第20話 友達と体育館裏で話した
昼休憩になっても俺は自分のクラスで1人窓の外をじっと眺めていた。
なんで俺は植野の所へ謝りに行かないんだ?植野に会うのが怖いから?違う。植野に会いたくないから?それも違う……。じゃあなんでなんだよ……。
頭の中で争いが起きているようなぐちゃぐちゃな感覚に陥っていた。はぁ……もう俺はどうすればいいんだよ……。
そんな時だった。窓に映っている自分の顔が突然意思を持って俺に語りかけて来ていた。
(このままほ放っておけよー、放っておけば友達が1人減るんだからよぉ……お前はそれを望んでるんだろ……?)
などと囁いてくる。何を言ってるんだ?そんな訳ないだろ?と不快感を表していると、窓に映ったもう一人の自分はさらに畳みかけるように囁く。
(大丈夫幼馴染の一人失ったて変わりゃしねぇよ……。)
それは……流石に……と不満を抱ていると、今度は俺の目の前で威嚇するように睨みつけていた。
(だからさ、お前はそれを望んでるんだろ……?)
「違う!!!!!」
唐突に立ち上がって大声を上げてしまい、教室で昼食をとっていた生徒たちの視線が一斉に俺の方に注目が集まる。しまった……いろいろと考え込んでしまって、変な幻想が見えてしまっていたようだ……。
息を整えて、椅子に座りスマホをポケットから取り出そうとすると、近くで別の友達と食べていた小原が心配そうな顔をしてこちらに歩み寄ってきた。
「お前? 大丈夫か……?」
「大丈夫だ」
俺はそう返事をしてスマホを操作しようとすると、小原は俺の腕を掴んで強い力で引っ張り上げる。
「そうだそうだ。学食近くの自動販売機に新しい缶ジュース出たんだってよ行こうぜ」
「お、おい!!」
「早く行くぞー!! 昼休憩終わっちまうぜー!!」
ずるずると俺を引っ張って教室から引きずって行く小原。やめてくれと懇願するも聞いてはくれなかった。俺は一体どこへ連れていかれるのだろうか……?
体育館裏に連れて来られた俺は、シャトルドアの前に俺は座っていた。小原はジュースを買いに行ったが本当に新しい缶ジュースになんてあるのだろうか?
「ちょっとは落ち着いたか?」
「あぁ……」
小原はほらよっと言いながら一本の缶ジュースを投げつけてきた。てかこれよく見るとこの間スーパーで飲んだレモン風味のエナジードリンクじゃないか……。まさか学校にも入荷しているとは……。
タブを開けて飲み始めると、小原も隣に座り同じエナジードリンクを飲み始める。
「とりあえず何があったんだ?」
黙り込む俺に小原は優しく聞いてくる。どうやら小原も俺の異変に気付いていたようだ。
「俺も一昨日秘密を話したんだけどなぁ……」
「あれ秘密の話だったのか!?」
驚く俺に「そうだぞ」と相槌を打つ小原。まぁ小原みたいにチャラ男が三瀬川って言う令嬢と付き合ってたらそりゃ大騒ぎに……なるのかなぁ……?
そんな事はさておき、本当に話して良い物か……と悩んでいると、小原はうるうるとした目を俺に向けていた。
「俺だって秘密話したのにひどいなぁ……」
「わかったよ」
観念した俺は、昨日あった事とクレアが妹であることを全て話した。小原にはあまり話したくはなかったが、また植野みたいに面倒な事になるのはごめんだったからだ。
だけど予想とは裏腹に小原は俺の話を以外にも真剣に聞いてくれていた。からかってきたりするのかなぁと思っていたので驚きだった。
「なるほどなぁ……。クレアさんを妹と知らない植野さんが最悪のタイミング家に来て、一緒にいるとこを見られたと……。ここまでは合ってるか?」
「おう」
「んで、その後カミングアウトするも時すでに遅しで植野さんはキレて帰って行ったと……」
「簡単に言えばそういうことだ」
全てを理解した小原は深いため息を付いた。
「なんだよ」
「お前ならいつかやってしまうだろうなぁと思ってたよ……。俺にも今話しといて正解だったな」
「その言い方まるで俺がやらかす事を予知してたみたいな……」
「ふふん、そうだなー」
誇らしげにしている小原になんでそこまで俺の事を知り尽くしてるんだ?ただの友達なのに……と疑問に思う。
というか小原はなんでそこまで俺に執着しているんだろう?別に俺以外にもいい奴はいるだろうに。
「んで? もう謝ったのか?」
「まだだよ……」
「そうだと思ったわー」
小原の言い方に少しムッとするが、なんとか抑え込む。
本当はこんな事を小原と話してる暇はないのになぁ……本当になんで俺は行こうと思えないのか……。
「お前の本心言い当ててやろうか?」
「お、おう……」
本心?そんな事が小原にわかるって言うのか?そんな訳あるわけないだろうに。占い師じゃあるまいし……。
まぁでもとりあえず聞いてやるか……。
「このまま謝らなければ植野さんと交友関係を絶つことができて友達が1人減るから楽だ。でもそれは自分の良心は許すことができない……どうすればいいんだ? ってな」
驚いた……。俺が心の奥底にあったものがほとんどあっていたのだ。しかもあの変な幻想で出てきた奴が言っていた言葉もちゃんと入っている。
もしかして小原ってエスパー……?
