第2話

 むせかえりそうな桜吹雪に包まれて意識を失った小紅は、自分が地べたに寝かされていることに気が付いた。


(ここは……)


 体を起こして周りを見回すと、辺り一面に桜の花弁が散らされている。土が見えないほど埋め尽くされていた。


 空はなく、薄紅色の背景が広がっていた。どこから降ってきているのか、常に桜の花弁が舞っている。


 とても美しい、見たことのない場所だ。


「母さん……?」


 小紅が小さくつぶやくと、そばで甘い香りが漂った。


「目が覚めた?」


 彼女のそばで手をついたのは、薄紅色の髪を持った小さな少女だった。前髪は桜をかたどった髪飾りで留め、さくらんぼのようなあざやかな赤い瞳で小紅のことを見つめている。


「あなたは誰……?」


「私はあなたたちに桜の精と呼ばれているわ」


「あの桜並木の……!」


 あの噂は小紅ももちろん知っているので全身に悪寒が走った。恐れが顔に出てしまい、桜の精と名乗った少女は小紅を安心させるために三歩ほど離れて手を振った。


「ち、違う! 私はあなたを襲いたいんじゃない。一緒に遊びたいだけなの……。それなのに人間たちは私のことを必要以上に恐れて悲しかった……」


 桜の精は泣きそうな顔でうつむいた。


 彼女の言う通り、害を与える気はないらしい。小紅は自分を落ち着けるためにゆっくりと息を吐き、弱々しくて説得力がないほほえみを浮かべた。


「そうなの……。じゃあ、私と遊ぼう?」


「……うん!」


 桜の精は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに無邪気な笑顔を浮かべた。


 サスケからは桜の精は女の人だと聞いていたので、小紅よりも年上の女性を想像していた。しかし、実際は幼い少女で可愛らしい。


 何をして遊ぼうかと尋ねると、少女は迷いながらもたくさんのごっこ遊びを挙げていった。











「どうすんですかせーめーさん! 桜の精から小紅を取り戻すなんてどうやって……」


 征司は清命を追って本殿に駆け上がった。


「おや。可愛らしかった少年が随分と成長したものですね」


「は……?」


 本殿には見たことのない長身の男がいた。計算されたように整った顔立ちは女にも見える。


 長い黒髪を下ろし、白い着物と紫の袴を身につけている。銀糸で描かれた紋様は忠之が履いていた袴と同じだ。


 征司は清命よりも背の高い男を見上げ、口をぽかんと開けた。


 男は薄い唇に笑みを浮かべ、征司の頭に手を乗せた。かつて忠之にされたように優しくなでられ、急に懐かしい気持ちになる。


「やっとお前さんにも見えるようになったか」


「せ、せーめーさん? この人誰?」


「彼はこの神社に古くからいる式神だ。お前さんのことを小さい頃から知っているぞ」


「式神ってなんですか」


「まぁ……うちの神社の守り神と言った所だ。私の父の何代も前からこの神社にいる。時々何年も眠り込むが」


「それが今、この青年に叩き起こされたところなのですよ。どうやら娘御がさらわれたようですね」


 式神だと紹介された男は髪を一房すくうと、紙紐を使って後頭部でくくった。






 桜並木に到着すると、確かに桜が狂い咲いていた。花弁を散らす姿は美しいのだが、夏も終わりかけて秋が手前の時期なので気味が悪い。心なしかこの辺りの空気だけ冷えている気がする。


