るんだな」
「うるさい! これも僕の力の一部だ」
自身の力で手に入れたのなら、少年の言葉も正しいのだろうが……。
アイテムボックスの力は魔法使いには宿ることは少ない。
防御型の魔道具を追加で使用して、その後魔法を使う様子のないことから、少年は紬のような例外的なアイテムボックス持ちではなく、俺と同じ魔法を授からなかった前衛タイプ。
「その魔道具は、自慢の父から貰ったものか? 自身の力ではなく、貸し与えられたおもちゃを心の拠り所にして、虚しくはならないのか?」
属性石を使っての召喚にどれだけ効果があるのか分からないが、あの少年の持っている魔道具は、俺の土人形よりも性能が上に感じる。
だとすれば少なくとも、下層のドロップアイテムと同等以上の力がある。
そして、ダンジョンの階層更新は、理紗より進んでいる者はクラスに一人もいない。
親に与えられた金で買ったのか、親から直接貸与された物なのか分からないが、自身の力で手に入れられる代物ではない。
手に入れたおもちゃを見せびらかす子供と言えば聞こえはいいが、こいつは違う。
苛立ちのあまり殺気が漏れて少年を威圧する。
殺気に当てられた少年は、腰を抜かしながらも、心折ることなく言い返してくる。
「何が言いたいんだよ! 生まれた血筋も、恵まれた環境も、実力の一部なんだ。あんたに文句を言われる筋合いはない」
「実力の一部、ね。まあ、お前がそれで満足しているのなら、それでいい。……だが、一つだけ許せんことがある」
「……な、なんだよ」
食堂の中で、鍛錬のために小人を操る魔法を使って、食事を使っていた少年に投げかけた、あの言葉。
同じく昼休み、草木を生み出す魔法を使って練習していた少女に対して、馬鹿にしたように笑いながら伝えたあの言動。
理紗からの制止がなければ、殴り飛ばしているところだった。
「借り物の力に縋って、自らの地位を守ろうとしている奴が、他人の努力を否定するなよ」
身体強化のやり方を切り替える。
体内で圧縮するのではなく、体外に放出した上で圧縮する。
このやり方のデメリットは魔力の消費が激しいことと、魔力を知覚できる存在には、攻撃の威力が読まれてしまう。
そしてメリットは圧縮を重ねた魔力は、術者以下の干渉力の相手を持つ相手であれば、魔力の介在を許さず、干渉力が上であっても、威力の減衰させることができる。
俺は青ざめた少年の元にゆっくりと歩いていく。
「やれ! 全員でかかれ!」
少年は怯えながらも騎兵に指示を下す。
槍を手にした騎兵の攻撃を紙一重で避けると──騎兵は糸が切れたように馬から転げ落ち、馬も硬直したように地面に倒れ込んだ。
程なくして、動きを止めた鋼の兵隊は光になって消えていく。
これは魔道具で作られた人形に宿る魔力を、俺の展開した魔力で無理やり押し出して無力化させた。
技法はダンジョンの謎の魔力から理紗たちを守ったやり方と同じで、干渉力の高い相手には効果は薄い。
現に、ダンジョンに発生した魔力は、俺が魔力を展開しても完全に防ぎきることは出来なかった。
「何をした! もしかして何か特殊な魔道具を使ってるのか?」
「さあ? どうしてだろうな。もしかしたら生み出した兵隊が不良品だったのかもしれないぞ?」
「僕を馬鹿にするな!」
魔道具の干渉力はどうなのだろうと少し不安があったが、問題はなかった。
術者の力量が原因か、これが元々そういったものなのか判断しかねるが、特に抵抗を感じることなくねじ伏せる。
襲いくる兵隊を無力化していく。
少年は徐々に顔を引き攣らせながら見守り……。
「ん? もう召喚出来ないのか? じゃあこっちの番だな」
障壁の前に立ち、複数張られた障壁の中に座り込む少年に目を落とす。
俺の価値観の全てをこの少年に押し付けるのは愚の骨頂だが、それでも俺の考えが間違っているとは思えない。
この世界の価値観と、エアリアルで培った俺の価値観。
エアリアルでの価値観をそのまま説いても理解してはくれぬだろう。
だが俺もこの世界のことを勉強してきている。
彼に伝わるように、一方通行にならぬように注意して……。
「さあ出てこい少年。こっちでは、拳を使った殴り合いで想いを伝えるのだろ?」
ここまでこの世界の常識に合わせてやっているんだ。
……この少年に俺の想いが届くといいが。
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