「エスパーじゃねぇよ……」
「なんで俺の考え読み取ってるんだよ怖っ!!」
驚きを隠せない俺をよそに小原は急に真剣な目つきとなって「なぁ」と言い話し始める。
「この際はっきり言わせてもらうぜ? お前は絶対植野さんに謝るべきだ」
「それはわかってる」
「わかってねーんだよ!!! お前が突き放してもついてくるってことは植野さんお前が必要だって事なんだよ!!!」
急に怒鳴り散らすように物申す小原に俺は圧倒されていた。
こいつも中原と同じ事を言うのか……。俺が全く理解出来ていなかったということを改めて思い知らされていた。
小学生の頃に友人関係や人間関係を切った代償がここに来て表れたということか……。
頭の中でいろいろな考えが錯綜する中、小原は俺の肩を強く掴んだ。
「絶対謝って植野さんを大切にしてやれ。謝らないのは俺が許さねえからな……」
「わかったよ。ごめん俺なんかのために」
「いいんだよ。俺はお前の数少ない友達だろ?」
「あぁ……。そうだな……」
俺は友達と言われて、嬉しい反面まだ少し複雑な心境だった。友達か……。
友達という言葉で頭の中にスーパーで小原と三瀬川と話していた事を思い出した。
そうか、大切な友達だからこそ俺が間違った道に進まないように導いてくれているって事か。植野の事で全部頭から吹っ飛んでいて忘れていたようだ。小原ってマジでいい奴なんだなと改めて実感した。
エナジードリンクを飲み終えた頃昼休憩終了のチャイムが鳴り響く。
「局昼休憩もいけなかったか……」
「次は放課後だ。放課後の方が時間はたっぷりあって謝りやすいと思うぞ?まぁでも早い事に越したことはないけどな……」
「だよな……。」
「そんなに心配なら、麗奈もついていかそうか?」
「余計に状況悪くなるわ!!」
「そうだよなー。めんごめんご」
俺はいつの間にか小原に冗談を言えるくらいに元気になっていた。いろいろとあって精神がズタボロになっていたが、小原の励ましのおかげで元気が出た……。本当に感謝だな。
今の状態なら植野と話しても、絶対仲直りができる。そんな気がしていた。
放課後になって俺は急いでリュックに教科書を入れてHクラスに向かおうとする。植野が帰ってしまう前に捕まえないと。
「久野原君」
教室を出ようとすると、クレアが俺に声をかけてくる。こんな時に……と思いながらも「何?」と言い立ち止まる。
「あれは澄ました?」
あれと言われて一瞬何のことだ?と一瞬困惑していたが、すぐに意味を理解する。
「あぁまだだよ……。今から行くとこ」
「そっか。じゃあ、いってらっしゃい」
「おう」
クレアが後ろで手を振ってくれていたのをチラ見した後、俺は急いでHクラスに向かったのだった。
Hクラスに到着した俺は意を決して教室の中に入る。かなりの人数の生徒がもう部活に行ったり、帰路についたらしくもうほとんどいなくなっていた。これなら探しやすいなと思って植野の姿を探すがどこにも見当たらなかった。
クレアと違って他の生徒と同じような容姿だが、かなり端麗な顔をしているので目立つと思うんだけど……。
しょうがない。俺は教室に残っていた女子生徒に話しかける。
「なぁ。植野どこ行ったかわかる?」
「植野さん? ホームルームが終わってすぐ帰ったみたいだよ?」
「そうか。ありがとうな」
俺はお礼を言ってすぐにHクラスを出た。女子生徒から「怖かったー」なんて聞こえてきたが今はどうでもいい。
やっぱり避けられてるのかなぁ……。まぁ当たり前か。それだけの事を俺はしてしまったんだからな。
こうなったらLINEで呼び出すか……。いやさすがにブロックされてるよなぁ……。うーん家まで押し掛けるか……等と考えていると隣を通った別クラスの女子生徒の話し声が聞こえてくる。
「植野さんとクレアさん……。屋上へ二人で向かっていったけど何するんだろうね……?」
は……?立ち止まって、歩いて行く女子生徒二人の話に耳を傾ける。
「植野さん。結構怒ってたような表情してたよね……喧嘩かも……」
「当たり強いから、クレアさん泣いちゃうかもねぇー」
女子生徒二人は「てかさー」と言って話をすぐに切り替えて階段を下って行ってしまった。
クレアが植野に呼び出された……?いやな予感がする……。
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