 式神は桜の幹にふれ、満開の桜を見上げた。


「これは……幻覚ですね」


「こんなにはっきり見えてるのに?」


「えぇ。桜の精のいたずらでしょう」


「それで小紅はどこなんだ?」


「今探しています」


 式神はしゃがみこむと地面に人差し指でふれ、聞き取れない声量と素早さで何かを唱えた。


 その瞬間に落ちていた花弁がふわっと舞い上がり、つむじ風が起きて花弁が渦を巻きながら空へ飛んでいってしまった。


「おぉ……」


 花弁がひらひらと落ちてくる様子に、征司は感嘆の声を上げた。手を広げると花弁が一枚、舞い降りた。


「……小紅!?」


「どうした」


 征司は名前を呼んだきり、花弁を凝視した。清命が気になって近寄ると、彼も目を見張った。


「どういうことだこれは……花弁に小紅がいるじゃないか…!」


「これは桜の精と娘御がいる別世界の様子です。私の術でこちらと繋げました」


「すげ~……」


 再び見つめると、花弁の横から小紅とは別の少女が現れた。薄紅色の髪をした幼い少女は顔を真っ赤にしてうつむいた。


 征司が怪訝な表情で手の平を目に近づけると、それ以上はやめてくれと言わんばかりに少女は手を激しく振って消えてしまった。


「どうやらこちらに気づいたようですね」


「あれが桜の精……子どもなんだな」


「見た目だけですよ。中身は高齢の女です」


 式神は地面に木の枝で円と、その中に五芒星を書いて一回り大きな円で囲った。円と円の間に征司には読めない文字を連ねる。


 作業を終えると式神は手を叩いて払い、征司の手を取って自分の近くに引き寄せた。


「さぁ行きますよ、少年」


「お……俺?」


「桜の精を説得して娘御を取り戻すための鍵です」


「せーめーさんは行かないの?」


「青年にはここで待っていてもらいます。我々が長いこと戻って来なければ彼にこちらへ引っ張ってもらうのです」


「せーめーさんも術を使えるんだ……」


「これでもな。父ほどではないが……」


「大丈夫。我々を連れ戻すだけの力は持っています」


 式神は表情を変えることなくそう言うと、再び呪文を唱え始めた。相変わらず近くにいる征司でさえ聞き取れない言葉だが、次第に周囲の桜が激しく枝を揺らし始めた。


 花弁はバラバラと崩れるように地面に落ち、風に包まれて征司も目を開けていられないほどの暴風に変わっていく。


 小紅が朱鷺の前から姿を消した時、桜が吹雪いたと話していた。


 きっとそれはこの状況のことなのだろう、と征司は自分が飛ばされないように踏ん張っていた。











 ままごと、かくれんぼ、鬼ごっこ。小紅が幼い頃に親しんだ遊びを桜の精にねだられるまま遊んだ。


 彼女は無邪気で何をしても楽しそうに笑った。もし小さなきょうだいがいたらこんな感じだろうか。


 二人で平たい石の上に腰かけると、桜の精は次はお手玉で遊びたいとねだった。


「いいよ、お手玉も出せるの?」


「もちろん!」


 不思議なことに桜の精はどんなものでも桜から生み出せた。地面に散らばる桜の花弁をかき集めて彼女が念じると、それは様々な形に変わった。ままごと遊びをするための小さな調理道具も玩具の野菜も、かけっこをするための小さな動く人形も。しかしそれらは全て一定の時間が経つとただの桜の花弁に戻ってしまう。


 桜の精にお手玉を渡され、母に教えてもらったように披露すると彼女は手を叩いて喜んだ。小紅が手一言二言コツを教えてやると、あっという間に上達した。


 笑っている彼女につられて顔をほころばせた小紅だが、ふと思い出したことがありお手玉を軽く握った。


 お手玉を同時に四つを回せるようになっている少女をじっと見つめ、小紅は背中に嫌な汗が伝うのを感じた。


(若い男が好きとか若い魂を食べるとか言ってなかったっけ……)


