◆閑話: 仇敵、相討つ魔獣たち 後編
重い
そこは、どれだけ行こうが決して途切れることはなく、真上を仰ぎ見れば遙か天空まで続く、ひたすら巨大な岩壁の一角に空いた小さな
短期間に傷を負いすぎた獣の生命力は、既に限界が近い。
一見すると、その肉体に負傷の痕跡など残っておらず、万全な状態を保っているように思える。
だが、先ほどまで戦っていた白き獣――風の魔獣によって負わされた
地の魔獣として身に備わった無尽蔵の生命力により、どうにか死の淵から蘇ることはできたが、この
かねてより縄張りを巡って争い合う仇敵だった風の魔獣。
本来であれば、不意討ち以外に怖れる要素などありはしない相手だ。
……が、厄介なことに、その不意を
いや、水と火の魔獣を
ここ数日の間、今この時も、身の内より湧き上がってくる
ひょっとすると、他の奴らもこれに掻き立てられ、無謀な戦いを挑んできたのだろうか。
この地に何かが起ころうとしている。
――と、頭を
生来より肉体に宿してきた大地の力が……急速に、抜けていく……。
体力の回復速度と
それは、あまりにも唐突で理不尽な裏切りであった。
最も信頼していた
黒き獣にはそうとしか考えられない。
何故だ? 力を寄越せ! この雪原の! 氷壁の! 最強の王は自分だったはずだ!
猛り、唸り、
代わりに周囲へ響き渡ったのはガラガラガラ!という崩落する岩の音。
岩壁の上から降ってきた大きな落石が運悪く頭部へと直撃し、黒き獣の意識は遠のく。
バカな!? この俺が……大地の攻撃によって生を終えると言うのか……?
続けて降り注いできた
二度と目覚めることなき眠りへ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二匹の動物が
共にふわふわの毛に覆われ、丸っこい体型をした動物たちである。
風でも吹いてこようものなら、ころころと転がってしまいそうな危うさが、その場にはあった。
どうやら、
「にゃあ!」
「……わふ!」
一方は白い子猫、もう一方は黒い子グマだ。
小さな鳴き声を上げて不機嫌をアピールする二匹だが、互いにまったく引く様子を見せない。
徐々に
身を低くし、長い尻尾を立てて尻を左右に振り始める子猫。
短い後ろ足で立ち上がり、やはり短い両手を左右に広げる子グマ。
「みゃっ!」
先に仕掛けたのは子猫! 真っ直ぐ子グマへ跳び掛かる。
「わふっ!?」
子グマは前足を振るって子猫を迎撃しようとするも目測を誤って空振り。
だが、子猫もまた目測を誤り、両前足を空振りしながら勢い余って子グマへ激突してしまう。
――ごつん!
「……にゃあ」
「……わふ」
頭同士がぶつかり、涙目になりながら二匹は共にうずくまる。
だが、痛みを
子グマは小さな手を振り上げ、ぺしぺし!と子猫を叩く。
仰向けになった子猫は、後脚でとととっ!と連続蹴りを繰り出して迎え撃つ。
もはや、どちらかが疲れるまで戦いは終わらないというのか!? そこへ――。
「おいおい、ケンカするな。もう一個、まだ石が残ってたから」
「そもそも黄色い石はベア
現れた人間の男女が二匹を抱き上げ、気を
一瞬で機嫌を
閑話: 仇敵、相討つ魔獣たち 【完】
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お忘れの方もいらっしゃいますよね。
前半のクマは「第二章 - 第三話: 寝覚めと覚醒」で遭遇した巨大グマです。
二人が初めて解体し、食料や防寒具として有効利用しました。
さて、以上を持ちまして第一部は閑話も含めてすべて終了となります。
次回からはいよいよ第二部の幕開け。
これまでとはまったく違う物語となっていくはずです。
引き続き、お楽しみいただけたら嬉しいです!
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