九月のある日の記憶

こういうとこには初めて来たの?

そうだね、キミはまだ生まれてから十年も経ってない。

ワタシだって、二十年と少しだけれど

でも、キミよりは 幾らか長く生きてる。

だから、このことは知ってる。

ここは、亡くなった人を焼く場所だよ。



…そう、今、出てきた白い塊が、キミのお祖父ちゃん、

ワタシには、伯父さんだった人。

……正確には、その遺体を焼いて、残った骨だよ。


キミは「怖い…」って、一番近いところにいるワタシの手に縋り付くけれど、

怖くないよ。

あれはキミのお祖父ちゃんで、ワタシの伯父さんだった人だし。

それに、…みんないつかああなるんだよ。

…そう、みんな。

ワタシも、キミもね。

……ああ、大丈夫だよ。

順当に行けば、それは遠い未来のお話だから。


ほら、呼ばれてるよ。

キミのお祖父ちゃんを、あの容れ物に綺麗に納めてあげよう?

だってまた、一度おうちに連れて帰ってあげないといけないからね。



この先、キミはきっと忘れるだろう、

ここでワタシと交わした、この短い会話を。

それでいい。

「memento mori」なんて言うけれど、

人間は四六時中、死ぬ時の心配なんかしてられやしない。

ただ、キミがいつの日か、ワタシが死んだと知った時、

ほんの一瞬だけ思い出してくれればいい。

この九月のある日の会話を。




(2023-09-09)


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