「ねぇ、小紅」


 小紅の心情など知らず、桜の精はお手玉をする手を止めた。お手玉は他の物と同じように桜の花弁に戻り、彼女と小紅の手の平からこぼれ落ちていく。


「ど、どうしたの?」


 小紅は驚き、うまく笑えない顔で首をかしげた。そんな彼女の様子を気に留めず、桜の精は手の平に残った花弁を振り払った。


「あなたが小さい頃によく一緒にいた男子おのこはなんと言うの?」


「征司のこと?」


「まさし……征司と言うのね。いい響き……」


 桜の精は幼馴染の名前を何度もつぶやいた。その度に小紅の中で別の感情が渦巻く。


 家族が征司の名前を口にしてもなんとも思わないのに、この少女が呼ぶと心がざわめく。小紅は自分の心臓の辺りの着物を掴んだ。


「どうしてあなたが私たちのことを知っているの……」


「私は古くからこの地に棲む桜の精だよ。知らないことなんて、ない」


 桜の精は石の上で姿勢を正し、大人びた笑みを浮かべた。先ほどまでの無邪気さはどこかへ消えてしまった。ずっと妹のようだと思っていたのに。


 それどころか彼女の目線の方が高くなり、体型は年頃の娘らしく果実のような丸みを帯びている。ビー玉のようなまん丸な瞳は横長になり、瞬きをするたびに柔らかそうなまつ毛が揺れた。


「ねぇ、征司を私にちょうだい」


「は……え?」


 大人の女のような色気と艶を持った声色。桜の精は豊かな胸の前で両手を組み、頬を染めた。


「私はあの男子おのこが好き。私とこの世界で暮らして永遠に私のものにしてしまいたい。ねぇ、いいでしょう?」


「そんなこと言われたって……征司は誰のものでもないもの……」


「じゃあ私のものにしても問題ないってことね」


「そっそれは違う! 私だって征司のことが……」


「ここまで私の言うことをなんでも聞いてくれたのに、ここで"嫌だ"なんて、私が嫌だ」


「そんなこと言われたって……征司がいなくなってしまったら彼のご両親が悲しんでしまうもの。……私も、サスケも」


 桜の精が拗ねて膝に肘をつき頬を膨らます。


 なぜこんなことが伝わらないのだろう。彼女が人外だから人間的な思考回路を持っていないからなのか。


 小紅は困り果てて膝の上で手を握った。頼りない拳はいつもより一回りも小さく見えた。


 彼女がこの世界に征司を連れてきて永遠に閉じ込めたら、神隠しになってしまう。


 そして何より────小紅自身が征司に会えなくなってしまうのが耐えらえない。


「……征司は普通の人間なの。私だって。だからここにはいられない」


「征司は普通の人間なんかじゃない。彼だけは私を恐れなかった……。ほとんどの人間は私を恐れ、足早に桜並木から走り去ってしまうけど征司だけは違った。彼からは恐れを感じられなかった」


「征司はその……能天気であまり深く考えないから……」


 彼女は首を振って拒絶した。いかにも恋する乙女という表情で、早く征司に会って抱きしめ合いたいと願っているようだった。


 そして小紅に目をやると意地悪く笑ってみせた。いつの間にか立場が逆転してしまい、桜の精を見上げてしまうほど存在が大きく見える。


「偉そうなこと言ってるけど……その姿で将司の隣に堂々と立っていられる?」


「え────何これ!?」


 改めて自分の姿を見ると体が縮んでいた。短くなった手足は赤子のように肉がつき、長い桃色の髪の毛は肩先に届くほどしかない。花柄の着物は赤子が着るような地味な色合いの産着に変わっていた。


