第8話(1)神奈川遠征で学んだこと

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 横浜市のとあるフットサルコート……。


「来たわ! 川崎ステラよ!」


「先頭を歩くのが、百合ヶ丘恋よ!」


「怪我をしていたらしいけど、復帰したのね……」


「それもあってか、川崎でも連戦連勝らしいわ!」


「この大型連休は神奈川遠征を敢行、6戦全勝だってよ!」


「目下絶好調というわけね……」


「それで……なんで全員スカジャンなの?」


「さあ……?」


「あれが好調の秘密?」


 ギャラリーたちが到着した川崎ステラのメンバーを見て、囃したてる。


「ふふっ、注目を集めているわね……」


「なんで試合会場にまでスカジャンなのよ!」


 笑う恋に対し、雛子が声を上げる。


「目立つから良いかなと思って」


「恥ずかしいわよ!」


「目立ってナンボだろうが」


「こういう注目は別に要らないのよ!」


 雛子は真珠に言葉を返す。


「さすがは横浜プレミアム……ギャラリーの数も多いですね……」


 ヴィオラが周囲を見回して呟く。


「特に宣伝したわけではないのだけど……流石は地元の強豪チームね」


 恋が微笑む。魅蘭が顎に手を当てる。


「ふふっ、この鷺沼魅蘭の噂を聞きつけてきたのですわね!」


「うちのチームなら、キャプテンくらいしか知られていないと思いますよ」


 ヴィオラが冷静に指摘する。


「むうっ……」


「ま、まあ、プレーの内容次第で知られることになると思うよ?」


 円が魅蘭をフォローする。恋が柔軟をする最愛に声をかける。


「最愛ちゃん、緊張していない?」


「いえ、大丈夫です」


「そう、いつもながら頼もしいわね」


「掌に『フットサル』の字を三回書いて飲み込んでいますから」


「い、意外と古典的なことをしているのね……」


 恋が苦笑する。


「わあっ!」


「ん?」


 歓声を聞いて、真珠がコートの反対側に目をやる。揃いのチームジャージを着た女子たちがコートに入り、ウォーミングアップを始める。雛子が呟く。


「横浜プレミアムのご登場ね」


「ホーム側が遅れてご登場とは、良いご身分だな……」


 真珠が睨みつける。雛子が注意する。


「ちょっと、威嚇するのはやめなさいよ?」


「威嚇じゃねえ、目で殺すつもりだぜ……」


「小物ムーブやめなさいよ」


「こ、小物だあ⁉」


「うん? あまり見たことのない顔が多いような……」


「Bチームですね」


「び、Bチーム⁉」


 ヴィオラの言葉に円が驚く。


「……これはナメられたものね~」


 恋が笑みを浮かべる。魅蘭が首を傾げる。


「? どういうことですの?」


「Bチームっていうことは要するに控えってことよ」


「ひ、控え⁉」


 雛子の答えに魅蘭が驚く。


「まあ、主力を出すまでもないという判断でしょう……」


「くっ……」


 ヴィオラの言葉に魅蘭が唇を噛む。


「なんの! こっちは『特攻天女Aチーム』だぜ!」


「おおっ⁉ なんか響きがカッコいいですわ!」


 真珠の発言に魅蘭が目をキラキラと輝かせる。


「意味が分からないことを言わない!」


「鷺沼さんに変な影響を与えないでください」


 雛子とヴィオラが突っ込みを入れる。


「なんでもやってのける命知らず、不可能を可能にし巨大な悪を粉砕する……⁉」


 最愛も目をキラキラと輝かせる。


「最愛、そこに反応するの⁉」


 円が驚く。


「これはまた意外な……」


 恋が目を細める。


「ピィー!」


試合開始の笛が鳴る。早速横浜プレミアムがボールを支配し、リズムよくボールを繋いでいく。川崎ステラの動き出しが全体的に鈍い。ベンチに座る魅蘭が声を上げる。


「ああ、何をやっていますの⁉」


「遠征の疲れもあるのだろうけど、全体的に緊張しているわね。まあ、相手は超のつく強豪だから無理もないけれど……」


 魅蘭の隣に座る恋が冷静に分析する。


「そんなことを言っている場合じゃ……ああっ⁉」


 横浜プレミアムの選手がゴール前に抜け出し、シュートを放つ。


「……!」


「なっ⁉」


「と、止めた⁉ 決して簡単なコースじゃないのに……!」


「あのキーパー、何者だ⁉」


 最愛の見せたファインセーブに会場がどよめく。恋がニヤリと笑う。


「ワンプレーで流れを変えたわね……いや、掴み取ったと言うべきかしら?」


「皆さん! 落ち着いて行きましょう!」


「!」


 最愛の声に川崎ステラのメンバーがハッとする。


「この神奈川遠征で学んだことを忘れないで下さい!」


「……」


「鎌倉の大仏さんは製造者不明だということを!」


「「「何の話⁉」」」


 最愛の意味不明なコーチングに真珠、雛子、円が声を揃えて突っ込む。


「ふふっ……」


「ヴィオラさん!」


 最愛がボールをヴィオラに送る。ヴィオラは笑顔から一転、真剣な顔つきに戻る。


「……反撃と行きましょうか!」


「よっしゃあ!」


「もらった!」


「それっ!」


 真珠、雛子、円が立て続けにゴールを決める。


「か、川崎ステラ、強い……!」


「ふふっ、これは出る幕はないかもしれませんわね……」


「ええ、魅蘭ちゃんがね」


「ワタクシが⁉」


 恋の言葉に魅蘭が困惑する。

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