第14話 妹と一緒に家へ帰った
クレアの言う通り外に出た俺は、入口近くにあった自動販売機で、エナジードリンクを買う。これが風邪に効くかはわからないが気休め程度にはなるだろう……。
それにしてもクレアは過剰な面がある。たかが風邪なのに心配し過ぎだ。そりゃ心配してくれることは凄く嬉しいがそれでも限度がある。でもこういう事言うと妹がいない全国の男に怒られそうなのでこれ以上は言わないでおく。
「てかこのエナジードリンクうっま!」
適当に買ってあんまり見ていなかったが、いつも飲んでるエナジードリンクと違って缶が黄色で、レモン風味の味で程よくすっぱくてとても自分の好みの味だった。こういうの売ってたんだなー、今度通販で箱買いするか……。
飲み終えてもう一本買おうとすると、スーパーの出口から小原と三瀬川カップルが出てくるのが見えた。何を作るのかは知らないが相当な量の材料をレジ袋に詰めていた。
「な? 言った通りだろ? 久野原は噂通りのやつじゃないって」
「そうですね、あれなら久野原君と仲良くできそうです……」
「学校にいるやつらはアイツの事を悪い奴とか、怖いやつとか思ってるだろうけど、そりゃ間違いだ。俺はそれを皆に知ってほしいんだよ」
「優しいですね……」
「当たり前だろ? 友達なんだからさ」
小原、俺なんかのためにそこまで思ってくれてたんだな……。黒い噂が流れていたことは自分でもわかっていた。小学生の時のあの事件以来、俺の事を冷たい眼差しで見ない人はいなかったくらいだからだ。それは中学生になっても終わることはなく、助け舟を出す者もいなかった。
そんな中アイツはちゃんと友達として見てくれていて、黒い噂を払拭するために頑張ってくれていたんだな……。ちゃんと信用していたつもりだったのに、信用しきれていなかった今の自分を叱責してやりたい気分だった。
でも嬉しい反面少し複雑な気分なのはなぜだろう?
「ところでさ」
考えるのに夢中だったが、まだ近くには小原と三瀬川がいた。よく見ると二人はスーパーの中にいた時よりも距離が近くなっているような……?
「今日はいっぱい甘えさせてくれるんだよね?」
「そんな事公衆で言うんじゃありませんよ?」
「はーい……」
「でも……久しぶりだし今日はいいですよ」
顔を赤らめてそう発した三瀬川の顔は、とてもメスの顔をしていた。おいおいなんかすごい見ちゃいけないものを見てしまった気分だぞ?てか三瀬川ってあんな顔するんだ……。なんていうかすごいママみを感じる……。
その後子供のように「はーい」と返事した小原は三瀬川と手を繋ぎイチャイチャしながら歩いて行ったのだった。けっ!お幸せにしろってんだ!
「おまたせー」
指を嚙みながら小原の背中を見つめていると、買い物袋を2つ持ったクレアが現れる。俺は「おう」と言いながらクレアの持っていたレジ袋を持とうとすると、「ダメ」と言いながら俺の手を払いのけた。
「折角持ってあげようと思ったのに……」
「だって、友太君しんどそうだから」
俺は深いため息を付いて、飲み干した2本目のエナジードリンクの空き缶を見せ、元気だと言う事をアピールする。
「エナジードリンクを飲んだから、大丈夫だ」
「ダメ……栄養ドリンクは一時的な物だから……」
首を横に振って俺の手助けを拒んでいるが、彼女のか細い腕に持っている2つの買い物袋には、ミネストローネの材料はもちろん大量の紅茶のティーバックやお弁当に入れるおかずや数日分の食料がぎちぎちに入っていて、とても家まで持っていける量ではない。
「お前、そんな量が入った買い物袋を2つも家まで持っていけのか?」
「大丈夫! 私こう見えても鍛えてるから!!」
ふん!と言いながらクレアは筋肉ムキムキな男の人がよく見せる、マッチョなポーズをして見せるがその腕には力こぶの山はできていなかった。
「全然鍛えてないじゃん」と心の中で笑っていたつもりだったが、顔に出ていたようで。
「あー! 笑ったー!」
「だって……全然力こぶができてないんだもん……」
こみ上げる笑いを耐えていたが、とうとう噴き出してしまう。だって、自信満々にふん!って言いながら腕に力入れてできてないんだもん……。
「ひどいよ……そんなに笑うなんて……」
「あ、ごめん……」
目に涙を浮かべたクレアを慰めようと頭を撫でようとするが、また手で払いのけられてしまう。
「友太君なんて、もう知らない……!! 友太君にもう頼らないもーん!!」
「お……おい!!」
目から大粒の涙を流してそう叫ぶと、そのまま俺の家の方に走り去って行ってしまった。俺もその後をふらつきながらも後を追いかけて行った。すごいスピードで走って行ったが、あんな大量の荷物を抱えて体力が持つんだろうか?