 驚きで言葉が紡げないでいる小紅のことを桜の精は嘲笑い、立ち上がった。


「あなたの肉体をもらったの。若い女はいいわ……」


「なっ、なんてことを……戻してよ!」


「い・や」


 妖艶に片目を閉じた桜の精だが、態度が急変した。苦い顔で舌打ちをした。


「なぜこうも早くバレた……」


「え?」


「おいたはそこまでです、桜の精よ」


 桜の精が顔をしかめた方向に振り向くと、髪の長い男がいた。男のまとう雰囲気は妖しいがなぜか安心した。


「チッ……くそじじい!」


「お互い様です。くそばばあ」


 悪態をつき合い、桜の精は両手を握りしめてそっぽを向く。


 すると、この場には不釣り合いな能天気な声が────今日はそれにひどく安心感を覚えて泣きそうになってしまった。


「おーい、大丈夫か小紅ぃー」


「征司……っ」


「……って、なんでこんな所に赤ん坊がいるんだ?」


「わ……私だよっ、小紅!」


「そうなの? 何がどうなってやがんだ…」


「あらかた、この桜の精の術でしょう」


「何? おい、小紅を元に戻しやがれ。小紅は連れて帰るぜ」


「だ……だめ! あなたがここに残るならいいけど……」


「身代わりってことか……いいぜ」


「何言ってるの!?」


「少年、人外と容易に約束を交わすものではありません」


 式神が厳しい顔で征司の肩を掴んだが、彼はほほえみながら首を振った。


「大丈夫、ほんの少しだけさ。式神さんたちは先に戻っていてくれよ。五分経ったら強制的に連れ戻してくれ。さっきあんたがせーめーさんに頼んでいたみたいに」


 式神はため息をついたが、赤ん坊の小紅を抱き上げて踵を返した。


「五分だけですよ。それ以上は許しません」


「ありがとよ、式神さん」






 桜の精は征司よりも少し年上の女の姿をしている。


 式神を見つけた時の彼女は山姥のように見えたが、今はただの年頃の娘にしか見えない。


 彼女は征司と二人きりになると口をつぐみ、髪色よりも濃い紅を頬に差した。


 征司は地べたに座り込み、彼女を見上げてニカッと笑った。


「噂はよく聞いてたぜ。ウチの義兄弟があんたのことを見たことがあるって言ってた。そいつはサスケっていうんだけど……」


「知ってる」


 彼女は征司の言葉を遮ると、胸の前で手を組んでそっぽを向いた。


「あなたたちのことは特によく知ってる……。この前もサスケはこの近くを通り過ぎた。逃げるように走って……だけどね」


「らしいね。あの後、慌てて神社に来たよ」


「……そう。怖がりなんだ」


 征司は桜の花弁をすくい上げると、花咲かじいさんのように自分のそばでばらまいた。


「なぁ、桜の精さんよ。こっちの世界では年がら年中桜を咲かせているのか?」


「え? えぇ、そうよ」


「そうか。綺麗だな。現実でもずっと桜が咲いてたらいいな……」


 桜の精も征司と同じように手の平に花弁を乗せ、息を吹きかけて舞わせた。彼女が生んだ風は白いもやがかかっている。乳白色の中に浮かぶ桜の花弁が映えて美しい。


 彼女は花弁が舞い落ちるのを見届けると、目を閉じてゆっくりと首を振った。


「それはできない。桜は春にしか咲かせないの」


「なんでだ?」


「どんなに美しいものでも常に見れたら半減しちゃうもん。それに、春は桜を咲かせるために来る。裏切ることはできないよ」


「へぇ。春との約束か。風流だなぁ」


「遥か昔からの誓いだから」


「そうか。じゃあ……俺らがここにいられないのはそれと似たようなモンだ」


 征司の声の調子が変わった。桜の精は顔を強張らせ、両手で耳を塞いだ。


 彼は優しく微笑むと、彼女の両手にそっとふれて目線を合わせた。


「桜の精よ、ここに一人でいるのが寂しいのは分かる。でも人間はここにはいられないよ。あんたと春の約束と同じだ。俺らは俺らの世界があるんだよ」


「でっでも、私と征司で祝言をあげれば問題ないよ。征司もこちらの者になれる」


「ごめん、それは俺が望むことじゃない。俺はここにずっといるのも、この村にとどまることも望んでいない」


「そんな……」


 彼女の寂し気なぼやきに征司が言葉を返すことはなかった。彼女の耳から手を離させ、困った顔で淡くほほえむだけだった。


