第7話 ダンジョンカメラ

 オークの最後を見届けると俺は少年二人の元に歩いていく。亜空間から布を二枚取り出すと二人に差し出した。


「……お前ら、漏らしちゃってるだろ? これを使うといい」


【優しさが痛えよ】

【そっとしておいてあげようよ】

【新手の公開処刑じゃん】


「も……漏らしてねえし!」


「そうだぞ! 勝手なこと言うんじゃねえ!」


 俺の言葉は二人の逆鱗に触れたようだ。ちらりと二人の女性に目を向ける。……もしかしたらあのどちらかに好いた女性がいるのかもしれない。


「そうか。お前達がそう言うのならそうなんだろうな」


 ……ならば何も言うまい。


「僕たちを助けてくれてありがとうございます。あなたはこれからどうするのですか?」


 グリフォンの羽のようなものを魔法で展開していた女性がふわりとこちらに着地しようとして……少年達から少し距離をとって降りる。


 どうやら少年の粗相はしっかりとバレているようだ。


「どうするって分かりきっていることを聞かないでくれ」


「ごめんなさい。僕には分からなくて……」


 少女は本当に分からない様子だった。……これは苦労しそうだ。もしかしたら俺のいる世界とかなり倫理観が違う世界に飛ばされたのかもしれない。

 ここに来たのは魔王との死闘が目的だが、その前にやらなければいけないことが出来た。

 こんなことを彼女に伝えるのは少し気恥ずかしいが……。


「あそこの扉破壊してしまっただろ? ここの主人に弁償しないとな。こんなに大きいんだ。領主の持ち物だったりするか?」


【勇者の設定まだ引きずるんだ】

【俺も抜け出すの大変だったな】

【拙者も魔法使いの宿命から逃れたいでござる】


「大丈夫です。見てて下さい」


 金髪の少女が俺が穴を空けてしまった扉の方を指差す。すると扉が一度消えて再び現れると無傷の扉に早変わりしていた。


「あれは、魔法か?」


「ダンジョンですからある程度の破壊は修復しますよ。ですがフロアボスが消え去る前に次の階層への扉を破壊した人は見たことありませんが……」


 金髪の少女の言葉が本当なら、俺は弁償しなくてもいいのか……。これはいいことを教えてもらった。


「僕たちはこれからもう帰るんですけど……」


 金髪の少女が上目遣いでこちら伝えてくる。


「気を付けて帰るといい」


 とりあえずこちらに危害を加えてくる様子ではなかったので、別れの言葉を伝えると金髪の女性は眉根を寄せて固まる。


【……馬鹿な! 聖女のお願いが通用しないだと】

【腹黒聖女でも駄目なのか……】

【もしかしてこいつ……】

【ああ、分かってる】

【そうか……だから最初に男の方に……】


 金髪の少女が丸い浮遊物を蹴り飛ばすと遥か遠くに飛ばされていく。

 それにより浮遊物から出ていたものが止まるとこちらに戻ってきた。


「私たちと一緒に来ない?」


 俺の隣までやってきた赤毛の少女が提案する。金髪の少女もそれを求めるように頷いているが……。


「すまんな。それは出来ない」


「どうして? あなた一人になるのよ?」


 不思議そうに聞き返す赤毛の少女は俺の身の上を知らない。その言葉は俺を心配してかけてくれたものだとは思うが……。


「悪いけど俺は他人を信用してないんだ。常に命を狙われて生きてたからな」


 俺が持つ勇者の力は、一人の転生勇者を殺した時に手に入った。傭兵だと言う理由でそいつは俺が所属していた傭兵部隊を惨殺していき、女を辱めようとしていたところ、死体の影に隠れていた俺が不意打ちで暗殺することに成功する。

 その時に勇者の力が移ったことが分かり、後のいざこざで勇者の力を得たことは多くの人々に知られてしまう。それにより勇者の力を欲した味方のはずの人間からも命を狙われるようになった。


【皆には言ってなかったけど実は俺もそうなんだ】

【拙者も……命を狙う輩が】

【これは通院が必要だね】


「ふんっ! ……それじゃああなたはどうするの? 後から戻って来る?」


 赤毛の少女が金髪の少女と同じように浮遊物をはたくと、浮遊物から出てくるものが止まる。


 赤毛の女性の言葉に少し考えを巡らせると……。


「扉は二つあるんだ。お互い別々の道を行こう」


「──そんなの駄目に決まってるでしょ! それに一般人がダンジョンカメラを持たずにダンジョンに潜るのは違法なのよ?」


 赤毛の少女が声を荒らげて詰め寄る。このダンジョンとやらを進むには何かの道具が必要らしい。


「そのダンジョンカメラを手に入れるためにはいくら必要なんだ?」


 この世界のお金の価値はまだ分からないが、判断材料の一つになるだろう。


「探索者登録に五万円。ダンジョンカメラはレンタルも出来るからレンタルだったら月額十万円。もちろん内蔵する魔石は別途お金がかかるけど……」


 赤毛の少女は言葉を止め、俺が穴を空けてしまった扉の方向に目を向ける。


「あのオークの魔石があればお金の心配はいらないわよ」



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