「はぁ……はぁ……、私って……こんなに……体力なかったけ……??」
あー、やっぱり駄目だったよ。ようやく追いついた俺は歩道の真ん中で座り込んだクレアを見て心の中でそう呟いた。
「無理するからだぞ……?」
俺はため息交じりに、クレアが持っていた片方の買い物袋を持った。
「だ、だって……友太君しんどそうだったから……」
「心配するな、俺は大丈夫だ」
「ありがとう……友太君。でも友太君も無理して倒れないでね?」
「あぁ。その時はクレアがおぶってくれ」
なんて冗談を言ったがクレアは笑顔で「いいよ、運んであげる」と快く承諾してくれた。でも体力もない、力もないクレアの前でさすがに倒れるわけにはいかないな……。
「小原君と三瀬川さんすごく仲良かったね」
「付き合ってるからな……」
「だからあんなに仲がいいんだねー」
仲が良いってレベルじゃないと思うけどな……とさっきクレア出てくる前の出来事を思い出していた。あれは絶対赤ちゃんプレイなるものやっていそうな関係だ。
あ、駄目だ。想像したら一気に寒気が強まった……。もう想像するのはやめよう
「私達もいずれ、あんな関係になるのかな?」
「え?」
俺の渾身の「え?」という言葉で俺達がいた空間の時間が止まってしまう。今なんて言った?聞き間違いじゃなければ俺とクレアはいずれ付き合うのかな?って言ったか?
いやいや俺達は義理ではあるけど兄妹だぞ?そんなのあってはならない……。
「わ……私何をいって!! 私達は兄妹で……」
クレアは顔真っ赤にして、頭から真っ白な湯気を出していた。やっぱり今の言葉無意識に出ちゃった感じなんだな。
いや、まさか素が出ちゃったとか!?まぁそんな事はクレアに限って……。
「わ……私何をいって!! 私達は兄妹で……」
「そ、そうだよ……」
気付けば俺とクレアはお互い顔を見合わせていた。そして慌ててすぐ逸らす。相手は妹だぞ?なんでこんなに今ドキドキしてるんだよ……。
クレアも相当ドキドキしてるのか、落ち着かない様子で歩いていた。俺は……植野とクレア、どっちと付き合っているんだろう?いや今はそんな事考えないでおこう……。
「ようやくついたな……」
そうこうしているうちに気づけば家の前についていたのだった。
家に入り買い物袋をキッチンの上に置くと、家に帰ってきて安心したのか一気に倦怠感と悪寒が本気を出してきた。
「本当に大丈夫? 目がうつろになってるけど……」
「大丈夫、大丈夫だから……」
クレアの心配をよそに俺は自分の部屋へ戻るべく階段を登ろうとするが、視界がうつろになってきていてなかなか最初の一歩が踏み出せないでいた。
くそ……この階段を登れば休めるのに……もって……くれ……。次第に俺の体には力が入らなくなってきていて、しおれた花のように倒れ込んでしまう。
「友太君!? 大丈夫!?」
俺が倒れた音を聞いて駆けつけたクレアの声を最後に俺の意識はだんだんと遠のいてしまっていた。
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