第48話
しばらく動けなかった。
俺たち家族は選ばれた人間。
世界を苦しめる魔王を討ち滅ぼすための唯一の
聖剣エクスカリバーを扱えるのは蒼白眼を持つ成人男性と言う。条件を満たす可能性があるのは我が息子。
そんな大役がこの子に務まるのだろうか?
漠然とした不安に苛まれる。
すべてを理解した上で、俺は何もすることが出来ず、ただ月日が流れ、──そして、悲劇を迎えた。
ある日、妻と息子が殺されてしまったのだ。
たしかに蒼白眼の歴史は風化した。
しかし、ごく一部に真実の歴史を知り、それを恐れる者たちが存在する。彼らの陰謀によって妻と息子の命は奪われてしまった。
俺は迷いなく時空魔法を使い、人生をやり直す決断をした。
世界再編──。漆黒眼を得た俺にはそれが可能だった。時間を巻き戻し、妻と息子が殺される前に戻る。そして俺は白眼様の言葉を
あとは息子の時空魔法で『観測者』としての妻を元いた世界に戻せば、蒼白眼は復活し、聖剣エクスカリバーを使うことが出来る。つまりこの世界に『観測者』としての妻と、聖剣を手にした息子を転移させれば良い。
──それが俺の漆黒眼が導き出した答えだった。
息子が白眼のままでエクスカリバーを引き抜けるかだって?
断言できる。──なぜなら俺には、──
俺も白眼でありながらこいつを解放した経緯がある。──道理は同じだった。
「なにをモゴモゴ言ってるんだい?」
──俺には、息子には知られたくない秘密があった。
白眼様の祭壇には「時の羅針盤」と呼ばれる
俺が手を触れると、羅針盤はこいつの姿に変わる。
「あのさ、さっきから何をブツブツ呟いているんだよ」
初めてこいつに出会ったのは俺が成人を迎えた直後だった。
いつものように祭壇を掃除している最中、俺の手が羅針盤に触れると、弾けるような風圧が起きて、こいつが姿を現した。
「あんたが私を呼び覚ましたのか? せっかく気持ちよく眠っていたのに……」
俺がまだ白眼だった頃の話だ。
彼女は俺に触られると「くすぐったい」と言いながらも必ず姿を現した。そして、俺が白眼様から漆黒眼を譲り受けると、彼女の力を完全に使いこなせるようになった。
時の羅針盤の力。未来を見通す力。俺は息子の未来を
その世界の俺たちは白眼様と出会った
蒼白眼を失った息子は聖剣エクスカリバーを引き抜く──。
漆黒眼を持つ白眼様が、なぜ我々の時代に姿を現したのか? 賢者の
「あのさ、私の声聞こえてる?」
パッツリと切り揃えられた前髪。長い髪は艶やかに腰まで伸び、切れ長の眼は、髪と同じ漆黒の光を湛えている。小柄で
「……飼い主を無視するとはいい度胸だよね」
感情を伴わない冷淡な物言い。
彼女の名は、──クロノ・トリガー。
俺の秘密の
「あっ、これはもう、……お仕置きだよね……。えいっ」
彼女は慣れた手つきで鞭をしならせて俺の背中に打ちつけた。
「あひっ!」
心地よい痛みが走り、思わず声が漏れる。
俺は彼女と出会ってから、潜在意識に眠っていた自分の嗜好に気づき、夜な夜な彼女と
そう、俺の身体にある無数の傷は彼女がつけたものだった。──俺はドMだ。
そして、クロノは──、ドSだった。
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