読み切り〜季節の移ろい〜

もっちゃん(元貴)


春と言えば、桜の季節だ。


私は樹齢1000年を超える古代桜である。

私がいるこの場所は、街外れの小高い丘の上にあった元神社の跡地に数十年前に公園が建設されてそこにひっそりと植えられている。


神社は、昭和の大地震の影響で本殿も跡形もなくなったので今は別の場所に移動したが、私は巨木であり、また国の天然記念物だからそのままここに鎮座することになったようだ。


私は今まで約1000年間、人々の営みを丘の上から見守ってきた。台風や地震などの災害や戦争を掻い潜って生きて来た。

神社があった時代から、今の公園になってからも私の前で、宴会や祭りが行われて人々の喜怒哀楽をみていた。それぞれ個々の人の表情などをみては面白がったり時には涙したこともあった。


月日が流れるにつれて若い頃は、なんとも思っていなかったが、歳をとるにつれて思うことがある。


『やはり人間は笑顔が一番である』


私の命が尽きるまで、あと何回見られるか楽しみだ。






「ママー、ほんとぉにこの木こんな事思っているの?」と小さい子供が装置に向かって指を指しながらお母さんと会話をしている。


実は最近、私の横に最新AI機能を装備した自動思考解読装置が設置された。おかげで私の考えることがダダ漏れだ。それも年表みたいに毎月1回映しだされるからたまったもんじゃない。


「へー、こんな便利な装置ができたのね」と驚いた表情をして、続け様にこう言った。

「じゃ、2人で笑顔をみせてあげましょうね」

「うん!」

そうして私に2人は手を繋ぎながら最高の笑顔を見せてくれた。


そうそうこの笑顔!これが私の生きる全て!うまい酒が飲める!と思った古代桜だった。


この時私はまだ知らなかったのだ。

昨日から装置がアップデートして1週間おきに1回の解読になったことを。


終わり

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