第25話


 リザードマン討伐の依頼をこなしたことで、僕たちは冒険者ギルドで破格の報酬を貰った。銅貨300枚分、すなわち銀貨3枚だ。


「――がははっ!」


 カウンター前、受付嬢のおばさんが豪快に笑った。ちょうど、彼女に捏造を交えた経緯を話したところだった。


「あんたたち、そんな珍しいことを経験するなんて凄いじゃないか。雷の音が物凄かったから心配してたんだよ。そのあとに現れたリザードマンなら少数で倒しやすかっただろうし、危ないところだったけど幸運だったねえ」


「ですよね……」


 もちろん、手に入れた大量の魔石についても正直には話さなくて、5個だけドロップしたってことにして、一つ銅貨8枚で売っておいた。


 というのも、全部売らなくても報酬だけで充分だからだ。


 あと、表向きじゃ50匹しか倒してないってことになってるのに、売った分と合わせて全部で348個の魔石を見せたら不審に思われるわけだから。


 さて、これはあとでオルドたちのところへ届けるとして、次はミノタウロスの依頼を受けようと思う。


「……」


 ところが、中々見当たらない。どこにあるんだろう? 少なくともF~Eの依頼の中にはないってことで、僕たちはそれ以上のランクの依頼を探してみることにした。


 D~Cランクの中にもないってことは……。


「あ、見つけました!」


「ま、負けた……」


 お、ユイが発見した。サクラは悔しそう。


 その貼り紙の内容は、ダンジョンにいるミノタウロスを三日以内に30匹討伐してほしいというものだった。


 そのランクというのが、まさかのBランク。僕たちはまだEランクなだけにかなり遠い。


 まあ一度に三つまで依頼を受けられるわけだし、ミノタウロスの依頼を受けられるようになるまでコツコツやるしかないか。


 っと、その前に僕たちは一度屋根裏部屋へ戻ることに。オルドたちに、リザードマンの魔石がアイテムの制作に幾つ必要なのか聞いてなかったんだった。


 あと、倒壊や火災の危険性もあるってことで、『モーラ亭』の悪夢のことも考えると定期的に戻ったほうがよさそうだ。


「おお、早速持ってきたようじゃな!」


「楽しみにしていたぞ!」


「例の魔石を見せてください!」


「もちろん見せるけど、驚いちゃダメだよ? オルド、シャック、グレース……」


 オルド、シャック、グレースに囲まれてせがまれる形で、僕は袋を逆にしてリザードマンの魔石340個をドワーフたちの足元にどさっと置いた。


 さあ、どれだけびっくりするかなと期待してたら、三人とも魔石を前にして納得したような顔でうなずき合うだけだった。あれ?


「よしよし、これだけあるなら大丈夫そうじゃな。シャック、グレース」


「そうだな、オルド。これならギリギリ足りそうだ!」


「ですね、オルド。この量ならには耐えられそうですねえ」


「……え、エンチャント?」


 なんかゲームで聞いたことのある言葉だと思ったら、あれか。特殊効果をつけるやつか。


「ってことは、何か作るだけじゃなくてそれに特殊な効果を付与してくれるってことかな?」


「うむ、そうなる。どんなものが完成するのかはできてからのお楽しみじゃ。とはいえ、エンチャントは失敗することのほうが多いから油断できん。とにかく、今のままじゃ何もできんから、ミノタウロスの魔石も大量に頼む!」


「……う、うん……」


 僕らは苦い顔を見合わせた。もし自分たちじゃなかったら、作るのは到底厳しいやつだった。さすが、ドワーフたちは創造するのが得意なだけあって、やることが全然違う……。






 あれから数日後、僕たちは遂に揃って冒険者ランクがBランクとなり、ミノタウロス討伐に成功して魔石も大量に集めることに成功した。


 僕がレベル27、ユイが同じく27、サクラが25だ。サクラは才能値が高いからレベルが上がるのも早いし、追いつかれるのも時間の問題な気がする。


 早速ドワーフたちによるエンチャントが始まった。ゴーレムの魔石とは別に、リザードマンとミノタウロスの魔石を熱で溶かして合成し、次々と叩き始める。


 ほとんどの魔石は、オルドたちがハンマーで叩くたびに手元からどんどん消えていき、残り僅かとなったところで異様な輝きを放つものが一つだけ完成した。


 三人とも歓声を上げて手を握り合ってることから、どうやら成功したみたいだ。よかった……。


 そのあと、唯一できた輝く石をゴーレムの魔石と合成させて、三人で何やら加工し始める。


 それから少し経って、盾の形をしたペンダントが出来上がった。


「よしっ、完成したのじゃ!」


「完成したぞ!」


「完成しましたねえ!」


「こ、これは……?」


「【盾のペンダント】じゃ。これを持っていれば、半径2メートル以内であれば、敵の物理攻撃や魔法攻撃に対して結界が自動的に発動して防いでくれる」


「おおっ、そりゃ滅茶苦茶凄いや……」


「つ、つまり、クルスさんの傍にいれば私たちも守ってくれるんですね!」


「チートすぎるペンダントだな……」


 ユイとサクラもこの効果には仰天した様子。


「ただ、注意するべきことがあるのじゃ」


「注意すべきこと……?」


「うむ。これをつけていれば絶対にダメージを食らわないというわけではなく、結界で軽減できるというだけじゃから、これに依存せずになるべく気をつけることじゃ」


「な、なるほど……でも、助かるよ。ありがとう、オルド、シャック、グレース!」


「ありがとうございます、ドワーフさん!」


「恩に着る。本当に頼りになるな、お前たちは……」


 僕たちがお礼すると、オルドたちは互いに白い歯を見せ合って喜んでいた。特にボスのサクラが褒めると、よほど嬉しかったのかみんな鼻を赤くして満足そうだった。


 盾のペンダントかあ。こうして首に下げて眺めているだけでも心強いアイテムだ。


 なんせ、物理と魔法、両方の攻撃に対して自動的に結界が発動してダメージを減らせるんだからね。


 僕の場合HPが少ない状態になる機会も大いにあるだけに、これで相当に有利になるのは間違いない。


 早速エルフの国へ行きたいところだけど、その前にがある。


 というのも、先日冒険者ギルドで右列の一味の姿を確認したんだ。顔を赤くしたサクラが向かっていこうとしたところを、ユイと二人で慌てて止めた。


 兄さんの仇を討ちたいサクラの気持ちはわかるし、そいつらを今すぐにでもやっつけたいところだけど、召喚士ガリュウの目的について聞き出してからでも遅くない。そのために逆に煽ててやろうかと思っている。


 あいつはエルフの国を滅ぼしてこの国を守ろうとしているとか言ってたけど、本心はにあるんじゃないかって僕は睨んでいる。


 この国を守ろうとしているような人が、悪人ばかり集めたがるとは到底思えない。その真意をどうしても知りたいんだ。


 取り巻きである右列の連中なら、ガリュウの真の目的を知ってるんじゃないかな。


 特に下っ端たちは、上から面倒事を押し付けられてガリュウに不満を覚えている可能性もある。そこを突いてやるんだ。

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