「やっと言葉を交わせたのに……」


「泣くなって」


 視界がぼやけてきたのと同時に、征司の大きな手の平が頭に乗せられた。


 桜並木を通りかかったきょうだいのことを思い出す。


 幼い妹の手を引いて歩く兄が、突然泣き出した妹の頭をなでてあやしていた。今まさに、あの時と同じ状況だ。今ならあの幼い妹の気持ちが分かる。


 自分の方が征司より遥かに永く生きているというのに。今の彼は人に安心感を与え、頼れる兄のように思えた。











「もーどりっ」


「征司!」


「無事だったか」


 征司は空中から突然、桜の花びらに包まれて現れた。危なげなく着地すると、幼子の姿の小紅が真っ先に駆け寄ってきた。


「大丈夫だった?」


「おう。桜の精にはこれからも毎年、綺麗な桜を咲かせてくれって頼んできた」


「そっか……征司が無事に戻ってきてよかったよ」


「心配してくれたんだ。ありがとな」


「わ……きゃっ! ちょっと子ども扱いしないでよ!」


 征司は小紅の脇の下に手を差し込むと、”高い高ーい”と高く掲げて遊び始めた。赤い顔で小紅は怒ったが、なにぶん体が小さいので説得力がない。


「ていうか小紅、いつまでこの姿でいるんだ?」


「それは私が聞きたいよ!」


「う~ん……。俺も桜の精に聞くのを忘れちまったからなぁ……。式神さん、なんとかならないかな」


「大丈夫ですよ。大した術ではないようですから。本人が強く願えばすぐに解けます」


 征司はゆっくりと小紅を地面に下ろし、一緒に地べたに座り込んだ。着物が汚れる、と小紅に止められたが征司は構うことなく促した。


「やってみろよ。いつまでも子どもの姿でいるわけにはいかないだろ」


「そうだけど……」


「何をためらってんだ? 戻りたくない理由でもあるのか」


「だって、この姿だと征司としゃべりやすいもん────」


 小紅は頬を桜色に染めて背中で手を組んだ。およそ幼子には似つかわしい姿でもじもじと恥じらった。


 征司はあぐらをかいた膝の上で頬杖をつく。


「そうだなー、小紅とこうして目を合わせて話したのは随分久しぶりだ。こう見えてちょっと気にしてたんだぜ。もしかして俺、何かしたかな。それなら謝るから……」


「それは違う!」


 小紅は征司の声を遮っり、子どものように激しく首を振った。


「じゃあなんで」


 彼女は一瞬言葉を詰まらせ、胸の前で手をいじり始めた前髪うつむいた拍子に瞳を隠す。恥じらいがちに発せられる小さな声は、蚊が鳴いているようだ。


「……子どもの時はなんでもなかったのに、今はすごく意識しちゃうんだもん。征司と目を合わせたり、近くにいるとすごくドキドキしてどうしたらいいか分かんなくなる…」


「小紅……」


 征司は手の平から顔を浮かし、口をポカンと開けた。


「私、征司のことが……!」


「一緒にいようか」


「へ?」


 征司は勢いよく立ち上がり、小さな小紅に向かって手を差し出した。


「子どもの頃みたいに一緒にいよう。そしたらまた、あの頃の俺らに戻れるんじゃないかな」


「征司……うん!」


 小紅はうっすらと涙を浮かべ、彼の手を握った。


 その瞬間に彼女の姿は元の年頃の娘に戻り、征司は驚きつつほほえんだ。そして拳を握ると何度か上下に振った。


「よっし。これで旅の仲間が増えたぜ。これからもよろしくな、小紅」


「へっ?」


 小紅は間抜けた顔になり、目を点にした。


「いやだから、じいちゃんの話を確かめに行く旅だよ。今んとこサスケが一緒に行くんだけど、小紅も仲間になるんだよ」


 征司は一体何がおかしいのかと小紅のことを不思議そうに見ている。


 突然旅の仲間にされ、彼女は救いを求めるように清命のことを見た。察した彼は、お手上げだと言わんばかりに肩をすくめた。


「私の勇気はなんだったの……」


「なんか言ったか?」


「征司のバカァ!」


「おわっ!? なんで急に罵倒すんだよ!」


 小紅の精一杯の想いは征司には届かなかったらしい。筋金入りの鈍感だ……と小紅は嘆き、肩を落とした。

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