149. 4章 エピローグ
ハイエンスドラゴンとの戦いがあった日から今日でもう一週間が経った。その間、私は一度もゲームへログインしていない。
誰とも話したくなく部屋に引き籠っていたかったけど、両親にこれ以上心配を掛ける訳にはいかなかったので、普段は気丈に振る舞っていた。
けれど、部屋に入るとその態度を一変させ、食い入るようにバグモンスター情報の掲示板を見続ける。……あいつを見つけるために。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ファイさん! レキはもう生き返らないんですか!?」
私は懇願するようにファイさんへと詰め寄る。ロストという現実を否定して欲しいと強く願いながら。
「……絶対ではないが、復活出来る可能性はある」
ファイさんのその言葉に私の鼓動は強く脈打つ。
問い掛けながらも、心の何処かでは無理だと告げていたのだ。それを覆すファイさんの言葉に私は歓喜した。
「レキ君には常に生体ログ調査用のデバイスを首輪として着けていた。当然ロスト直前までのログも存在する。そしてあの空間はプログレス・オンラインとは完全に切り離された隔離エリアだった為、直前までの生体ログとナツ君が持つペットロストアイテムを使い、復活出来る可能性はある。……あくまで可能性だが」
「それじゃあ、すぐにやって下さい! お願いします!!」
可能性があるなら試して欲しい、そう私が強く懇願すると、ファイさんは俯き首を横に振った。
「それが今の状態では出来ないんだ」
「何でですか!?」
「先ほど確認した所、何故かプログレス・オンラインの世界にレキ君が存在している判定になっていた」
ファイさんの言っている意味が分からなかった。つまりそれは……。
「レキがまだ生きているって事ですか?」
「いや、それは無いはずだ。ナツ君の持つペットロストアイテムが動かぬ証拠になっている。……ナツ君はあの戦いの最後に、黒い光の粒子となったレキ君がハイエンスドラゴンに吸収されたのを見たのだろう?」
「……はい、確かに見ました」
「どういう原理かは分からないが、恐らくそれが原因だろう。ハイエンスドラゴンは今もプログレス・オンラインの世界の何処かに隠れている。……レキ君の因子を持って」
つまりハイエンスドラゴンがレキを吸収してプログレス・オンラインの世界に存在している為に、レキが復活出来ないと言う事なのだ。それなら。
「ハイエンスドラゴンを見つけ出して倒せば、レキを復活させられるって事ですか?」
「あくまで可能性の話だ。分からない現象が多すぎる為、断言は出来ない」
それでも、レキを復活出来る可能性があるのなら……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私はその日以降、ゲームにログインすることも無く掲示板に齧りついていた。
一応、運営の方でも多くのスタッフを使って世界中を監視しているらしく、見つけたらすぐに連絡を貰えるようになっている。けれど、何もしていないと気が変になりそうで、私は少しでも時間があれば掲示板で情報を集める毎日を送っていた。
……そしてある1件のスクショ付きバグモンスター遭遇情報を見つける。
――レキだ。
それはピクシーウルフのバグモンスターで、発見者の言うには森の中で発見し、その後すぐにそのバグモンスターは姿を消したらしい。
当然プログレス・オンラインにピクシーウルフはレキ以外にも居る。けれど、私にはそれがレキであることがすぐに分かった。
……
…………
………………
「ファイさん、これはどういう事なんですか!? これはレキです! 私には分かるんです!!」
掲示板で情報を手に入れた私はすぐにゲームへとログインした。そしてファイさんにメールを送り、今はギルドハウスの会議室でエイリアスの全員が集まっている。
「私もこの遭遇情報があった時間帯のログを調べた。……その結果、このバグモンスターがレキ君であることは間違いないという結論に至った。だが、このバグモンスターはレキ君であってレキ君ではない」
「……どういう事ですか?」
「レキ君は元々バグモンスターであったが、他のそれとは違い特殊な個体だった。だが今回発見されたレキ君はその他のものと同じ、完全なバグモンスターになっている。……理由は分からないが、恐らくハイエンスドラゴンは1度取り込んだレキ君の因子を切り離し、完全なバグモンスターとして復活させたのだろう」
「……前、ファイさんは言いましたよね? レキを生き返らせるには、レキの因子を取り込んだハイエンスドラゴンを倒す必要があるって。……でも、今その因子を切り離して独立させているってことは、この完全にバグモンスター化したレキを消さないとレキを復活出来ないって事ですか?」
「……そういう事になる」
私の感情が黒く黒く染まっていく……。あのハイエンスドラゴンは私に言っているのだ、「レキを生き返らせたければ、レキを殺せ」と。
「ナツよ、大丈夫かえ?」
私の様子を見て、不安に思ったロコさんが心配の声を掛けてくれた。
「ロコさん……私、自分のやるべき事が今はっきりと分かりました」
「……やるべき事とは何じゃ?」
「レキを生き返らせる事。……でもその前に、この世界からバグモンスターを一匹残らず消し去ります。……だって、そうしないと安心してレキが生き返れませんから」
もう落ち込んでなどいられない……私のやるべき事が分かったから。
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これにて第四章『やるべき事が分かったから』の完結です。
この後はこぼれ話といくつかの設定資料を投稿後、第五章『迷子のテイマー』へと入っていきますので、今後ともお付き合いの程よろしくお願い致します!
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