最終章:私の歩む道

175. 試合の余波が止まらない

「……はい?」


 どうしよう、全く頭が働かない。

 今ミシャさんから言われた事を理解しないようにと、頭が考える事を拒否しているようだ。


「うんうん、最初は戸惑うよね。えっと、簡単に言うとね……ナツちゃん、うちの芸能事務所に入らない?」

「いやいやいや、意味が分からないんですけど!?」


 ハイテイマーズとの戦いを終えた翌日、大事な話があるとミシャさんからメールで連絡を受け、私はギルドの会議室へと呼び出された。

 会議室へと向かうと、そこにはミシャさんだけでなく何やら深刻そうな顔をしたロコさんまでが居た。私はハイテイマーズ関連で何かまずい事が起きたのではないかと少し身構えて話の内容を聞くと……これだったのである。


「実はの、ナツ。先日のハイテイマーズとの戦いが少し脚光を浴び過ぎてのぅ、少し不味い事になっておるのじゃ。……まずはこれを見てくれんか」

「……な、何ですかこれ!?」


 ロコさんは私の前にある掲示板の画面を表示した。そこにはAFC……アンタッチャブル ファンクラブと書かれていた。


「何でこんな物が……あっ! これ、掲示板作成者ミシャさんじゃないですか!? な、なんでこんな事をしたんですか!!」

「いや、ナツちゃん。これはイタズラとかじゃなくて、ナツちゃんの為にやったんだよ?」

「……私の為に?」


 今の私は非常に混乱している。なのでまずは落ち着いて話を聞こうと、ギンジさんから教わった瞑想で気持ちを切り替える。

 そして数回の深呼吸後、カッと目を見開いて全身で聞く姿勢をとった。


「おぉ、凄い気迫だね♪ あ、はい、ごめんなさい。今はふざけてる余裕なんて無いよね。……よし、じゃあ真面目に話しちゃうぞ! 何でナツちゃんのファンクラブを私が作ったかって言うとね、それは私が創設者になってある程度の情報管理が出来る状況にするためなのさ」


 その後のミシャさんの説明を聞いていると、あまりの内容に気が遠くなってしまった。

 ミシャさんの話を簡単に要約すると、先日のハイテイマーズとの戦いを切っ掛けに私の人気が爆発し、ミシャさんが作らなくても誰かがファンクラブを作りそうな勢いだったらしい。

 そこで先んじてミシャさんがファンクラブを作る事によって、ファンクラブ内で共有される情報やファンクラブ会員の動きを制御下に置くように手を打ってくれていたそうだ。


 ファンクラブ自体はミシャさんやシュン君にもあるのだが、ここで私にだけ発生する大問題が存在する。その大問題とは……私の顔と名前がリアルと同じだということ。つまりは私のアホさが招いた問題ということだ。

 もう既にこの顔と名前でこれまで大暴れしてきたため、今さら顔と名前を変えようと問題は解決せず、いくらミシャさんがファンクラブ創設者となったからといって完璧に情報や行動を管理出来るわけではない。

 そこで冒頭の『うちの芸能事務所に入らない?』という話に行き着く。ミシャさんの所の芸能事務所に入る事で、事務所側で個人情報や映像や写真の無断転載、あとは悪意ある書き込み等から守ってくれるらしい。

 尚、薄々そんな気はしていたので、ミシャさんがリアル芸能関係の人という事はスルーしておくことにした。


「で、でも、私一般人ですよ?」

「今時は動画配信者でも芸能事務所入ってる子も居るし、芸能関係の仕事を全くしてなくても所属していたりするからね。あくまで事務所側でナツちゃんを守る体勢を整えるために所属するでも全く問題ないよ。それに、芸能関係であれば法律上何歳からでも仕事が出来るから、ナツちゃんにその気があれば学校とお仕事を両立してお金を稼ぐ事も出来るよ?」


 ――お、お金? 普通の女子中学生である私が芸能のお仕事? ……駄目だ、突然の事過ぎて頭がクラクラしてきた。


「何も今すぐ入らねばならぬという訳ではない。……じゃが、入るのであれば出来るだけ早い方が良いとも思っておる。今回の事は元を辿ればわっちに責任がある。この件で何か困った事になればわっちが全力で力になるし、事務所に入る事についてもわっちからご両親に説明をしに行こう」

「あ、その時は私も一緒にいくよ! 事務所に入った後のプランもいくつか用意しておくから、ご両親にとってもナツちゃんにとっても具体的なイメージが湧いて、どうすれば良いか判断しやすくなると思うからさ」


 確かに、今仕事やお金の話をされても全くイメージが湧かない。と言うかお父さんとお母さんに何て説明すればいいのか……。


『あ、お母さん。実は私、リアルの顔と名前を隠さずゲーム内で大暴れしちゃったから、何か芸能事務所に入る事になっちゃった』


 ……駄目だ、全く意味が分からない。後、絶対にお母さんから怒られる。


 その後、まずは先日のイベント用掲示板を覗いて、今の私の評価や話題がどうなっているのかを実感しておくようにと言われ、この話は一度お開きとなった。

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