どら焼き

 手紙を見て不思議に思う。


(なんだ……? これ……? 料理を語れ……? 好きな料理の良さをここで語るのか……? 変わったキッチンだ………。それにしても"〜リーブ or ダーイ〜"とはいったい……。この状況からして恐らくだろうが、今考えていても仕方がない……。ここから出る方法を考えてなければ……。)


 そう思いながらも、好きな料理を想像するが、改めて考えると意外と出てこないものだ。マイクが用意されているという事は、これに向かって語ればいいのだろうが、両の手足が拘束されてる状態で演説するというのは、なんともシュールな光景だ。しかも観客は皆無である。演説のリハーサルと思おうにも手足が拘束されている状態では流石に無理がある。


 (とはいえ、ここから出るには他に方法はなさそうだ……。)


 そう考えているとある食べ物が思い浮かんだ。それは、昔ながらの和菓子。茶色く香ばしくて、ほのかに甘い生地であんこを挟んだもの。とある有名な青狸の大好物である。


 恐る恐るマイクに近づき、怯えながらゆっくりと語りだす。


「どら焼きが……、いいと思うんですよ……。未来から来た……、青狸の大好物で……、あんこが……、甘くて……、覆っている生地との……、調和が……、なんとも言えない……、美味しさで最高だー……。」


 何が起こるかわからない恐怖で、やや震えながら喉から絞り出すような声で語る。


(……。)


 しばらくの沈黙が続いた後に、チンという音が鳴る。キッチンにある電子レンジからの音だ。恐る恐るレンジを開けると。そこには、全体的に茶色く焦げ、その縁が黄色い上下の生地に覆われているあんこの和菓子、どら焼きが1つ入っていた。まるで発言終わりのタイミングに合わせて出来上がった感じだ。


(いつの間に……。これ……食って……いいんだよな……?)


 語った料理が、いきなりレンジから出てくるという、奇想天外な出来事に、至極当然のように驚きながら、レンジからどら焼きを取り出して、両手でふわっとつまみ、ゆっくりと口にする。


(これは……!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る