77. 二つ名システム
「あの~、二つ名って何なんでしょうか? もしかしてプログレス・オンラインの常識だったりしますか?」
「あぁ、ナツちゃん二つ名システムのこと知らなかったんだ。……それで、この面子に囲まれてるのは凄いね」
何故か感心されてしまった。システムと言っているということは、恐らく単純に異名という意味ではなく何かゲーム的な要素なのだろう。
「えっとね、プログレス・オンラインにはプレイヤー間で一定数以上広まっている異名で、且つ運営側がその異名を認めたものを二つ名としてバフ効果付きで付与するシステムのがあるのさ」
バフ効果と言ってもその効果はかなり小さく、殆どおまけのような物らしい。けれど、この二つ名システムによって付けられた公式の二つ名を持つということは、運営お墨付きの偉業を成し遂げた者として見られ、プログレス・オンライン内で最高峰のステータスになるとのことだ。
ちなみにこのゲームがリリースされて以来、二つ名持ちはまだ10人も居ないらしい。
「あの、つまり……ここに居る私以外の人は全員二つ名持ちってことですか?」
「そうそう。ちなみに私の二つ名はサプライズボックス。効果は奇術スキル系技能のクールタイム10%減少さ♪」
サプライズボックス、つまりはビックリ箱。ミシャさんにピッタリの二つ名だ。
「う~む、自分で二つ名を言うのはちと恥ずかしいのぅ。……わっちの二つ名は獣の女王。効果は調教系スキル技能の効果量上昇+5%じゃ」
「獣の女王……ロコさんにピッタリですね。このプライベートエリアにいる沢山のペット達の主ですし」
「まぁ、二つ名なんぞおまけじゃから、あまり気にせんでくれ。わっちも気にしないようにしておる。ちなみにギンジの二つ名は鬼武者で、確か効果は与ダメージ+1%だったかの」
鬼武者……それ以外の異名は存在しないと言える程しっくりくる二つ名だ。それにおまけと言われているバフ効果だが、ギンジさんに与ダメージ+1%はかなり凶悪な気がする。
「……」
「シュン君どうしたの? あ、シュン君も二つ名持ちなんだよね! どういう二つ名か聞いてもいい?」
「……言いたくありません」
二つ名の話を始めたあたりから気配を消していたシュン君だが、私が話を振ると露骨に目線をそらしてきた。まずい、私は何か地雷を踏んだのかもしれない。
「あはは。まぁ、シュン君の二つ名は全二つ名の中でもかなり特殊だからねぇ♪」
「そういえば、わっちもシュンとやらのことを知らんのぅ。大体の二つ名持ちは知っておるのじゃが……まさか」
「そう、そのまさかなのさ♪ 私もナツちゃんがその子と一緒に居るのを見た時は驚いたよ。まさか『足の速い子』と一緒に居るなんてね!」
「……足の速い子?」
その時、私は何故シュン君がこの話題を避けようとしていたのかを理解した。足の速い子は流石に異色過ぎる。
実はシュン君、公式イベントは勿論のことプレイヤー主催のイベントにも殆ど出ていなかったため、プレイヤー名が表に出る事は無かったそうだ。けれど、これだけ強ければやはり目立つもので、偶々シュン君の戦闘や走っている姿を目撃した人から噂は広がり、いつの間にか二つ名になってしまったらしい。
ちなみに効果は機動力スキル+1とのことだ。
「全く無名の状態で、どえらい強さと速さを持ったプレイヤーだって凄く話題になってたみたいだよ? けどまさか、何か大きなことを成し遂げることなく二つ名を得るとは思わなかったのさ」
「二つ名を得られる基準って何なんですかね? 大会に優勝したとかならもっと得ている人居そうですけど」
「ふむ、明確な基準と言うと難しいが、一言で言うと『神に認められた』になるな」
「!?」
今まで居なかったはずの人からの回答に驚き振り向くと、そこには神出鬼没のファイさんが居た。
「ファイよ、今回は流石にわざとじゃろう?」
「ナツ君はなかなか良い反応をしてくれるのでな、少し楽しくなってきているのは否定しない」
「私を驚かせて楽しまないでくださいよ!?」
どうしよう、ファイさんのキャラがよく分からなくなってきた。
「紹介するのじゃ。この者はファイと言って、運営サイドから派遣されて来ておるスタッフじゃ。バグモンスター対策関連の責任者じゃな」
「ファイだ、宜しく頼む」
「えっと、それでさっき言っていた『神に認められた』ってどういう意味なんですか? 神ってプログレス・オンラインを管理してるAIのことですよね?」
「そうだ。二つ名に関して運営側は完全にノータッチで、基本的にAIが独自の判断で公式認定するかを決めている」
なんと二つ名とは完全にAIによる独自判断で付与されるそうだ。
この世界を管理している神AIは決まったルーチンで動いている訳ではなく、情報の蓄積や経験によって思考ルーチンを変化させることが出来る。その為、二つ名を公式にするかどうかも決まった基準がある訳ではなく、言ってしまえば神の気まぐれで決まるらしい。
「だが、完全な気まぐれで付与されるという訳でもない。その異名がプレイヤー間で浸透していること、そしてその異名に根拠があることは必須だ。シュン君に関しては、当時からプログレス・オンライン内で有数の機動力を持ったプレイヤーであり、素の反応速度がトップの実力であったことも要因だろう」
――うわぁ、やっぱり二つ名持ちってみんな飛びぬけた実力の持ち主なんだ。……あれ? そんな人達が集まるギルドに私が入って大丈夫?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます